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アラクネクイーン対策

……………………


 ──アラクネクイーン対策



「奴は糸にかかった獲物を認識して攻撃してくるとみて間違いない」


 久隆はそう言いながら、ダイニングでノートパソコンを開く。


 ダイニングにはフルフルを除いた捜索班のメンバーが集まっていた。


「となれば、だ。囮を使うという手がある」


「誰かを囮にすると?」


「違う。あの地上を動き回るちっこいロボットは見ただろう? あれの親戚を使う。ドローンのご登場だ。こいつでアラクネクイーンを攪乱する」


 久隆がそう告げて見せたのは1個5000円台の中国製ドローンだった。


「使い捨てにしても懐の痛まない代物だ。カメラも一番安い奴。こいつを糸に向けて突撃させてわざと引っかからせる。そうすればアラクネクイーンは大混乱だ。あっちにも敵がいるぞ。向こうにも敵がいるぞ。敵の集団が攻めてきたぞと」


「これってどうやって動くの?」


「このプロペラで空を飛ぶんだ。一度届いたら使わせてやる」


「うーん……。今はそれよりフルフルに早く良くなってほしいの……」


「そうだな。だが、朱門が付いている。安心していい。あいつは名医だ。フルフルもきっとすぐによくなる。心配するな」


「分かったの」


 フルフルがいなければアラクネクイーンと戦うどころではない。


 かといってフルフルに早く良くなれと急かすわけにもいかない。


 朱門の治療が上手くいき、フルフルが体力を取り戻してくれるのを祈るばかりだ。


 訓練されたわけでもない少女を訓練された軍人のテンポで連れまわして、とうとう倒れさせたのだから、今回ばかりは久隆の大失態だ。いくらレラジェたちが貴重な人材であっても、フルフルはさらに重要だ。


 命の値段など付けれないかもしれないが、ときとして命の価値が問われることがある。戦場で役に立つ人材がひとりでも生き残れば、友軍全体が救われることになるかもしれない。そのひとりを助けるために別のひとりが犠牲になっていても。


 そして、戦場は残酷な生存競争の場だ。残酷なことが時折起きる。


 だが、基本的に軍は兵士をひとりも見捨てはしない。軍が兵士を見捨てるようなことがあれば、それは軍全体の士気に関わる。自分たちも見捨てられるのではないかと思ってしまえば、もうその軍で信頼関係は成り立たない。


 だから、軍は死体になっていようと兵士たちを戦場に置き去りにしない。


 久隆もその気持ちだったのかもしれない。レラジェたちが生きていようと、または死んでいようと、ともに戦った仲間を見捨てるなという海軍時代の本能で行動していたのかもしれない。


 しかし、それでも久隆は助けられる限りの魔族を助けたい。死なせたくない。


「こいつを囮に使いつつ、サクラが再び発炎筒付きの矢でアラクネクイーンを射抜いて、奴の居場所を明らかにしておく。そして、その隙に生存者を救出し、上層に脱出させる。それからはこっちのターンだ」


 久隆はそう告げて偵察で分かった4つのフロアをノートパソコン上に描く。


「奴の図体だとフロアとフロアを繋ぐ通路で必ず一度速度が緩まる。それが攻撃のタイミングだ。火炎瓶からマルコシアの魔法、レヴィアの魔法。あらゆるものを使ってアラクネクイーンを攻撃する」


「出番ですね」


 マルコシアが頷く。


「それから、手すきのものが松明を所持する。アラクネクイーンは火を恐れるそうだ。松明でも威嚇には使えるだろう。隙を見てフォルネウスが一撃を加えるのもありだ」


「努力します」


 フォルネウスが頷く。


「レヴィア。新しい魔導書の方はどうだ?」


「氷系統の魔法で間違いなかったのね。実際にどのようなものかは使ってみないと分からないの。それにもう少し読み込まないと使えないのね」


「分かった。そっちはそっちで任せる。万全を期してくれ」


 久隆はそう告げる。


「ドローンは家電量販店に買いにいく。悪いがお前たちは留守番だ。弁当を持って帰ってくるから、それで我慢してくれ。フルフルもいないんじゃ、外食で暢気に過ごそうという気にもならないだろう」


