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ダンジョンにおける教導

……………………


 ──ダンジョンにおける教導



 翌日、久隆たちは弁当を抱えてダンジョンに潜った。


 既に物資は昨日の夕方にやってきた魔族たちに渡している。当面の食料の心配はしないでいいはずである。少なくとも彼らが米食に飽きるまでは。


 日本人は気にしないが災害非常食の主食は米である。パンじゃない。そして、ヴェンディダードではパン食が中央付近の食事のメインだった。米食やパスタなどを味わうところもあるが、基本はパンだ。


「では、行くか」


「おー!」


 久隆は10階層でプランターを抱え、60階層まで一気に潜った。


「久隆殿! 人選は済ませたぞ。彼らを連れて行ってもらいたい」


「分かった。俺たちから教えられることを教えよう」


 魔族を教導するに当たって、久隆たちはチームを分けた。


 久隆とレヴィア、マルコシアとフォルネウス、フルフルとサクラ。


 この2名3組のチームが魔族たちの部隊に付いて、戦闘を指導することになっていた。


「あの、自分などが教えられることなどあるのでしょうか……?」


「何を言っている、フォルネウス。お前はもう立派な兵士だ。指揮官としてはまだ見習いかもしれないが、魔族たちはお前から多くのことを学べるはずだ。お前は積極的に俺たちのやり方を学び取ろうとしていたのだからな」


「は、はい! 了解です!」


 フォルネウスは嬉しそうにそう告げるとマルコシアと合流した。


「本来なら近接ひとり、魔術ひとりの組み合わせにしたかったんだが、うちの捜索班はちょっと変わった編成をしているからな」


 サクラは遠近両用、フルフルは付呪に特化。このチームだけは専門の部隊に配置しなければならないなと久隆は思った。


「さて、ではアガレスに指定された部隊は集まってくれ!」


 久隆がそう告げると、3つの部隊が整列した。訓練された兵士と魔法使いらしく、綺麗に整った整列だ。整列の素早さと整い方でも、その国の軍隊の規律を知り、そこから練度が導き出せるというが、まさにその点ではヴェンディダードの兵士の質はいい。


 そう、素材はいいのだから、しっかりと教導すれば戦力としては申し分なくなる。


「この中で付呪師のいる捜索班は?」


「はい! 我々です!」


「よし。そちらにはフルフルとサクラのチームをつける」


 付呪師は付呪師同士、教え合うこともあるだろう。


「後の部隊は魔法使いの割合が多い方は?」


「我々の方かと」


「では、そちらにマルコシアとフォルネウスをつける」


 マルコシアもフォルネウスも魔法を使う。魔力量の管理などのことについてアドバイスできることもあるだろう。


「最後は俺たちが付く。よろしく頼む」


「お願いしますっ!」


 最後の部隊が頭を下げ、久隆も頭を下げる。


「イポスか?」


「はい。今回もよろしくお願いします」


 部隊の中には見覚えのある顔があった。以前、ワームと戦ったときに手助けしてくれたイポスだ。彼女がメンバーである部隊が久隆たちの受け持つ部隊だった。


「指揮官は?」


「私です。バルバトスと申します。どうかよろしくお願いします」


「よろしく頼む」


 久隆は手を差し出し、バルバトスという騎士と握手した。


 バルバトスはフォルネウスより若干年齢の高い騎士で、アガレスが近衛少尉は2名と言っていたので、階級に属さない一般騎士なのだろう。


 それでも体格はしっかりしているし、指揮官として相応しいたたずまいしている。


 これは楽ができそうだなと久隆は思った。


 いや、楽をしてはダメだと久隆はすぐに否定する。指揮官として完成しているならば、さらにワンランク上の指揮官にしなければ。現状で満足していられるほど、魔族たちに余裕はないのである。


 バルバトスの捜索班は5名チームだった。騎士が3名、魔法使いがイポスと他1名。


「俺たちが担当する階層は61階層、62階層、63階層だ。61階層は3つの部隊が合同で掃討作戦を行う。まあ、腕試しというところだ。本番は62階層から。62階層と63階層の掃討は、俺たちだけでやる。相手は重装ミノタウロスだ。今までの魔物の中では一番手ごわい」


 70階層より下にリザードマンがいることはまだ他の魔族たちには伝えられていない。だが、いずれ70階層より下に攻め込む際には分かる。その時は重装ミノタウロスたちのように攻略手段を確立しておかなければならない。


「まず確認しておきたいことがある。重装ミノタウロスについての知識はどれほどだ?」


 久隆が全員に問いかける。


「他のミノタウロス同様、魔法に弱いですが、隙のない防御をしていると」


「そうだ。魔法は効果がある。だが、弱点は少ない。頭を潰すか、目を串刺しにするか。それぐらいしか方法はない。その限られた弱点を的確に狙わなければ勝利はない」


 久隆はレヴィアとイポスたち魔法使いたちを見る。


「まずは魔法で敵を攪乱する。魔法で殺せるなら殺してもいいし、攪乱するだけでもいい。そして、重装ミノタウロスが混乱したら斬り込む」


 久隆が今度はバルバトスたち騎士たちを見る。


「魔法で攪乱されている間に、俺たちは重装ミノタウロスの弱点を突く。眼球と頭部。どちらでもいい。狙いやすい方を狙え。ただし、勝負はほぼ一瞬で決めろ。仕留め切れないと思ったら、その時点で下がれ。攻撃をまともに受けようとは思うな」


「了解」


 重装ミノタウロスの攻撃はダンジョンの壁や天井すら破壊する威力がある。まともに受ければ、常人ならひとたまりもなく叩き潰されるだろう。


 もっとも久隆は例外だ。


 彼の四肢はもはや人間や魔族のレベルがどうのこうのの次元ではない。やろうと思えばアーマードスーツと格闘戦をして勝利できるだろうし、軍用トラックすら持ち上げられるだろう。それほどまでに極まっているのである。


 だから、久隆だけは付呪もなしで、重装ミノタウロスの攻撃を受け止められるし、何なら弾き飛ばしてカウンターを叩き込める。


 フォルネウスもレベルが上がっているが、こういう荒業ができるのは久隆だけだ。


 なので、久隆は自分を基準にするつもりはなかった。あくまで魔族たちの平均的な部隊が、ちゃんとした戦術で敵を相手にして勝てることを望んでいた。優れたエースパイロットがひとりいても戦局は変わらない。戦術を理解した並みのパイロットが大勢いることの方が勝利に繋がるのである。


 つまりは物量。魔族たちは広い視野で見れば、戦力規模でダンジョンの魔物に劣っている。だが、上手くやれば階層ごとの局地的戦況では数の優位に立てる可能性がある。最初のころと違って、多くの魔族が助け出され、戦力として加わっているのだから。


 ドイツ軍のエースパイロットの撃墜数が連合軍のエースパイロットに比べて大きいのは、結局のところ少人数のエリート部隊をいつまでも前線に配置しておかなければならなかったことにある。余裕のある連合軍は戦功を上げたパイロットは教育係にし、パイロットの平均値を上げることとパイロットの数を増やすことにした。


 そして、戦争に勝ったのは連合軍だ。確かに連合軍は物量で勝利したかもしれない。現代戦の勝敗を決めるのは工業力かもしれない。だが、その物量をいかに効率的に使い、戦略に反映させるかも試されるものなのだ。


……………………

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