9.Bランク降格間近【追放側視点】
カイン率いるルミナスエイジ。
Sランクパーティーに昇格し、新進気鋭のパーティーとして注目を集めていた。
それも少し前までの話である。
今は別の噂がきっかけで、注目を集めていた。
「おいおい、聞いたかよ? あいつらまた依頼失敗したらしいぜ」
「ルミナスエイジだろ? あんだけ猛スピードでランクも駆け上がってたのにな~」
「だな。俺も注目してたんだけど、期待外れだったな」
冒険者ギルドの集会場。
別名ギルド会館の酒場では、冒険者同士の情報交換や、パーティーの勧誘が行われている。
必然的にそこでは、他のパーティーや冒険者の噂がささやかれていた。
新進気鋭のパーティー【ルミナスエイジ】、またも依頼失敗!
と大々的に書かれた貼り紙すらある。
今まで目立っていた影響が、ここに来て悪い方向へ進んでいた。
「何か最初からズルしてたんじゃねーの?」
「どうだろうな。そういや、何か一人いなくなってないか?」
「あー確かに、前は五人だったよな。つまりあれか、そいつが主力だったけど抜けちまって弱くなったっていう」
「かもな。他のメンバーが弱すぎて、愛想つかしたのかもしれないぜ」
ガハハハと笑い声をあげる男たち。
本人がいないことを良いことに、言いたい放題言っているようだ。
とは言え、これは仕方がないことでもある。
冒険者をしていれば、悪い噂も良い噂も、すぐに広まってしまうことは当たり前だった。
カインたちもそれを理解しているし、自分たちの噂が広まっていることも理解していた。
「くそ……くそがっ! 何でこうなったんだ!」
「落ち着けカイン」
「うるせぇ! あれだけ言われて落ち着いてられるかよ!」
「だったらどうするんだ? 殴りこみでも行って、違うと否定するのか? それこそ冒険者ライセンスをはく奪されるぞ」
「くっ……」
ルミナスエイジの面々は、隠れるように宿屋の一室に集まっていた。
依頼を失敗するたびにギルドからは注意され、周りからは白い目で見られる。
徐々にカインの気性も荒くなり、逆に他の三人は冷静になっている。
「次で挽回するしかないよね」
「ええ。活動資金も無限ではありませんし」
「ああ、そうだな。次の依頼は失敗できない。ここは難易度を下げてでも成功する依頼を――」
「駄目だ!」
話がまとまりかけた所で、カインが一蹴。
「簡単な依頼なんて受けてどうするんだよ。名誉を挽回するなら、最低でもAランク以上の依頼を受けるぞ」
「待てカイン! 話を聞いていたのか?」
「うるさい黙れ! お前らは悔しくないのか? あんだけ好き勝手言われて、あげく……」
「それは……」
「悔しいけどさ」
「だったら本気を見せろよ! 死ぬ気で依頼をこなして、もう一度Sランクに戻ってやる」
カインの意思は固く、他の三人が説得しても聞く耳を持たなかった。
周囲の評判が悪化するにつれ、彼の視野もどんどん狭くなっている。
それを実感している三人だったが、リーダーであるカインに対して、あまり強く出られないでいた。
単に怖いから、逆らえないというだけかもしれない。
そうして臨んだ次なる依頼。
Aランク難易度で、内容は貨物を積んだ馬車十台の護衛。
危険なモンスターが多く生息するエリアを越えるため、優秀な冒険者パーティーの力が必要とのことだった。
Aランクの中では、比較的難易度は低いとされる依頼内容。
モンスターの接近に注意し、指定のエリアさえ抜けてしまえば良い。
強力なモンスターを倒す必要もないので、今の彼らでも十分にこなせる依頼だった。
だが……
「おいカイン! 持ち場を離れすぎるな!」
「そうよ! 私たちの依頼は護衛よ!」
カインには聞こえていない。
依頼は護衛だ。
守ることが任務であるにも関わらず、カインはモンスターを倒すことに躍起にやっていた。
お陰で陣形はめちゃくちゃになり、他の三人が苦悩する。
結果、馬車二台が破損。
二名が負傷する事態に陥った。
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「非常に申し上げにくいのですが……本部から通達がありました。もし次の依頼に失敗するようであれば、ルミナスエイジはBランクへ降格となります」
「そ、そんな……」
「なお、次の依頼はこちらで決めさせていただきますので、しばらくお待ちください」
「ま、待ってください! 本当に……降格?」
「はい。本部からの正式な通達ですので」
護衛依頼失敗の翌日。
ルミナスエイジに、冒険者ギルドから最終勧告がなされた。
次にギルドから提示される依頼に失敗すれば、Bランクパーティーへ降格となる。
Sランクに上り詰めるために二年。
それがたった数日で、Bランクまで落ちようとしている。
「う、嘘だろ……」
その絶望は、カインの表情を見れば明らかだった。
自業自得の果て。
自分たちの力が誰のお陰だったのか、もはや考えるまでもないだろう。
エイトの喪失はそのまま、ルミナスエイジの弱体化に他ならなかった。