ワームとの戦いに向けて
本日1回目の更新です。
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──ワームとの戦いに向けて
「ミノタウロスの頭蓋骨は相当固いものだと思われます。なので頭部の中でも脆弱な目を狙いましょう。目から脳まではそこまで離れていません。そして、魔物も脳を破壊されると死にます。狙う時は落ち着いて、冷静に」
サクラを見つけた。サクラは魔族たちにミノタウロスの討伐方法を教えている。
「サクラ。ワームの攻略手段が分かった。準備のために一度地上に戻る」
「分かりました。それで方法というのは?」
「ワームの頭と尻尾を押さえる。そうすればワームは方向転換できない。俺とフォルネウスがワームの頭を押さえるので、レヴィアたちには後方から魔法を浴びせてもらう」
「なるほど。確かに有効そうですね。あの狭いダンジョンの廊下なら、ワームも器用には動けないでしょう」
サクラはそう告げて納得した。
「残るはレヴィアとフォルネウスだが」
久隆が周囲を見渡した。
「それでね、それでね。久隆はそいつを投げ飛ばしたの! ミノタウロスを、それも稀少個体を投げ飛ばしたのよ! ミノタウロスは50メートルぐらい吹き飛んで、最後にはトドメを刺されたの。久隆は凄いの!」
「流石ですね、久隆様は……!」
レヴィアとフォルネウスを見つけた。
彼女は38階層での戦闘のことについて魔族たちに話しているようだった。
「レヴィア。一度地上に戻るぞ。ワームを倒せそうだ」
「そうなの! 流石は久隆なの!」
「いや。これは俺というより、経験のあった魔族のおかげだ」
久隆は魔族たちの方を向く。
「助かっている。何か経験のあるものは遠慮なく俺に語ってほしい。俺はダンジョンのことも魔物のことも中途半端にしか分かっていない。ベテランの知識は歓迎する」
「はい!」
魔族が久隆の作成したマニュアルを必要としているように、久隆もまた魔族たちのこれまでの経験を必要としていた。弱点や討伐方法。そういうものについては魔族たちに優れた点がある。久隆も彼らから学ばなければならない。
「では、地上に戻ろう。ミノタウロス戦のためのマニュアルを作成しなければならないし、それにワーム戦のための準備も必要だ。順調にいけば、俺たちは40階層を突破して、さらに地下へと潜れるぞ」
「やってやるのね!」
久隆たちは地上に戻る。
地上は時間はずれていなかった。
「よう、久隆。今回は随分と長く潜ってたな。爺さん婆さんが様子見に来てたぞ」
朱門は裏口でビールを味わっていた。
「どれくらいたっていた?」
「5日。食料は足りたのか?」
「畜生。俺は1日潜っていただけのつもりなんだが」
地下に進めば進むほど、地上との時間差は拡大してるように思われる。
「それで、怪我人などは?」
「火傷の治療はできるか?」
「ああ。ナノマシン治療なら火傷跡も残らず綺麗に治癒できる」
そこで朱門は何か思いついたような顔をする。
「さては、ついにドラゴンが出たんだな?」
「違う。ワームだ。ドラゴンとは別種らしい」
「ワーム? 俺には釣りに使う道具しか思い浮かばないが……」
「装甲蛇だ。重さ8トン、全長6メートル」
「うへえ。それで火を吐くのか?」
「そうだ。だから、万が一の場合、火傷の治療ができるか尋ねた」
「任せとけ。しっかり治してやる。人工皮膚も貼り替えてやれるぞ」
「助かる」
これで後方支援は大丈夫となった。
万が一、久隆たちが火傷を負っても朱門のところに運び込めば怪しまれることなく治療することが可能と分かったのである。
「それにしても俺も見てみたいな、ワーム」
「記念撮影しているような暇はない。だが、動画は残っているぞ」
「見せてくれ」
朱門が久隆のタブレット端末を覗き込む。
そこには無人地上車両が撮影したワームの姿が映っていた。ダンジョンの薄暗い場所からずるずると音を立てて現れ、ドラゴンのような頭部を持った巨大な蛇が移動していくのが見える。
「こいつは凄い。本当に凄い。これは新種発見ってレベルじゃないぞ」
「ダンジョンの中はこういう化け物でいっぱいだ。で、後で人工筋肉の方を見てくれるか? ちょっとした裏技──というのも変だが、魔法を使ったので、人工筋肉が傷んでいないか確かめておきたい」
「了解。準備しておく」
朱門は頷いて家の中に入っていった。
「さて、今日は疲れただろう。俺は今からワーム戦のために鋼板をホームセンターで買ってくる。お前たちは自由に休んでおいてくれ。晩飯はファミレスだからな」
「了解なのー」
久隆はそう告げて自動車に乗り込むと後部座席を畳み、鋼板を載せられるようにしてからホームセンターに向かった。
ホームセンターには様々なものがおいてあるが、鋼板もそのひとつだ。
アジアの戦争中、本土爆撃──巡行ミサイルによる攻撃の危機にさらされたとき、政府から地方自治体に各家庭にシェルターを作ることが求められた。その時に出回った大量の鋼板が今も残っているのだ。
なんなら、簡易式の核シェルターすらホームセンターでは扱っている。
「機動隊の盾は防弾性のものもあるが、今回は火炎放射を防ぐだけでいい。そこまで厚みは必要ないだろう。あまり厚いと重量のせいで扱えなくても困るからな」
久隆は鋼板2枚を購入すると、レジで怪訝そうに見つめられながらも、それを抱えて自動車に向かった。
「球磨さん?」
「ああ。どうしました?」
また村の年寄りがやってきて話しかけてきた。
「球磨さん。ここ最近、忙しいみたいだけど大丈夫なのかい?」
「ええ。ちょっといろいろあって」
模造人形があっても疑われるには疑われるかと久隆は舌打ちしそうになった。
「それでね、これよかったら食べて。トマト、たくさんとれたから」
「ありがとうございます」
「でね、悪いんだけど、うちの水道管見てもらえないかね? 最近どうも調子悪くて。前に球磨さんに見てもらったときはよく動いたんだけど」
「では、近々。でも、専門の業者を呼ぶことも考えておいてくださいね」
「すまないねえ。助かるよ、球磨さん」
最初から専門の業者に見せればいいだろうに、どういうわけか久隆を頼るのだ。しかし、トマトももらったのでお返しをしないわけにはいかない。
頭の中のやるべきことリストに水道管の様子を見ると書きながら、久隆は家に一時帰宅した。そして、買ってきた鋼板を抱えて裏口まで運ぶ。
「お帰りなの、久隆!」
「ああ。ただいま。で、俺は今から用事だ。年寄りの家の水道管を見て来なくちゃならん。すぐに終わらせてくるからもうちょっと待っててくれ」
「そうなの? レヴィアも手伝いに行っていい?」
「ダメだ。ゲームでもしてなさい」
レヴィアを連れて行くとややこしいことになる。
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