不安な事
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──不安な事
「ポリカーボネートをメインとした複合素材のライオットシールド。軽くて、強度があります。耐火性を保証。防刃性能あり」
久隆は民間警備会社の防犯グッズ通販サイトの商品項目を読み上げて、買い物かごに商品を放り込んだ。
「フォルネウスはその籠手じゃ盾を持つのは難しいか?」
「些か辛いかもしれません」
「なら、とりあえずは俺が試してみよう」
クリックして買い物を進めると発送まで2日ですと表示される。
「災害非常食も追加で頼んだ。ミネラルウォーターも。それらが届いたら、療養を終えた魔族たちと一緒にダンジョン内に運び込もう」
もう何度目になるかもわからない物資補給である。
地下に潜っている魔族たちの規模も大きくなった。より多くの物資が必要になるのは仕方のないことである。
「ゴブリンロードとゴブリンシャーマンと違ってオークは大柄だし、重装オークともなると一撃で仕留めるのは難しい。なるべくオークロードとオークシャーマンを狙って攻撃を仕掛ける。特にオークシャーマンだ。遠距離火力持ちと撃ち合いはしたくない」
「そうですね。確実にオークシャーマンは仕留めるべきでしょう」
サクラが同意する。
「狙って仕留めるのはサクラ、お前が一番得意だ。任せていいか?」
「ええ。お任せあれ」
サクラならば任せられる。そういう確信が久隆にはあった。
サクラの義肢もやはり進化している。レベルアップなる珍妙な現象によって。それに彼女のコンパウンドボウも“生き物”としてダンジョンに認識され、レベルを上げているところであった。
奇妙な感じはするが、頼もしくはある。
「不安な要素は戦ってみないと分からないところがあるが、現時点で何か不安な点はあるか? なんでもいいので聞かせてくれ」
久隆はそう告げて全員を見渡す。
「やはり重装ミノタウロスがやばいの。ただのミノタウロスでも強敵だったのに、それが重装になっているというのは厄介なの。武器がなくても殴られただけでダメージが入ってしまうのね。鎧を纏ったミノタウロスに殴られたら死んでしまうの」
「確かに厄介な相手だ。油断はできない。最大の不安要素と言っていいだろう」
重装ミノタウロス。
まさに主力戦車と言っていいものだろう。ミノタウロスの機動力をそのままに防御面を強化している。
「オークと乱闘しているときにミノタウロスに突撃されると不味いな……」
久隆は戦闘計画を頭の中で思う浮かべつつ、そう呟く。
「優先度をつけておきませんか? どの敵から優先的に撃破しておくかを」
「そうだな。まずは最優先はオークシャーマンだ」
「続いては?」
「オークロードか重装ミノタウロスか。恐らくオークロードは通常の重装オークより機動性が高く、それでいて重装オークを引き連れている。そうしなければオークの戦闘力を上げる意味がない。次はオークロード、か」
「となると、重装ミノタウロスは後回しですか? 高脅威目標から叩くのがセオリーだと思うのですが」
「うーむ。悩みどころだな。オークロードと重装オークがどれほどのものか分からない限りは。オークロードを叩くことで、重装オークたちが大きく弱体化してくれるならば真っ先に狙うべきだろうが……」
レラジェたちの報告書には詳しい戦況などについては記されていない。当然だろう。彼女たちは戦闘を避けて、とにかく60階層まで潜って、そして戻ってきたのだ。
それは任務を怠ったというわけではない。任務はきっちりと果たしている。レラジェたちのおかげで久隆たちはダンジョン内にどのような魔物がいるのかを知り、そしてエリアボス対策が立てられるのだから。
しかし、情報が少ないのもまた事実だ。彼女たちは戦闘を避けているために、いざ戦った時に敵がどのような反応を示すのかが分からない。ここで必要とされるのは威力偵察だ。敵に実際に攻撃を仕掛けてみて、敵がどのような反応を示すのかを知ることが必要とされる。だが、現状そのような器用なことが行える部隊は存在しない。
結局のところは久隆たちが敵の反応を確かめ、知るしかないのである。
少なくとも50階層までの攻撃のときのように出没する魔物が全く分からないという状況でないだけマシだ。
「臨機応変に、というと聞こえはいいが、ある意味では無策であることの証明だ。ある程度の基本的な戦闘計画は立てたい。特にもしウァレフォルと合同作戦を行うのであればなおさらのことだ」
寄せ集めの部隊で戦闘計画すら存在しないというのは不味いというのを通り越している。確実に混乱するし、連携など見込めない。
だが、敵の反応が分からなければ、実際に戦って見てどうなのかが分からなければ、基本的な戦闘計画すら立てられない。久隆たちはあくまで人間を相手にした戦闘の訓練を海軍で施されただけであり、ミノタウロスやオークは専門外だ。
相手の戦力がどの程度のものか分からずに戦闘計画は立てられない。重装ミノタウロスにしても、オークロードにしてもだ。
「仕方ない。俺たちで威力偵察を行おう。重装ミノタウロスだけの54階層までは俺たちだけで突破。そして55階層で威力偵察を実施。その結果を踏まえて戦闘計画を立て、55階層からウァレフォルたちと合同作戦だ」
「了解なのね!」
不安な点がいくつも残ることになったが、現状これ以上のことは計画できない。
アガレスは少しでも魔物を減らしておこうかと提案していたが、その提案に乗って威力偵察を頼むということはできただろうかと久隆は考える。
いや、やはりダメだと久隆は首を横に振る。予備は予備として温存しておかなければ、今は戦力はとても貴重なものなのだ。
「俺たちにできる限りのことをしよう。それぞれがそれぞれのベストを尽くす。だが、ベスト以上のものを狙うな。ダンジョンでは頼れるのは僅かな仲間と自分だけだ。負傷すればそれだけ仲間の手を他のことに使わせることになる」
「ええ。分かっています」
フルフルが頷いて見せた。
「俺はもう少し戦闘計画について考えておく。他は休んでくれ。今日は何か作るから、スーパーに買い出しに行く。何か食べたいものは?」
「ここの食べ物はなんでも美味しいから歓迎なの」
「分かった。特にリクエストはなしだな。手早く作れるものにする」
久隆はそう告げてノートパソコン上に記入した50階層以降のダンジョンの魔物について睨むように見つめる。
ゴブリンシャーマンと同じならば間違いなくオークシャーマンも脅威だ。
これは最優先で問題ない。
だが、その次だ。
オークロードがどれほどオークの能力を上げるのか。それは重装ミノタウロスより脅威なのか。それが分からなければ順番は付けられない。
幸いモンスターハウスを除いては、魔物の数は増えすぎない。オークたちが増えた分、重装ミノタウロスは減少する。
「さあて、どうしたものか」
久隆は画面を睨んで考えた。
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