「そうなの! フルフルがよくなるのを待つのね!」


「オーケー。決まりだ。作戦決行に備える。今日はスーパーの弁当だ。買ってくるから、お前たちは先に風呂を済ませておいてくれ。しっかり休めるようにな。フルフルほどでないにしても、お前たちも魔法を使って疲れただろう?」


 フルフルも魔力を相当消耗したが、レヴィアとマルコシアも魔法の連続だった。彼女たちも相当負担がかかっているはずだ。


 久隆は今回のことで魔法を使うことの大変さを知った。


 魔法は体力を消耗しないようでやはり大きな負担がある。連続して使用し続ければ、反動が返ってくる。その反動は無視できるものではない。フルフルのように倒れてしまうということもあり得るのである。


 これから魔法も慎重に運用しなければと久隆は考える。


「こういうことはどういう頻度で起きるんだ?」


「戦場ではままあることです。魔力を消耗し、回復し、消耗し、回復しの繰り返しになりますから。けど、フルフルはレベルアップで相当魔力が増えていたのに、それでもあれだけ消耗するなんて、付呪の重ね掛けは負担なんでしょうね」


「そうか……。何かいい管理方法はないのか?」


「うーん。あたしがフルフルの魔力量を常に調べておいて、魔力回復ポーションを使用する頻度を記録すればなんとか。それでもフルフル自身が自分で管理しないと、決定的な解決にはなりませんよ」


「フルフルの自己管理か。今回のことで考えてもらわなければならないな。俺のミスでもある。フルフルがこういうことを背負い込むタイプなのは分かっていた。それなのに、何の備えもしなかったのは俺のミスだ。フルフルにははっきり伝えよう」


 フルフルが自分から不調を訴えるようなタイプでないことは分かっていた。彼女は内向的で、自分で抱え込むタイプだということは分かっていた。それなのに何の対策も行っていなかったのは指揮官である久隆のミスだ。


 部下のコンディションを把握しておくことは指揮官の務め。コンディションにはその部下の性格も含まれる。


 内向的な部下。楽観的な部下。活動的な部下。


 それぞれが表に出す体調の変化は異なる。


 現実に──いや、この世界にステータスなど存在しない。部下がどれほど疲弊しているかを数字で知るような方法はない。ナノマシンが筋肉の疲労の度合いを示す目安として、筋グリコーゲンの値を計測して、それぞれの視界に表示するものは開発された。だが、筋グリコーゲンの値だけで疲弊しているか否かは分からない。


 精神的な疲弊もある。人間の疲労は筋肉だけの疲弊ではない。


 だが、魔力は数字にできる。魔力の損耗は数字にできる。


 しかしながら、フルフルは内向的でなかなか疲労を示そうとしない。それに彼女にかかっている精神的な重圧は魔力の数字だけでは分からないだろう。


 結局のところ、指揮官は正確に兵士の疲弊を把握するのは難しいのだ。


 だが、それができなければ指揮官とは言えない。部下のコンディションを把握し、無茶をさせないことは重要だ。


 これが訓練された正規軍ならば、一定の体力は保障されているのでそこまで困ることはない。軍は兵士を徹底的に訓練する。特殊作戦部隊でなくとも、厳しい訓練が課される。行軍、行軍、行軍の演習。重い荷物を背負って歩き続ける。自動小銃を抱え、機関銃を抱え、迫撃砲を分解して運び、歩き続ける。


 それによって兵士の体力は均一化される。


 精神的な疲弊についても高いストレス下に置くことで、耐えられるようにする。訓練での失敗に対する懲罰としての訓練。パワハラまがいの訓練は今ではほとんど行われていないが、いかに効率的に兵士をストレス下に置くかについてはずっと考えらている。


 兵士たちが不条理に思うことでも、実戦では重要なことなのだ。


……………………

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