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地下3階層

本日1回目の更新です。

……………………


 ──地下3階層



 地下3階層に入ってすぐには敵と出くわさなかった。


 ただし──。


「オークよりデカいのがいる。数は5、6体。お仲間か?」


「分からないの。フルフル、本当に地下10階層以上はオークとゴブリンだけ?」


 レヴィアはフルフルの方を向いて尋ねる。


「そ、その、とにかく魔力が完全に切れる前に最上層を目指そうと必死だったので、もしかすると別の魔物もいるかもしれないです……」


「そういうことか。じゃあ、余計に用心して進まないとな」


 足音は距離は600メートルほど離れているだろうが、はっきりと地面が振動している。恐らくオークの体格よりひと回りは大きい。よくよく観察すれば、この地下3階から天井が高くなっている。どんな化け物が出てきても驚きではない。


 可能な限り不意を打ちたいので、進軍は極めて用心して。足音を立てず、要所要所ではライトを消し、敵に気づかれないように進む。


「近いぞ。デカい足音の主だ。数は2体。まずは敵味方識別だ」


「任せるの」


 曲がり角から手鏡を使って久隆がレヴィアに曲がり角の先にいる魔物の姿を見せる。


「こ、これはオーガなの……。それも超深度ダンジョンのオーガなの……。これは不味いの……。レヴィアたちで倒せるか分からないの……」


「面倒な敵ということか。弱点とかあるのか?」


「神聖魔法に弱いぐらいなの。他はその強靭な肌と筋肉で弾いてしまうの」


「ふうむ。フルフルの付呪をつけてもらってもダメか?」


「分からないの。でも、スルー出来る相手ではないの」


「なら、やるしかないな」


 久隆がフルフルに視線を向ける。


「フルフル。さっきの付呪を頼む。不味くなったら俺を置いてでもレヴィアを連れて2階層に逃げろ。すぐに後から続く」


「わ、分かりました。その、無理はしないでくださいね……?」


「ああ。引き際は心得ている」


 フルフルはそう告げて杖を久隆に向けた。


「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」


 久隆の体が再び付呪によって強化される。


「よし。ありがとう、フルフル。レヴィア、速攻で叩き込め。すぐに突撃する」


「分かったの」


 久隆は斧を構え、レヴィアが角から飛び出した。


「『斬り裂け、氷の刃!』」


 あれから久隆はレヴィアから説明を受けたのだが、この氷を攻撃手段に用いる魔法は別に空気中の水分を凍らせているわけではなく、魔力で氷を生み出しているそうだ。


 今回の魔法は鋭く研ぎ澄まされた氷の刃がオーガ──オークよりひと回り大きく、顔は鬼瓦のようにいかつく、醜い魔物だった。筋肉はレヴィアの説明にあったようにかなりのものなのか、ごつい体型をしている。ボディビルダーやラガーマンのようだ。


 確かにこいつはきついかもしれないなと思いつつ、レヴィアの魔法が切れてからすぐに久隆は飛び出していった。


 レヴィアの放った氷の刃はオーガたちを怒らせ、混乱させるのには十分だった。オーガたちは連携せずに猪突猛進で久隆に向けて進んでくる。


 敵がいかに強力であろうと一対一ならば、勝算はあるはずだ。


 久隆はオーガが手に握っていた棍棒の攻撃を回避すると、その攻撃でできた隙に乗じてオーガの首に斧を叩きつけた。レヴィアの説明を受けて、切り裂くには力が必要だと思い、攻撃後の隙が生じない程度に思いっきり叩き込んだ攻撃は──。


「なんなの!?」


「あ、あれは……!」


 オーガの首は刎ね飛ばされていた。


 鮮血が噴き出すようなこともなく、オーガの体は消えていく。


「よし、上出来」


 久隆はそのまま2体目との戦闘に突入する。


 オーガは棍棒を振り回すが、所詮は怒りに任せたでたらめな攻撃だ。当たれば致命傷だろうが、当てられないのでは意味がない。久隆はまずはオーガの棍棒を握る右腕の腱を叩き切って得物を奪い、それから痛みに悲鳴を上げるオーガの頭に斧を叩き下ろした。


