5階層制圧戦
本日2回目の更新です。
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──5階層制圧戦
自分の得物よりリーチの長い敵との戦い。
相手の圧倒的リーチに対して、どうするか?
相手が撃つ前に懐に飛び込んでしまえばいい。
海軍時代は第6世代の熱光学迷彩があった。だが、雨が降っているとどうしてもカモフラージュ率が落ちるのが弱点だった。
そういう場合は敵が銃を撃つ前に手首の腱を切って武装解除し、そのまま心臓や頸動脈、あるいは腎臓を滅多刺しにする。敵はそのまま出血性ショックで死亡する。数秒という時間で。抵抗する間もなく。
日本海軍の特殊作戦部隊はその手の技術を軍用格闘術として叩き込まれていたし、久隆も何度も訓練を受けた。
要領は同じ。敵の懐に飛び込み、攻撃を不可能にし、致命傷を負わせる。
久隆に向けて振り下ろされようとするハルバードが久隆に達する前に久隆がオーガの首を刎ね飛ばした。オーガの体がぐらりと崩れ、久隆はその死体を蹴って、2体目に飛びかかる。2体目は味方のオーガを切ってしまうのでハルバードが振るえていなかった。好都合だ。
久隆はフルフルの付呪を信じてオーガの腎臓に当たるだろう場所に斧を叩きつける。
ビンゴ。
鎧は崩れ、オーガは悲鳴すら上げられず、地面に倒れる。
脆くなった鎧などただの負担でしかない。オーガの動きは鎧を纏っていないものより鈍い。そこに容赦なく久隆が攻撃を加える。
オーガの股間に向けて流れるように斧を振り上げ、それから苦悶の表情を浮かべるオーガの頭に斧を振り下ろす。オーガの頭蓋骨が砕け、オーガは地面に伏した。
鎧持ちオーガ3体の攻略はこれで完了。
だが、これで終わりではない。
オーガたちの戦闘の音を聞きつけたオークたちが駆けつけてくる。おこぼれに与かるつもりだったのかは知らないが、タイミングが悪かった。
久隆はフルフルの付呪を受けており、さらに戦闘で自分の感覚を研ぎ澄ましている。
向かってきたオークの数は9体。既にオークなど敵ではないと思えるかもしれないが、オークたちは今回は槍で武装している。槍というのは集団戦において非常に効果を発揮する武器である。
リーチは相変わらず向こうの方が上。その上、数も多い。
では、どうするか?
戦闘で生き残ることと相手を殺すことに全力で集中している久隆の出した結論はシンプルだった。久隆はまずは撤退した。撤退したのだ。
「レヴィア、フルフル! 下がれ!」
「分かったの!」
曲がり角を曲がり、久隆はそこで止まる。
オークの集団の先頭が角を曲がろうとしたところで、久隆が襲い掛かった。
確かに槍はリーチが長い武器だ。
ここが平原ならば久隆はやられていた可能性もあるだろう。
だが、ここはダンジョンだ。ここは閉所だ。
リーチの長さは時として弱点になる。この狭い曲がり角ではリーチの長い槍は取り扱いにくく、逆にリーチの短い斧の方が有利になる。
久隆は敵を曲がり角で待ち伏せ、敵が槍を向けるのに時間をかける隙にオークに襲い掛かった。オークたちはようやくそこで自分たちの武器の弱点を理解したようだが、もう何もかも遅すぎる。
久隆はオークの頭を潰し、首を刎ね、次々にオークを潰していく。
オークたちは我先にと押し寄せたために格好の標的になっており、反撃のチャンスすらほぼなかった。貴重な反撃のチャンスを得たオークが槍を突き出すが、久隆は身を翻してそれを躱し、槍を叩き折ると、お返しに顔面に斧を叩きつけた。
「た、た、た、大変です! 向こうからも来ます!」
「こっちは片付いた。レヴィア!」
最後のオークを仕留めて、久隆はレヴィアたちが下がった方に向かう。
鎧を纏ったオーガが2体とオークが6体ほど。やはりハルバードと槍。どうやらダンジョンコア殿は地形というものを考えていないらしいなと久隆は思った。
「『斬り裂け、氷の刃!』」
レヴィアが迫りくるオーガたちに向けて氷の刃を生成して叩き込む。
直接的な効果は低いが、敵は怯んだ。歩みが止まり、守りの姿勢に入ろうとしたり、逆に相手に飛びかかろうとしたりとバラバラの行動に出る。
先ほどはオーガが先頭だったが、今度はオーク6体が前衛だ。
「フルフル! 付呪を!」
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
オーガの鎧が脆くなり、表面が崩れるのを確認すると2人3列でやってくるオークに久隆が襲い掛かる。オークたちは槍を突き出すが、銃弾の飛び交う戦場を駆け抜けてきた久隆の今の頭は完全に戦闘に順応した形になっていた。
槍を躱し、オークの腕を叩き切ると槍を一気にオークの心臓に向けて突き立てる。それも3体同時に。串団子のように貫かれたオークたちは一斉に崩れ、もう1列のオークたちが見るからに動揺する。
それを逃すような久隆ではない。
久隆はオーク3体の頭を次々に叩き割ると、槍を奪い、オーガに向けて投擲する。
オーガの脆くなった鎧を貫いて槍は心臓に突き刺さった。オーガが狂ったように悶え、槍を引き抜いた。それと同時に地面に倒れる。
最後の1体となったオーガは鎧に加えて兜を被り、完全に守りを固めていたが、今さらオーガ1体、それも鎧がフルフルの呪符で崩れかけているオーガ1体など敵ではない。
だが、油断はしない。手負いの獣は用心して殺せ、だ。
久隆はオーガがハルバードを振り落とした瞬間にオーガの懐に飛び込み、兜を被っても無防備な首を狙って斧を振るった。
ゴロンとオーガの首が転がり、それが消滅する。
「周辺に敵の気配なし。一先ずはクリアだ」
振動と音から久隆がそう結論する。
「う、う、動きが人間の動きじゃない……」
「久隆は凄いの!」
ドン引きのフルフルと嬉しそうなレヴィア。
「レヴィアとフルフルのおかげだ。俺は魔法なんて使えないからな。本当に助かっている。さて、この調子で進めていこう。地図を作成し、次の階層への階段を探す」
「レッツゴーなの!」
先ほどの戦闘で魔物はほぼ全滅しており、遭遇した2体ほどのはぐれたオークに斧を叩きつけると魔物はそれで一掃された。
ダンジョンのマップもなんとか完成し、次の階層への扉も見つかった。
そこで4階層の階段に置いてきた罠を取ってきて、今度は5階層の階段の付近に置く。
「しかし、オーガはほぼ鎧付きが確実になってきたな。15階層はどうなっているんだ? もっと酷いんじゃないか?」
「え、ええ。オークも鎧を纏っていますし、ゴブリンは弓を使ってきます。それに加えてジャイアントオーガまで出没する始末で。それも超深度ダンジョンですから、どれもレベルが高くて……。そのせいで誰も彼もが疲弊しています」
「エリアボスは10階層にいるそうだが、他の階層にはいないのか?」
「斥候の報告ですと20階層に何かがいるそうです。ですが、10階層でマンティコアとなると20階層では何に出くわすか……。当分、拠点は動かせそうにありません……」
はあああっとフルフルが深いため息をついた。
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本日の更新はこれで終了です。
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