乱戦の危機
本日2回目の更新です。
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──乱戦の危機
それから久隆たちは姿の見えなかったゴブリン長弓兵2体とゴブリンシャーマン1体を撃破し、次のグループに向かった。
まだまだ気は抜けない。ゴブリンたちの数が多く、2グループに分かれている以上、乱戦の危険性は常に付きまとっているのだ。
乱戦だけは避けたい。
確かに鎧ジャイアントオーガと重装オーガは数を減らした。だが、その代わりに鎧オークが数を増やしている。乱戦になり、鎧オークと近接戦を行いながら、ゴブリンシャーマンやゴブリン長弓兵などの遠距離火力を同時に相手にしていたら犠牲者が出ることは避けられないだろう。
乱戦前に少なくともゴブリンシャーマンだけは始末する。
それだけでかなり負担は減るはずだ。
「この先。……視認した。ゴブリン長弓兵7体、ゴブリンシャーマン1体。また同時に来られても困るな。少しばかりばらけるのを待とう」
「了解なの」
久隆たちは歩き回るゴブリン長弓兵たちが散らばるのをじっと待つ。
そして、少しばかりグループが移動し、遅れたゴブリン長弓兵に向けて石を投げる。
ゴブリン長弓兵3体が注意を引かれてやってきて、そのまま消えた。
「残りゴブリン長弓兵4体とゴブリンシャーマン1体。長期戦だな」
「派手にやるっていうのはなしですか?」
「その自信があるか、フォルネウス?」
「いや、ないですね……」
フォルネウスも乱戦になった場合の自信はない。
「自信がないなら地道にやるしかないだろう。時間はかかるが、犠牲者がでるよりいい。ここで怪我をした場合、20階層まで戻らなければならん。応急処置ぐらいはできるが」
久隆はそう告げてゴブリンたちを尾行する。
ゴブリンたちのグループは徐々に移動する。しかしながら、1つのゴブリンのグループが別のゴブリンのグループに近づくことはない。
それだけはありがたいことだった。魔物に知性はないように見えるのだが、縄張り意識ぐらいはあるのだろうか。それともこれもダンジョンコアに制御された行動だろうか。
久隆たちはゆっくりとゴブリンのグループをつけ、遅れたゴブリン長弓兵を1体、1体仕留めていく。ゴブリンたちは仲間が減ったことに気づかず、ゆっくりとゆっくりと移動していく。そして、残りゴブリン長弓兵2体とゴブリンシャーマン1体となった時だ。
ゴブリンたちがついに異常に気づいた。
彼らは警戒の声を上げ、ダンジョン内の魔物たち全てに侵入者の存在を知らせる。
「畜生め。サクラ、ゴブリンシャーマンを殺せ。確実に。俺とフォルネウスはゴブリン長弓兵を仕留める」
「了解」
サクラがコンパウンドボウに矢を番え、敵を探すゴブリンシャーマンを射抜いた。
それが合図となり、久隆とフォルネウスがゴブリン長弓兵を叩く。
久隆の斧がゴブリン長弓兵の頭を砕き、フォルネウスの短剣が喉を抉る。
「連中が合流する前に叩くぞ! 幸いオークもオーガもジャイアントオーガも遠い! 連中が集まって乱戦になる前に叩ききる!」
久隆はそう告げて、レヴィアたちを連れて隠密行動は中止にし、ゴブリンたちのグループに向かっていく。オークたちが合流する前に、オーガたちが合流する前に、ジャイアントオーガが合流する前に、ゴブリンのグループを叩く。
ゴブリンたちも久隆たちの方向に向かっているので大急ぎで迎撃する。
「来たぞ。レヴィア、魔法で援護! フルフルはゴブリンシャーマンが見えたら付呪を頼むぞ! マルコシアは後方を警戒!」
久隆は慌ただしく指示を出し、ゴブリン長弓兵と対峙する。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
氷の嵐はゴブリン長弓兵の矢を完全には無力化できないが、少なくとも威力は落とせる。弾丸ですら風の影響を受けて狙いがぶれるのだ。もっとエネルギーの少ない弓では威力と命中率が落ちるのは言うまでもない。
しかしながら、自分に矢が向けられているのを見て、怯えないかどうかは話は別である。いくら威力は落ちるし、命中率は落ちると分かっていても、自分に向けて矢が向かってくるのに怯えないで戦うには勇気が必要だ。
そして、久隆にはその勇気があった。
銃弾が飛び交う戦場でも、砲弾が降り注ぐ戦場でも、仲間たちが倒れていく戦場でも、彼は我を失わず、戦い続けた。ナノマシンが恐怖を消しているとしても、少しばかりの勇気がなければ戦えない。ナノマシンは万能ではないのだ。
久隆は義務を果たすために戦う。そこに迷いはない。
レヴィアたちもだ。彼女たちも仲間たちを助けるために最善を尽くしている。
ゴブリン長弓兵たちは矢を放ってくる。だが、レヴィアの嵐と氷の礫で目をやられたことによって、矢は明後日の方向に飛んでいくのみだ。
その隙に久隆たちが斬り込む。
あたかも砲兵陣地に突入した歩兵のように遠距離火力しか攻撃手段を有さないゴブリン長弓兵たちを屠っていく。斧で頭を叩き割り、首を刎ね、腕を切り落とし、また首を刎ねる。ゴブリン長弓兵たちは瞬く間に殲滅されて行く。
「久隆さん! オークが後方から迫っています! 私が応戦していいですか!」
「頼む! マルコシアもサクラの支援を!」
厄介なことに事態は乱戦に向けて進んでいる。
「ゴブリンシャーマンです!」
そして、フォルネウスがゴブリンシャーマンが飛び出してきたのを確認した。
「フルフル!」
「『そのものに魔法使いの加護を、その身を悪意ある魔の力から守りたまえ!』」
フルフルの詠唱の直後にゴブリンシャーマンの杖の先から発される火炎放射器の炎のような長く伸びた炎が久隆に命中した。
「あいにくだったな。俺のところの付呪師はお前たちより優秀だ」
久隆はゴブリンシャーマンに肉薄し、首を刎ね飛ばした。
「サクラ、マルコシア! 後方は大丈夫か! こっちはオーガとジャイアントオーガの相手をすることになりそうだ!」
「問題ありません! もうじき殲滅です!」
「よし! そのままやれ!」
サクラたちは任せておいていい。久隆が細かな指揮を出す必要はない。サクラは命令を目的を理解し、自主的に行動する。これだからサクラが来てくれたことはありがたいのだと久隆は思った。
「前方、重装オーガ2体と鎧ジャイアントオーガ1体!」
「さて、デザートをいただこう」
25階層の魔物が殲滅されたのはそれから5分後のことだった。
「25階層攻略。いよいよ次からが未知の領域だ」
「ゴブリンがたくさんいるのね。さっきはギリギリだったけど、今度は大丈夫なの?」
「保証はできんな。出たとこ勝負になるかもしれない。それでも勝利は手にする。ここを抜けないと地下には潜れないんだ」
「そうなのね。頑張るの!」
久隆たちは26階層に続く階段を見下ろしてそう告げ合った。
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