28階層の合同殲滅戦
本日2回目の更新です。
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──28階層の合同殲滅戦
28階層に降りてすぐに久隆は索敵を始めた。
「オーク12体、ゴブリン30体。ゴブリンの中に1体、ゴブリンロードが混じっている」
「わ、分かるんですか……?」
「ああ。ゴブリンロードは他より重量があるが、オークほどではない。区別はつく」
「は、はあ……」
レラジェは久隆の索敵スキルに驚いていた。
「なるほど。先に敵の数と位置を把握するのですね。我々は闇雲に突っ込んでいました。これからは偵察を重視しましょう」
「そうしてくれ。敵の位置が分かれば、戦術も立てやすくなる」
もっともそう告げるウァレフォルが久隆並みの索敵技術を得るのは遠い話だろう。
それでも数名を先行させてダンジョンを進み、魔物の位置と数、種類を把握することができれば、それからの戦闘計画はかなり立てやすくなる。どの魔物から潰すべきか。どういうルートで進むべきか。それが分かるだけでも大きな違いだ。
「さて、敵の位置と種類は分かった。事前に説明した通り隠密で行く。先に潰すのはゴブリンたちだ。レラジェ、先行してくれ。ルートはこのルートで進んでくれていい」
「了解」
久隆が地図を指しながら指示をする。音と振動の位置からして相手の位置は概ね分かるので、後は具体的な進行ルートを確立し、レラジェたちが魔物の種類を正確に把握してきてくれればいい。
「ウァレフォル。お前たちは最後尾だ。隠密については俺たちのやり方を見ていてくれ。そして、いざという時は部隊を分けて動けるように。分けた部隊の指揮はフォルネウスに任せることになる」
「じ、自分がですか?」
フォルネウスが面を食らった表情をする。
「そうだ。サクラが指揮を補佐する。気楽にやれ。勝てるはずだ」
「……よし。やってみます。これまで久隆殿やサクラさんの指揮をただ眺めていたわけではないですから」
「その意気だ。もう重装オークくらいなら相手にならないだろう?」
「それはちょっと……」
「部隊を指揮するんだ。指揮官が自信を持つことも大事だぞ」
「は、はい!」
フォルネウスは気合いを入れた。
「では、ここからはお喋りなしだ。確実に目標を叩くぞ。いいな?」
「了解」
偵察部隊が先行し、久隆たちがそれに続く。
偵察部隊は交戦を避け、安全なルートを開拓し、ゴブリンロードのいる方向に進んでいく。合図のやり方は教えてあり、ゴブリンを見つけたらゴブリンたちに気づかれないように合図が来る手はずになっていた。
暫く進むと廊下の角で『姿隠しの外套』から姿を見せたレラジェが合図を送ってきた。いよいよ発見したようである。
「ゴブリンロード1体、ゴブリンシャーマン1体、ゴブリン長弓兵8体です」
「ゴブリン長弓兵から始末しよう。やり方を学んでくれ」
久隆はそう告げて小石を拾うと群れから僅かに離れたゴブリン長弓兵に当てる。ゴブリン長弓兵は仲間2名を伴って近づいてくる。
そして曲がり角を曲がった瞬間、久隆とサクラの軍用ナイフで、フォルネウスの短剣で喉を裂かれて出血性ショックでほぼ即死した。
「こうやって群れから離れた奴らを誘い出して仕留めていく。やってみろ」
「了解」
レラジェたちも群れから離れたゴブリン長弓兵を慎重に狙い、小石をぶつける。2体のゴブリン長弓兵がそれに気づいてレラジェたちの待ち構える曲がり角に向けて、のそのそと進んできた。
そして、曲がり角を曲がるとレラジェがゴブリン長弓兵の口を押さえ、久隆の記した戦闘報告書にあった通りにゴブリンの鎖骨下動脈を貫き、即死させた。もう1体の方も、レラジェの部下が無力化している。
「その調子だ。ここから狙える敵はいなくなった。少し進んで様子を探りながら、行動だ。静かに、静かにだぞ」
久隆はそう告げて偵察部隊を先行させる。
偵察部隊はまたはぐれたゴブリン長弓兵を見つけると小石で誘導し、仕留める。
残るはゴブリン長弓兵1体、ゴブリンシャーマン1体、ゴブリンロード1体となった。
「フォルネウス、ゴブリン長弓兵をやれ。サクラはゴブリンシャーマン。俺はゴブリンロードを仕留める。見本を見せてやれ」
久隆はそう告げると足音も立てず、殺気を感じさせず、静かにゴブリンたちの背後に忍びより、口を塞ぎ、喉を掻き切る。3人が同時にゴブリンたちを仕留め、10体のゴブリンたちは何もできぬままに壊滅した。
「このようにやる。覚えたか?」
「え、ええ。あまり自信はないですが……」
「仕方ない。最初は不安なものだ。だが、直に慣れる。とにかく経験を積むことだ。殺した魔物の数だけスキルが磨けると思え。さあ、ここからはお前たちの実力を見せてもらおう。机上の学習だけでは物足りないだろう?」
久隆はそう告げて、再び偵察部隊を先行させる。
偵察部隊は今度は自分たちで戦闘計画を練って戦った。ゴブリンを誘導するタイミングも、ゴブリンを殺害するタイミングも自分たちで練って戦った。
彼らは上手くやっていた。だが、流石に久隆たちには及ばなかった。
残りゴブリン長弓兵2体とゴブリンシャーマン1体というところで敵が気づいた。
「フルフル!」
「『そのものに魔法使いの加護を、その身を悪意ある魔の力から守りたまえ!』」
間一髪でフルフルの付呪が間に合い、ゴブリンシャーマンが気づいた同時に放った炎はレラジェたちには達さなかった。
「予定通りだ! 敵が気づいた! フォルネウス、フルフルの付呪を受けたらオークの殲滅へ! こっちはゴブリンたちを可能な限り迅速に排除する!」
「了解!」
フォルネウスはフルフルの付呪を受けるとウァレフォルの部隊を引き連れて、サクラの誘導でオークのいる方向に向かっていく。
「まずはこっちからだ。強行するぞ。レヴィア、魔法で攪乱だ」
「分かったの! 『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
ゴブリンシャーマンたちが嵐に襲われ、まるで動けなくなる。
そして、その隙に久隆が突撃した。
久隆はまずはゴブリンシャーマンの首を刎ね飛ばし、次にゴブリン長弓兵の頭を叩き潰し、そして最後にゴブリン長弓兵の首を裂く。
ゴブリンたちは瞬く間に壊滅した。
「す、すみません! 私たちがしくじったために……」
「戦場で計画通りにことが運ばないことなどよくあることだ。問題はそこからどう勝利へとリカバーするかだ。失敗して、それで終わりじゃない。失敗して、立て直すことまでできて立派な指揮官だ」
レラジェが謝罪すると久隆はそう告げる。
「さあ、ここからはスピード重視だ。オークとゴブリンの合流は避けなければならない。いくぞ。ここからでもまだ勝利は掴める」
「はいっ!」
久隆たちは残りのゴブリンたちがいる場所をめがけてひたすらに進む。
偵察部隊は先行しているが、もう彼女たちも隠れるつもりはない。ひたすらに敵に向けて突撃し続けている。
純粋な戦闘力ならばフォルネウスとサクラが率いている方が上だろう。だが、久隆たちにはフルフルがいるし、レヴィアもいる。そして何より久隆がいる。
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本日の更新はこれで終了です。
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