 オーガは即死。死体は消えて大量の金貨と宝石が残る。


「確かに面倒な相手だったな」


「どこがなの!? 瞬殺だったの!」


「しーっ。大声を出すな」


「う、けど、全然余裕だったの。普通はあんなに簡単に倒せる相手じゃないの」


「そうなのか?」


「当り前なの。まず斧の刃が食い込んだとしても首を刎ね飛ばしたり、頭を叩き潰したりはできないの。首の筋肉も頭蓋骨もオークの比じゃないの。分厚いし、強靭。普通は弾かれているはずなの。どうしてあんなことができたの?」


「知らん。フルフルの付呪の効果がよかったんじゃないか? あれはとても体が軽くなる。あれがなかったらもっと苦戦していただろう。それにレヴィアの魔法もよかった。あいつらが2体同時に向かってきたら大変だったが、1体ずつ相手できたからな」


「むー……。確かにフルフルはとても優秀な付呪師だけれど……」


 そう告げてレヴィアがフルフルを見る。


「わ、私は普通に付呪をかけただけですよ! オーガを叩き潰すような腕力を発現させたわけではありませんからね! こ、この人間がおかしいんです! オーガ潰しです! 妖怪オーガ潰しです!」


「しーっ。静かになの」


「は、はい。すみません……」


 フルフルはびくっと震えると周囲を見渡した。


「大丈夫だ。足音は近づいていない。しかし、本当に付呪のせいじゃないのか? 俺は付呪のせいだと思うんだけどな」


「ふ、付呪にだって限度があります……。かたつむりの観光客を戦士にすることはできません……。人間を単騎でオーガを倒すような化け物にもできません……」


「いや、しかし、俺は普通に動いただけだからな」


「あ、あ、あれって普通の動きなんですか……?」


 フルフルは絶句している。


「まあ、いいの。レヴィアがいて、久隆がいて、フルフルがいればオーガも敵じゃないの。この調子でどんどんすすんでいくの」


「そうだな。原因は後で考えよう。今倒せるなら問題ない」


 そこで久隆がフルフルに視線を向ける。


「まだ魔力は足りているか?」


「あ、はい。問題ないです。けど、あまり無茶はしないでくださいね……。今のところ、超深度ダンジョンのオーガが倒せるなんてあなただけなんですから……」


「ああ。用心する」


 フルフルたちにとって久隆は唯一の前衛だ。久隆がいなければレヴィアとフルフルだけではこのダンジョンを踏破することはできない。


「最善を尽くす。まずはこの3階層のマップ作りからだ」


 それから3階層の探索が始まった。


 ダンジョンの広さは必ずしも同一というわけではなく、3階層はオーガが出没するというのに狭かった。当然ながら、そのため戦闘が強いられる。


 久隆はレヴィアの援護魔法とフルフルの付呪を受けて合計6体のオーガを屠り、加えてオーク10体とゴブリン10体を屠った。


 久隆のレベルは上がらなかったが、レヴィアがレベル7に上昇した。


「これでもっと強力な魔法が放てるの!」


「期待しているぞ」


 久隆はレヴィアを褒めてやりながら、地下4階層に続く階段を見下ろした。


……………………

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新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] そうか・・・ かたつむりの観光客がいるような世界ということは、死体が消えるのはミンチになったからなのか・・・? きっと、本を読むたびに血縁関係がなくて今まで会ったことがない生き別れた妹がつい…
[一言] elonaのような世界から来てるのか?やたらと人間不信なのはelonaのせいだったのか
[一言] > 「ふ、付呪にだって限度があります……。かたつむりの観光客を戦士にすることはできません……。人間を単騎でオーガを倒すような化け物にもできません……」 あれ、もしや魔族って、遺伝性エーテル…
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