再びガーデニングコーナーへ
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──再びガーデニングコーナーへ
その日も久隆は朝6時に起きた。
「おはようございます、久隆さん」
「お、おはようございます」
台所にはサクラとフルフルの姿が。
「毎日はしてくれなくていいんだぞ。俺だけでもできるからな」
久隆としてはホストとして、彼女たちを養う立場にあると思っていた。
「そう仰らず。席で待っていてください」
「そうか。悪いな」
久隆としては朝の日課がなくなるわけなので、少し生活リズムが乱れる。
だが、たまには人が作ってくれた朝食というのもいいものだと思う。
「当番制にしないか? 俺、フルフル、サクラで。こういうものは担当を決めてやったほうがいいと思うのだが、どうだ?」
「い、いえいえ。わ、私は好きでやっていますので。心配なさることはないですよ。サクラさんも私に任せてもらっていいのですが」
「あらあら。フルフルさん。まだ地球の家電、あまり使いこなせてないでしょ? オーブンもまだ使えてないし、だから私のことを手伝ってくれればいいのよ」
「むぐ。そ、それもそうですね……」
フルフルががっくりと肩を落とした。
「おはようございます!」
「おはよ──あーっ! フルフル! また抜け駆けしてる!」
フォルネウスとマルコシアが起きてきて、マルコシアが叫ぶ。
「起こしても起きなかったじゃないですか……。私のせいじゃありませんよ……」
「親友なら起きるまで起こしてよー!」
マルコシアは何やらご立腹の様子だった。
「ふわあ。騒がしいのね。ご飯は?」
「フルフルとサクラが作ってくれたぞ。ふたりに感謝して食べろよ」
「流石はフルフルなの。サクラもなかなかやるのね」
トーストにジャムを塗って口に運ぶレヴィア。
「さて、諸君。今日の予定だが、午前中はホームセンターのガーデニングコーナーへ行って、魔力回復ポーションの原材料になるかもしれない植物を探す。午後はそれを10階層まで届ける。それ以降は明日を待ってからだ」
久隆は食卓に着いた全員に日程を説明していく。
「そして、今日の夕食はバイキングだ。ショッピングモールまでいく。ホームセンターやショッピングモールで揃えておきたいものがあれば言ってくれ」
「久隆さん。アーティファクトになる斧を紹介してくれますか? 私もサブとして購入しておこうと思うんです。軍用ナイフではちょっとばかり頼りなくなる状況が多いですから。相手があんな巨大な化け物になると軍用ナイフでも殺せるか」
「分かった。紹介しよう」
サクラがいざというといき前衛に出てくれるのは助かる。
「レヴィアも斧が欲しいの! 斧でミノタウロスをやっつけるの!」
「お前には無理だ。危ない。何か魔法の威力が上昇するようなアイテムはないのか?」
「むー。杖があるといいのね。フルフルが杖を持っているでしょう? 宝石を嵌めた材木でできた杖。それがあると威力はちょっと上がるの。けど、レヴィアは杖を使った魔法を体験していないので多分無駄なのね」
「ふうむ。ここら辺で宝石はショッピングモールで少し売っている程度だな。まあ、使わないというならばいいだろう」
流石の久隆もそこまでの工作はできない。彼は木工職人ではないのだ。
「では、最初はホームセンターだ。準備しろ。後、美味かったぞ。ごちそうさま、フルフル。サクラ」
「はい」
フルフルは恥ずかしそうに顔を俯かせ、サクラは小さく微笑んでいた。
そして、留守番にフォルネウスが残ることになり、久隆たちはホームセンターに向かう。ここで植物──魔力回復ポーションに使える植物を買うのが第一の目的だ。その次の目的はサクラのために斧を買うこと。
「じゃあ、フルフル、マルコシア。植物選びは任せるぞ。実際のところどういうものがいいんだ?」
「そうですね。まずは味がいいものです。苦いものは好ましくありません。概ね錬金術の課程で苦みは取り払うのですが、苦みが強い植物だと難しいです。それから植物の吸水性の高さ。あのダンジョンでは水の代わりに魔力が供給されます。だから、吸水性に優れた植物はより多くの魔力を宿すでしょう」
「なるほど。水をたっぷり吸う植物がいいんだな。だが、俺にはそういう知識はない。ちょっと先にサクラの斧を買ってくるから、それまでに決まってなかったら、店員に聞いておいてやる。まあ、まずは探してみてくれ」
「了解です!」
久隆はレヴィアとサクラを連れて、店内の工具売り場を目指す。
「アーティファクトになったのはこの辺の斧だ」
「職人の手作り、が条件でしたよね?」
「ああ。今のところはそう思われる」
「では、これにしましょう」
サクラの斧選びはあっさり終わった。
「それにしても斧とは。確かに東南アジアの戦争でも使ったことはありますけれど」
「だったな。民兵を排除するのに銃が使えなくて、そこらの武器でどうにかしなければならなくなったときに、斧を使って叩きのめしたんだよな。首に一撃。今でも義肢はその時の動きを覚えているようだ」
「不思議ですよね。私もアーチェリーをしていたときの癖が義肢に反映されているんです。義肢にすれば全てがリセットされるものだとばかり思っていたのに」
久隆たちの義肢──正確にはそれを制御するオペレーティングシステムには、これまでの義肢使用者たちの積み重ねてきたデータがある。義肢使用者のビックデータ。
久隆たちは自分と体格や職業、年齢が似通った人物のデータを選んで選択し、それらをメインに義肢の動きを構築した。だから、リハビリはあっという間に終わった。これまでの義肢使用者たちのデータがあったからこそ、久隆たちは楽ができた。
だがしかし、その時点で久隆たちの四肢から細かな癖やこれまでの体験は消え去ったはずだった。今の久隆たちの四肢を動かすのは義肢使用者たちのビッグデータであって、久隆たちの経験してきたことではない。
それでもなお残っている久隆たちの四肢の癖や記憶。朱門ならどのように分析するだろうか? 一度彼と話をしてみたいものだと久隆は思った。
「さて、フルフルたちを見に行こう。もう決まっているといいんだが」
久隆たちは再びガーデニングコーナーへ向かう。
「フルフル、マルコシア。決まったか?」
「はい! このローズヒップというのがいいみたいです。これにすることにしました。上手くいくことを祈るのみですね……!」
マルコシアはローズヒップの苗を見せてそう告げた。
「そうだな。では、新しいプランターを買って、それとセットでダンジョンに持ち込もう。俺もローズヒップなら知っている。ハーブティーにするハーブだ。味が悪いということはないだろう」
「そうそう。店員さんにそう聞きました」
久隆たちはプランターとローズヒップの苗を購入すると、それを車に積み込み、再び自宅へと戻ったのであった。
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