19階層掃討
本日2回目の更新です。
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──19階層掃討
オークたちの悲鳴と魔法攻撃の音に気づいてジャイアントオーガとオーガの両方が向かってくるのが分かった。間違いなく鎧ジャイアントオーガと重装オーガだ。
「フルフル。付呪の準備。重装オーガが来たら頼む」
「わ、分かりました」
フルフルはてんてこ舞いだ。
付呪師の重要性というのは既に理解されている。アガレスがフルフルを久隆たちに貸し出したままにしてくれているのが不思議なくらいだ。久隆が指揮官だったならば、どうやってでも手元に残そうとしただろう。
そうしなかったということはそれだけ久隆たちに期待しているという意味だと久隆は受け取り、その期待に応えようと考えた。
「来た。重装オーガだ。ジャイアントオーガは後ろから来ている。レヴィアはフォルネウスを支援してやってくれ」
「いいの?」
「ああ。こっちは大丈夫だ」
久隆はレヴィアを後方に回した。
「久隆さん。敵の鎧の強度は?」
「斧を叩きつければ切断できるレベルだ。貫けるか?」
「ええ。この弓は義肢の発達を考慮してかなり威力がでるようにしてあるんです。パラアスリート界隈では、ダイナミックなパフォーマンスが期待されていますからね。食品と同じですよ。天然もの──健常者のプレイには希少性が、工場産──パラアスリートのプレイにはたっぷりの栄養素という名のエンターテインメントが求められる」
そう告げてサクラはコンパウンドボウを引き絞った。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
「今だ」
フルフルが詠唱するのに久隆が合図した。
サクラの放った矢は重装オーガの鎧を貫き、心臓を抉った。
同時に久隆が斬り込む。もちろん、サクラの射線を妨害するようなことはしない。その点については海軍時代に叩き込まれている。友軍の射線を妨害せず、敵を叩く。
重装オーガが棍棒を振り上げるのに、それが振り下ろされる前に久隆は重装オーガの首を刎ね飛ばした。重装オーガの首が転がり、同時に消滅していく。
「ジャイアントオーガはどうだ!?」
「行けるの! フォルネウスが最後の1体を倒すの!」
レヴィアとマルコシアの両方から魔法攻撃を受けた鎧ジャイアントオーガの顔面は既に潰れており、久隆が見たときにはフォルネウスが魔法剣を喉に突き刺し、炎上させているところだった。
「凄いですね。これがダンジョンの戦闘。なんとかやっていけそうです」
「それは心強い。まあ、移乗戦闘の時と同じだ。閉所での戦闘。敵がテロリストから化け物に変わっただけだ」
「それは随分な変化じゃないですか? 海賊はあんなに巨大じゃないですよ」
「だが、ボディアーマーを身に着けていた。あのアジアの戦争で流出した防弾チョッキで武装していた。こっちはそうじゃない。重くて、動きにくい、金属製の鎧だ。それもフルフルの付呪があれば劣化できる」
苦笑いを浮かべるサクラに久隆はそう告げた。
「さて、この下の20階層にバイコーンが存在する」
久隆が告げる。
「バイコーンは魔法に耐性があると聞いている。レヴィアとマルコシアには悪いが、この階層で待機していてくれ」
「そんな! レヴィアも戦えるの!」
「ダメだ。今回の作戦は速度が重要になる。守りながらは戦えない。それにバイコーンには魔法はほとんど効かないとアガレスからは聞いている」
「それは……そうだけれど……」
「何、次の階層では必要とされるだろうし、これからも魔法は必要だ。そう落ち込むな。ここまで来れたのはレヴィアたちのおかげだ」
久隆はそう告げてレヴィアの肩をポンポンと叩く。
「フルフル。お前の付呪はバイコーンにはどれくらい有効だ?」
「バ、バイコーン相手にですか……? 多少は通じるかと思いますが、劇的には……」
「マンティコア戦のときに使った速度低下の付呪をかけてくれ。少しでも動きに制限をかけたい。今回はトラップが使える環境でもないからな」
「わ、分かりました。できる限りのことをします」
フルフルはしっかりと頷いてそう告げた。
「フォルネウス。悪いが付き合ってもらうぞ。鎧は最低限だけにして、なるべく軽装にしてくれ。今回は相手の速度に合わせた戦いをしなければならないし、ジャイアントオーガを叩きのめす突撃を前に鎧が役立つとは思えん」
「了解です」
フォルネウスは鎧を外し始める。
「サクラ。お前には敵の誘導を頼みたい。フロアからフロアに次々に敵を移動させつつ、敵の移動が制限されるフロアの出入口付近で俺とフォルネウスが攻撃を加える。そのコンパウンドボウでバイコーンの注意を惹き、誘導してくれ」
「それってかなり危なくないですか? あのジャイアントオーガを吹き飛ばせる1トン近い敵を相手に挑発を行うわけですよね?」
「かなり危ない。だからこそ、お前にしか任せられない。やれるか?」
久隆はサクラを見つめた。
「そこまで言われたら断れませんよ。久隆さんは卑怯です」
そう言いながらもサクラの目には東南アジアの戦争の時と同じ軍人としての義務を背負った色を浮かべていた。確かな殺意と確かな戦意の表れだ。
「まずは下層の様子を探る。20階層においてどこにバイコーンがいるのかを探る。バイコーンの位置が確認できたら作戦開始だ。まずはサクラが矢を浴びせてバイコーンにダメージを与えつつ誘導する。俺とフォルネウスはフロアの出入口で待ち伏せ、バイコーンが通過する際に一撃を加える」
久隆はアガレスの送った偵察部隊が記録した地図を指さしながら告げる。
「その一撃で倒れてくれればいいが、まだ暴れ回るようならもう一度チャレンジだ。再びサクラがバイコーンを誘導し、俺たちは急いで次の待ち伏せ地点に向かう。そして、もう一度打撃を加える。この繰り返しを倒れるまで行う」
「そう簡単にいきますか? 敵も学習するのでは?」
「確かに敵が学習する可能性はある。だが、相手にとってお前のコンパウンドボウは脅威だし、フロアを移動する際にはどうしても狭い出入口を使わなければならない。相手にとって学習しても取れる選択肢は少ない」
コンパウンドボウの攻撃を無視し続ければいずれは射殺される。フロアの出入り口の待ち伏せを回避するならば遠回りせねばならず、その間に久隆たちは新しいポジションに就くだけの話だ。
そもそも魔物が学習するような存在だとは久隆たちは思っていない。
魔物が学習するならば友軍がバタバタと倒されて行く中で、一時的に下層に逃れて友軍に合流することや、態勢を立て直すために防御の姿勢を取るなどするはずだ。だが、魔物はそのような行動は一切行わない。
ただひたすらに突撃を続ける。後方から政治将校の機関銃で脅された第二次世界大戦中のソ連兵のようにして。そこに勝利があると信じて疑わなかった旧大日本帝国の万歳突撃のようにして。
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本日の更新はこれで終了です。
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