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戦勝祝いへ

本日2回目の更新です。

……………………


 ──戦勝祝いへ



 集団セラピーは今度ということになり、久隆たちは朱門を残して地上に戻ることになった。朱門は患者の手当てを続けるのと、魔族の解剖学的見識を深めたいということで、魔族たちとともに20階層に潜っていった。


 久隆たちは地上に戻る。


 今度は時間があまりずれてはいなかった。時刻は16時。空模様は晴れ。


「さて、店を予約して、それから向かおう」


「楽しみなの!」


「ああ。これでまた一歩ダンジョン攻略が進んだ。20階層から5階層潜れば、現在確認されている最下層まで潜れる。逆に言えば、まだそこまでしか俺たちは把握していない」


 25階層までは確認済み。


 では、それより下は?


 不明だ。謎に包まれている。


 そもそもダンジョンの最下層が何階層なのかすら分からない。せめて目標がはっきりしていれば計画も立てられるのだが。


 それにべリアだ。べリアを見つけなければダンジョンの最下層でダンジョンコアを発見しても意味がない。彼女を一刻も早く助け出し、ダンジョンコアの制御を行ってもらわなければならない。


 前途多難である。


「20階層以降は私も大活躍しますからね、久隆様!」


「お前は今までも活躍してくれている、マルコシア。これからもよろしくな」


 マルコシアはバイコーン討伐戦で出番がなかったせいか、久隆の傍から離れようとせず、あれこれと世話を焼こうとしている。弁当箱の片付けやゴミの片づけなども申し出てくれた。久隆としては助かるのだが、雑用をあまりさせるのは微妙な気分だった。


「久隆さん。この村って荷物はいつ頃届きます?」


「普通の通販サイトでも2日はかかる。運送業者が1社しかカバーしてないんだ」


「それなら予備の矢とパーツは早めに注文しておいた方がいいですね」


 サクラは大活躍したコンパウンドボウの手入れに熱心だった。久隆はアーチェリー部ではなかったし、義肢になってからもそういうスポーツに手を出さなかったので分からないが、サクラはもっと威力のある弓を撃てるように調整しているとのことだった。


 フルフルの付呪があれば確かに腕力は上昇する。それを活かさない手はない。


「久隆様、久隆様。何か他にあります?」


「あらあら。頑張り屋さんね」


「ふんっ!」


 マルコシアとサクラの視線が交わると同時に弾けた。


「うー……。親友として微妙な気分です……」


「どうした、フルフル?」


「い、いえ。なんでも……。しかし、ついに地下20階層ですね。25階層までは分かっていますが、それ以降は全くの未知のエリアです。生存者がいれば救助しなければという思いがあるのですが、やはり空腹の人間にあの不思議な食事は難しいでしょうか?」


「ああ。そうだな。いきなり消化し難いものを食わせるのは不味いな。ダンジョン内での時間は不明だが、既にダンジョンが現れて14日が過ぎている。食事を口にできていないならば、消化のいいものが必要だろう。消化のいい保存のきく食事を仕入れておく」


「お願いします」


 フルフルはぺこりと頭を下げた。


「お前も随分と馴染んだな」


「そ、そんなことは……。で、ですが、あなたには感謝していますし、これからも、その、力をお借りするかと思います。なので、捜索班の和を乱さないようにと……」


「いいぞ。チームプレイが勝利のカギだ」


「そ、そうですよね」


 フルフルはちょっと硬いながらも笑みを向けた。


「じゃあ、全員、着替えて出発の準備を整えてくれ。特にフォルネウス。鎧のままじゃ外に出せないからな」


「了解です!」


 全員が身支度を済ませる間、久隆も作業服から余所行き用の服に着替えた。とはいっても、ドレスコードのあるような店ではないのでいい加減なものだ。


「準備できたか? いくぞ」


「いくの!」


 そして、出発だ。


 久隆の車は両親や祖父母たちを一緒に連れていくために6人乗りなので、捜索班が6人に拡大した今でも大丈夫だった。なお朱門は車に乗ってきたが、サクラは乗ってきていない。まあ、サクラが車を乗ってきても、流石に広い久隆宅でももてあます。


 自動車で1時間ばかりの郊外に店はあった。


「しゃぶしゃぶって何なの?」


「焼肉の茹でる版だ。ささっと肉をだしに浸して、タレをつけて食う」


「なかなかよさそうなのね。期待大なの!」


「しっかり食えよ。明日からは20階層より下の捜索だからな」


「スタミナをつけるのね」


「そうだ。スタミナだ、スタミナ」


 久隆たちは予約した客であることを告げるとテーブルに案内された。


「さて、今日は注文は飲み物だけだ。コース料理だからな」


「何が出るの? 何が出るの?」


「肉。野菜。豆腐。それらをだし汁で煮込んでタレでいただく。美味いぞ」


 久隆たちは6人用のテーブルに腰かけていたが、久隆は真ん中で両脇をフルフルとフォルネウスが固め、その向かい側のレヴィアを中心にマルコシアとサクラが腰かけている。席順については密かな争いがあったとだけ。


「しかし、朱門さんを置いてきてよかったんですか?」


「あいつは自分ひとりで気楽にやるのが好きなんだよ。軍医だったから集団行動についても他のただの医者よりも遥かに高い適性があるだろうが、軍隊を辞めた今ではそういうものに縛られたくないらしい」


 朱門は街の方にひとりで飲みに行ったり、ひとりでカップ麺を啜ったりしている。


 彼は今は孤独を好むようだ。体だけの付き合いとなる女性と以外は。


「朱門さんは中央アジア派遣でとお聞きしましたが、中央アジアは相当ひどかったそうですからね。軍病院でも中央アジア帰りの兵士は死んだ目をしていました」


「東南アジアだって地獄だったさ。戦争に天国はない。戦場に楽園などない。そのはずだ。それで間違いがないはずなんだ」


 久隆は自分に言い聞かせるようにそう告げた。


 戦場は地獄だ。命は羽根のように軽く、吹けば飛ぶ。カラシニコフが唸り声を上げ、タイヤと人の焼ける異臭が漂い、排ガスを出しまくる日本製のピックアップトラックが重機関銃を背負って走り回っている。


 仲間も死ぬ。敵も死ぬ。自分もいつ死ぬか分からない。


 なのに、それなのに。


 久隆は戻れるならばあの地獄に戻りたかった。


 久隆はマゾヒストではない。人を殺すことに快楽を覚えるサディストでもない。


 望郷だ。あそここそが自分の魂の場所だという気持ち。また仲間たちとともに肩を並べて戦いたいという懐かしさ。自分があそこでは絶対に必要にされているという安心感。仲間とともに悪党をやっつけたときの勝利の感情。


 そういうものが久隆を東南アジアの戦場に縛り付けていた。


 あそこに戻りたい。あそこでもう一度戦いたいと。


 だが、今はその気持ちもかなり薄らいでいる。


 それは裏山に出現したダンジョンのおかげであることは間違いない。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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