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30階層の偵察

本日2回目の更新です。

……………………


 ──30階層の偵察



「では、ウァレフォル。こいつらを20階層まで送ってやってくれ。そして、俺が持ってきたレトルトがゆを説明書通りに作って、食べさせてやってくれ。一先ずはそれで落ち着くはずだ。固形物をいきなり食べさせるなよ?」


「了解です」


 ここでウァレフォルたちとは別れた。


 ここから先は慎重な仕事だ。


「レヴィアたちはここで待っていてくれ。俺とサクラ、そして偵察部隊の面子だけで30階層に何が潜んでいるかを調べてくる。戦闘は避けて、偵察だけだ。だから、お前たちはここに残れ。いいな?」


「大丈夫なの?」


「ああ。大丈夫だ。必ず戻ってくる」


「分かったの。気を付けるのね」


 レヴィアは手を振って久隆たちを送り出した。


「行くぞ、レラジェ。前の偵察では何も掴めなかったんだろう?」


「残念ながらその通りです。我々も危機感を覚えて短時間で脱出してしまいましたから。ですが、今回は何か掴むまで逃げません」


「危険を冒すことになるが無茶はするな」


 久隆はそう告げてレラジェたちを先頭に30階層に続く階段を降りていく。


 階段は報告にあった通りに螺旋階段で柱に巻き付くようにして、階段が最下層まで続いている。相当広い空間のようで周囲は真っ暗かつ底が見えない。


「何も見えないな。ダンジョンの底は調べたのか?」


「ええ。魔族の死骸が何体か」


「死体から何か分かるかもしれない」


 久隆たちは未知の怪物の脅威を感じながら、着実に階段を降りていく。


 しかし、手すりも何もないので自然と足は遅くなる。この高さから落ちれば義肢を装備していようと死んでしまうだろう。


「音が聞こえる」


「音ですか?」


「羽ばたく音だ。鳥が羽ばたく音。それが聞こえる」


 久隆の耳は空を飛ぶ何かを掴んでいた。


「レラジェ。いつでも逃げられるようにしておけ。一度ライトを使う。そうなったら向こうもこっちに気づくことになる。いいか?」


「はい」


 久隆は慎重に、慎重に音源を探り、そして胸ポケットのライトをオンにした。


「あれは……」


「グリフォン!?」


 鷲の半身と獅子の半身を持った怪物の姿がライトで照らし出された。


「待て。まだ音がする。別方向からだ!」


 久隆が素早くそちらを向くとまた空を飛ぶ怪物の姿が見えた。


 今度は鷲の半身と馬の半身を持った怪物だ。


「ヒポグリフだ……。なんてこと。30階層のエリアボスは2体なの」


 レラジェが呟くようにそう告げた。


「敵はこっちに気づいている! 逃げろ、逃げろ!」


「急げ!」


 久隆は斧を抜いたまま最後尾でレラジェたちが脱出するのを確認する。


 レラジェたちが29階層に脱出した瞬間、グリフォンが久隆に向けて飛び込んできた。久隆は斧を構え、グリフォンの鷲のような前足による一撃を叩き返す。


 それで危険だと判断したのか、グリフォンは一時撤退した。


 久隆もその隙に29階層に逃げ去った。


「30階層には何がいたの!?」


「グリフォンとヒポグリフです。30階層のエリアボスは2体の飛行系魔物です」


「なんてことなの……」


 レヴィアはレラジェからの報告を聞いて呆然としていた。


「相当やばそうだな」


「やばいなんてものじゃないですよ。今の我々では戦えません。あの螺旋階段を降りているときに攻撃されたらひとたまりもありませんし、我々の対空戦闘能力はごく限定されたものです。グリフォンかヒポグリフ、どちらか1体ならどうにかなったかもしれませんが、両方同時となると……」


「確かに対空戦闘能力はどうしようもないな」


 久隆の斧も空中の敵には意味がない。ましてあのように暗い空間では。


 ライトで照らせばある程度の視界は得られるが攻撃の的になるだろう。そして、何より螺旋階段を下り切るまで攻撃を受けないという保証はどこにもない。


 螺旋階段を下り切らなければ、まともな戦闘は行えないだろう。ちょっと間違っただけで地面に真っ逆さまだ。何かしらの対処手段を見つけなければならない。


「地面まで到達できればまだ勝機はあるんだが。螺旋階段がどれほど続いているか分からないからな。しくじった。螺旋階段を最後まで降りて、帰りにライトを使うべきだった。今さら遅い話だが」


「あの時は敵の正体を知らなければなりませんでした。何も知らずに降りていたら、二度と上がれなかったかもしれません」


「そういってくれるのは助かるが、肝心の情報がないのは事実だ」


 情報を何としてもでも手に入れる。相手の行動パターン、習性、限界。相手のいる場所についての情報。気温、湿度、騒音の有無などなど。それらを全て揃えることは、軍事であれ、刑事捜査であれ重要であった。


 いくら高性能の砲弾を作っても、砲弾が情報に裏打ちされていなければ威力は発揮できない。それが分かっていたからこそ、日本は日本情報軍という軍隊の顔をしたスパイを生み出したのである。


 情報軍発足はアメリカの先例に倣ってのことだった。アメリカでは情報活動のオプションとしての軍事活動の割合が増大し、かつ中央情報局(CIA)のような文民情報機関の失態が相次いでいた。


 役立たずの中央情報局(CIA)にドローンのトリガーを委ねておくのか、それともドローンの運用もそれを照準する情報集めも軍にやらせるのか。アメリカは後者を選び、アメリカ情報軍は発足した。


 文民から軍への情報機関の変貌。日本でもアジアの戦争が勃発する数年前から周辺が酷くきな臭くなり、自衛隊の早期の正式な国防組織への繰り上げと権限の増大、そして情報収集能力の向上が求められた。


 日本はアメリカに右に倣えし、日本情報軍を発足させた。日本情報軍はこれまで国防三軍が行っていた情報活動を一手に引き受け、かつ軍事情報機関が手を出してこなかった人的情報収集ヒューミントも行った。


 そのような日本情報軍はめきめきと頭角を現し、いつのまにか日本は世界に通じる情報機関を保有していた。


 海軍も情報軍からの情報で動いたことは少なくない。


 そのような組織が必要になるほどに、情報は重要だった。


 久隆たちも海軍独自で情報を集めて作戦に備えたこともある。


 そして、今回も情報が必要だった。


 あの空間の実際の広さはどれほどのものなのか。螺旋階段の高さはどれほどなのか。そういう地形的な情報が、あそこで戦ううえで必要だった。敵の正体だけが分かっても、自分たちが戦うフィールドについて分からなければダメだ。


 螺旋階段から降りた先の広さが分からなければどの程度戦力が展開できるか分からないし、螺旋階段の高さが分からなければ安全な戦闘可能地域に到達するまでの時間が分からない。分からないことだらけでは戦闘計画が立てれないし、最悪の状況を想定することもできない。


「30階層に再び偵察に向かおうと思う」


 久隆はそう告げた。


「し、しかし、あそこにはグリフォンとヒポグリフが……」


「分かっている。だが、俺たちはまだ役目を果たしていない」


 任務は全うすべし。それが可能である限り、任務は必ず果たさなければならない。


 今のところ、任務は絶対に不可能だと決まったわけではない。グリフォンとヒポグリフの脅威は確かにあるだろう。だが、それは不可能という要素にはならない。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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