88.次に会う時は――
窓から朝日が差し込む。
穏やかな陽気に包まれた朝は久しぶりで、目覚めた時は戸惑うだろう。
「ん、うぅ~ん……ここ……」
「ぅ、もう朝なのね」
二人とも目が覚めたらしい。
良かった。
「あの……そろそろ退いてもらっていいかな?」
「「あ」」
「両腕が……痺れて動かないんだ」
俺がそう言うと慌てて二人が離れてくれた。
「ご、ごめんエイト君!」
「あ、うん、気にしないで」
「私としたことが不覚だったわ。でもどうしてエイトが一緒に寝てるの? 確かエイトはいなかったような……」
「確かに」
じーっと二人が俺を見つめる。
「もしかしてエイト君、寝てるボクたちにエッチなこと」
「してないから!」
言葉で否定しながら、痺れて動かない両腕を必死に持ち上げようとする。
「安心して。私は何をされても良いわ」
「ぼ、ボクだってエイト君なら良いよ!」
「それは嬉しいけどそうじゃなくて! 別に変なことはしてないから!」
誤解されているようだが冤罪だ。
戻ってきたら二人が眠っていて、寝ぼけたアレクシアに引っ張られた。
その後は二人を起こさないようにじっとして、自分も寝たんだ。
と、そこまでは良かったんだけど……途中で痺れを感じて目が覚めたのが、今から二時間くらい前だった。
「――というわけだから、俺は一切手を出してない」
「むぅ……」
「一切なのね?」
「ああ」
「……何か」
「それはそれで負けた気分ね」
何で二人とも不満そうな顔をするんだ。
手を出したほうが正解だったのか?
いや無理だろう。
あんな話をした後で――
トントントン。
「エイト、もう起きていますか?」
「姫様!」
「朝食の準備が出来たので呼びに……」
ベッドの上に寝転がる男と、その両脇には女性二人。
誤解される光景。
「はぁ……あなたという人は……」
「す、すみません」
「使用人に向かわせなくて正解でしたね」
予想していたのか。
さすが姫様。
「ご、誤解しないでほしいですが、何もしてませんからね?」
「さてどうでしょう? エイトは女たらしですからねぇ」
「姫様……」
「ふふっ、早く来てくださいね。せっかくの食事が冷めてしまいますよ」
「はい。すぐ行きます」
パタンと扉を閉めて、姫様は去っていった。
何だか昨日の一件の所為なのか、姫様がちょっと意地悪だ。
「……ねぇエイト君、姫様と何かあった?」
「へ?」
「仲良くなってる気がしたけど?」
「そうかな? 元からあんな感じだったと思うけど」
ジーっと二人から疑いの視線が向けられる。
二人には話さないようにしよう。
そう姫様とも約束したし、俺から話すわけにもいかない。
「それよりほら、朝食に行こう。ってその前に一度着替えないと」
「その腕で?」
「ああ……」
まだ痺れて動かない。
「仕方ないから私たちが手伝ってあげるわ」
「え、ちょっ」
「よーし! じゃあ全部脱いでー!」
「い、いや待って! 自分でやるから勘弁してくれ!」
結局素っ裸にされて、全部着替えさせられた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝食を済ませた後、俺たちは魔王城へ戻る準備をした。
本当は夕方くらいまで滞在する予定だったけど、やっぱり向こうのことも心配で、予定より早く戻ることになったんだ。
「忘れ物はありませんか?」
「大丈夫です。二人は?」
「ボクも良いよ!」
「私もよ」
「大丈夫そうなので、そろそろ行きますね」
俺の仕事部屋に姫様と二人が集まっている。
ロランド騎士団長は早朝に遠征へ出かけてしまったそうだ。
挨拶はそのときに済ませている。
「気を付けてくださいね」
「はい」
「次に戻ってくるときは、全てが終わったときですね」
「はい」
「必ず魔王を倒してくるよ!」
「みんなで戻ってくるわ」
二人がそう言うと、姫様はニコリと微笑む。
「はい。お待ちしております」
姫様が俺に目配せをして言う。
「その時には、ちゃんと答えを出しておいてくださいね?」
「ぅ……はい」
やっぱり姫様は意地悪だ。
二人はピンと来てない様子。
今のうちに戻るとしよう。
俺は水晶に手をかざし、転移を発動させる。
「いってきます」
「いってらっしゃいませ」
俺たち三人の姿が消え、姫様だけが残された。
「……キスくらいしても良かったですね」
少し寂しそうに、姫様は窓の外を見る。
「帰ってきたら……その時に」
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