89.準備はいいかい?
転移の水晶を使って魔王城の一室に戻った。
その瞬間――
爆発音と地響きが襲う。
「なっ!」
「もしかして襲撃!?」
「外に出るわ!」
急いで魔王城の外に走る。
揺れはまだ続いているし、外から凄まじい魔力を感じる。
ただ、知っている魔力な気もして、外に出て拍子抜けした。
「どうした? もう終わりか?」
「まだまだじゃ!」
「えぇ……」
アレクシアも呆れている。
ホッとする場面だけど仕方がないか。
魔王城から少し離れた場所で、アスランさんとルリアナが戦っていた。
ルリアナは特権を発動している。
殺伐とはしていないし、おそらく訓練か何かだろう。
空中でぶつかる二人。
アスランさんが先に俺たちに気付いた。
「おっ! 戻ったのか!」
「ん? あっ! エイトじゃ!」
遅れてルリアナも気づいて、まっすぐ俺のところへ飛んでくる。
「お帰りなのじゃ!」
「あ、ああ、ただいま」
その姿で詰め寄られると、さすがに身構えてしまうな。
魔王の特権。
彼女が目覚めさせた力と姿。
何だか……
「モードレスと戦った時より安定してる?」
「本当か? そう見えるのか!?」
ルリアナはグイグイ顔を近づけてきた。
「う、うん。前は荒々しかったけど、今はなんっていうか。荒々しさもあるんだけど、落ち着いているというか。言葉にするのは難しいな。とにかく制御出来てる感じはするよ」
「本当か!」
俺は頷くと、彼女はパァっと表情を明るくして、アスランさんに視線を送る。
アスランさんが俺たちの近くに降り立つ。
「よっと、特訓の成果だな」
「うむ!」
「ああ。やっぱり訓練だったんですね」
「おう」
「驚かせないでよ」
「いきなり揺れたからビックリしちゃったよぉ~」
「悪い悪い」
アスランさんは笑いながらそう言って、続けて俺たちに尋ねる。
「んでそっちはどうだった? ちゃんと休めたか?」
「え? あーまぁ、ほどほどに」
「何だよ歯切れ悪いな」
「エイトは休めなかったのか?」
「いや、休めたよ?」
疑問形になってしまった。
ルリアナが難しい顔をしている。
「うむ……さてはイチャイチャしておったな!」
「ぶっ! ルリアナ?」
「そうなんじゃな! イチャイチャしてて休めなかったのじゃろう?」
「ち、違うから! なんてこと言うの!」
視界の端で、アスランさんが笑っているのが見えた。
俺がいない間に余計なことを教えたのはアスランさんだな。
話していると、セルスさんとフレミアさんも合流する。
「お帰りなさいませ」
「皆さん戻っていたんですね」
「はい」
「ただいまー!」
アレクシアが元気よく返事をした。
その横でレナが会釈をして、チラチラと周りを見る。
「ユーレアスがいないわね」
「インディクスの所じゃないかな?」
たぶんエリザも一緒だろう。
笑い終えたアスランさんが呼吸を整えて言う。
「はぁーあ、二人ならインディクスを見張ってるぞ」
「見に行きましょうか?」
「その必要はないよ」
ユーレアスさんの声だ。
声がした方向を振り向くと、ユーレアスさんとエリザ、それにインディクスも一緒にいる。
「お帰り、みんな」
「たっだいまー!」
「その必要はないってことは、改良が終わったんですか?」
「ああ」
ユーレアスは答えてからインディクスに目配せする。
「依頼は先ほど完了した」
「予定だとまだかかるって話だったのに」
「予定はあくまで最長の時間だ。それより早く終わるのは当然だろう」
さすがインディクスだ。
もう素直に感心する。
「さて、私の役目は終わっただろう? もう帰らせてもらうよ」
「何を言っているんだい? 君も同行するんだよ」
「は?」
「当たり前だろう? 道中で壊れでもしたらどうするんだ? 君しか直せないのに」
「……はぁ」
大きなため息をこぼすインディクス。
ユーレアスさんはニッコリと笑顔。
インディクスは呆れながら言う。
「最初からそのつもりだったか」
「もちろん。君だって薄々わかっていたんじゃないかな?」
「……まぁいい。だが何度も言うように」
「身の安全が最優先だろう? 大丈夫、君は戦わなくても良いから。代わりにこの城を守っておくれよ」
「それは戦えと言っているのと同じだぞ」
再び呆れるインディクスだが、仕方がないと了承した。
敗者は勝者に従うまでだ、と。
「よーし! 話もまとまった所で確認するよ? みんな準備はいいかい?」
「うん!」
「ええ」
「おう」
「出来ていますよ」
「良いのじゃ!」
「問題ありません」
最後に俺に視線を向ける。
「行きましょう」
決戦へ向けて。
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