87.姉と弟?
先代魔王城の外周。
木々が斬り倒され、平らになった土地にアスランとルリアナが向かい合う。
アスランの後ろにはフレミアが、ルリアナの後ろにはセルスが控えている。
「本当にやる気か?」
「もちろんじゃ!」
「爺さんもそれでいいのか?」
「私もルリアナ様に賛同しておりますので」
「了解。んじゃ――」
アスランが槍を構える。
「始めるか」
「うむ!」
ルリアナが魔王の特権を発動。
髪と目の色が変化し、荒ぶる魔力を纏う。
「では行くぞ!」
「おう。かかってこい!」
ルリアナが宙に浮かび、あっという間に間合いを詰める。
「速いな」
「当たり前じゃ! 妾は魔王じゃからな!」
目の前に迫ってきたルリアナに対して驚くアスラン。
しかし冷静に左へ避け、槍を回して打ちおろす。
「よく躱した」
「これくらい余裕じゃ! お前こそ気を抜くでないぞ!」
重力操作。
彼女が覚醒させた魔王の特権。
半径百メートルの円周内にいるものは全て、彼女の能力の支配下である。
「うおっ」
アスランの身体が宙に浮く。
体勢を崩したところへ攻撃を仕掛けるルリアナ。
「もらったのじゃ!」
「甘いな」
「なっ――」
アスランは空を蹴り跳躍した。
空中歩法。
エイトがブーツに付与している効果を、彼はスキルとして持っている。
「軽くしてくれてありがとな。お陰で普段より速く動けるぜ」
「むぅ……だったら重くするまでじゃ!」
続けて高重力がアスランに襲い掛かる。
モードレスを苦しめた力。
だが、アスランはニヤっと笑う。
「そう来ると思ったぜ」
空を蹴り、重力が強まる前に移動した。
その真下にはルリアナがいる。
重力の影響で下へ落ちる力が増し、それを逆に利用してルリアナに突撃する。
「なっうわ!」
圧倒的な速度に驚いたルリアナだったが、ギリギリのけぞって回避する。
重力操作は解除され、体勢を崩したルリアナの肩にアスランが触れる。
「あ」
「勝負ありだな」
「むぅ~」
「そこまでです。ルリアナ様」
「うむ」
シュンとなりながら髪と目の色が戻っていく。
二人の元にフレミアが歩み寄り、怪我がないか確認する。
「怪我はしていないようですね」
「魔王の力に覚醒して、身体も頑丈になったんじゃないのか?」
「その通りじゃ! じゃがまさか反撃されるとは……」
「重力操作。確かに強力だけど、それを使っている間、お前は動けないんだろ?」
「……うむ」
重力操作中は、力を制御することに集中しなくてはならない。
そのため身動きが取れないことを、アスランはモードレスとの戦闘を見て気付いていた。
「まだまだ妾が未熟なせいじゃ」
「そう落ち込むなよ。使いこなせれば最強になれる力だぞ? さすが先代魔王の娘だな」
「そ、そうか? そうじゃな! もっと修行するぞ!」
「おうおうその意気だ」
「ちょっとは休憩しなくちゃ駄目だよ~」
彼女達の元にユーレアスがやってくる。
「ユーレアス?」
「インディクスを見張っていなくて大丈夫なのですか?」
「大丈夫じゃないけど、エリザが見てくれてるよ。すっごい音がしたから確認しに来たんだけど~」
ユーレアスが視線を向ける。
その先には、アスランの突撃でへこんだ地面があった。
「頑張るのも良いけど、ほどほどにね? 本番で疲れて動けませーんじゃ元も子もないから」
「そうだな。ちょっと休んでから再開するか」
「うむ」
それだけ伝えると、ユーレアスは魔王城に戻っていった。
木陰に腰を下ろして休憩するアスランとルリアナ。
ルリアナがぼそりと言う。
「エイトもちゃんと休んでおるかのう」
「ん? 何だ? 気になるのか?」
「当然じゃ」
「ふ~ん、まぁあいつのことだから休めずにイチャイチャしてんじゃねーかな。二人も一緒だし」
「何じゃと! あの二人とはそういう関係じゃったのか!」
「知らなかったのかよ。いやまぁそうか」
「なるほどのう~ ならばエイトに相応しいかどうか、妾が姉としてしっかり見定めなば」
ふむふむと頷きながらルリアナがそう言った。
「ん? 姉?」
「そうじゃぞ? エイトは妾の父上の力を受け継いだ男じゃ。なれば妾の姉弟であろう?」
「ああ……なるほど?」
「どうしてエイト君が弟なんですか?」
「妾のほうが魔王じゃからじゃ!」
ルリアナは腰に手を当て、堂々と宣言した。
アスランとフレミアは首を傾げる。
「よくわからんが」
「あなたもエイト君のことが大切なんですね」
「当然じゃ。エイトと妾、二人合わせてようやく父上に追いつける。妾たちは二人で一人の魔王じゃ。リブラルカを倒したら、エイトにも魔王を名乗る権利をやらねば!」
「なるほどな」
おっかない姉を持ったな。
と心の中にアスランは呟いた。
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