86.親と子の形
魔王城の機関部。
カチャカチャと音をたてながら作業をするインディクス。
それをじっと見守るエリザと……
「ふぁーあ……眠い」
欠伸をするユーレアス。
インディクスはため息を漏らし、手を止めて振り返る。
「はぁ、ならば監視など止めて休んだらどうだ?」
「それはいけないな~ 君が余計な機能を付けないか、見張っておかないとね」
「余計な機能?」
「うん。たとえば自爆機能とかね」
「ふん。確かにこの規模の建物が爆発すれば、奴らの城も破壊できるかもしれないな。良い案だぞ」
「ちょっと~ 僕の提案みたいに言わないでくれるかな~」
インディクスは呆れたように小さく笑い飛ばし、作業を再開した。
その後ろ姿を眺めながら、ユーレアスはエリザをチラッと見る。
気付いたエリザが、ユーレアスに尋ねる。
「何でしょう? マスター」
「ん? いや~ 何も起こらないな~って」
「何の話ですか?」
「いやほら、インディクスは君の元マスターで生みの親でしょ? 話しておきたいこととかないかなーって思ったんだけど」
「ありません」
エリザは即答した。
「ないな」
インディクスも同様に答えた。
「えぇ~ 二人ともドライだな~」
「お前は何を期待していたんだ? 私がどういう思考をしているか、その一端を知っているはずだろう?」
「そうだけどさ~ 君の言うように一端しか知らないからね。もしかすると、我が子を心配する父親のように」
「ありえないな」
またもや即答。
完全に否定されてガッカリするユーレアス。
エリザは表情を変えていない。
「お前に敗れた時点で、それに興味はないと言ったろう? ましてや今、それの所有者は私ではない。どうなろうと知ったことではない」
「う~ん、酷いこと言ってるよ~ エリザだって傷つくよね?」
「いえ、ワタシは特に何も。今のマスターはあなたです」
「こっちもか! まったくよく似ているよこの親子は」
「違う」
「違います」
二人の声が重なった。
意外そうに互いのほうへ振り向く。
「はははっ! やはり親子だよ」
「ふん」
「……」
何とも言えない雰囲気になる。
そこへドカーンと爆発音が響き、部屋が揺れる。
「何だか外が騒がしいな~ ちょっと見てくるから、エリザは彼を見張っていてね?」
「了解しました」
「うん。すぐ戻るよ。アスランたちはしゃぎ過ぎじゃないかな~」
ユーレアスはやれやれと呟いて部屋を出て行く。
二人だけになった部屋には、作業の音だけが聞こえていた。
ユーレアスが期待するような会話はない。
二人の関係はもう……いいや、初めから関係などなかったかのように。
だが――
「エリザ」
意外にも、先に話しかけたのはインディクスのほうだった。
彼は続けて言う。
「君も彼と一緒に行かなくてよかったのか?」
「……ワタシへの命令は、あなたをここで監視することです」
「そうか。相変わらず忠実に命令を守るだけか……あの男に預けて多少は変化があると期待したが……」
「期待? ワタシに興味がないのではなかったのですか?」
「興味と期待は似て非なるものだよ。しかし……その通りではあるな」
再び沈黙が訪れる。
そして、次に沈黙を破ったのは――
「元マスター」
エリザのほうだった。
「何だ?」
「ワタシは……あなたに感謝しています」
インディクスは思わず手を止める。
目を見開き、驚いた顔で彼女に目を向ける。
「何だと?」
「あなたがワタシに感情を与えた。そのお陰で、ワタシは自分の意思で誰かに仕え、従うことが出来ます。ただの人形ではなく、エリザという個人として」
「……お前は勘違いをしているな」
「わかっています。あなたにとってワタシの意思など」
「違う。私がどう思うかではない。根本的な所だ」
そう言って、インディクスは徐に立ち上がる。
改まって彼女に語る。
「私はお前に感情を与えた。だがな? あくまで私が与えたのは、感情という名の知識に過ぎない。心などという曖昧な物は、私の手に余るのだ」
「知識……ではワタシの感情は一体……」
「それはお前自身が手に入れた物だ」
「ワタシが?」
「ああ。きっかけは私の与えた知識だろう。それを元に、お前は自らの感情を手に入れた。まさに成長というやつだな。やはり生物は面白い。私の想像を超えてくる」
インディクスは笑った。
「そうだろう? 僕もそう思うよ」
「ユーレアス」
「マスター」
トントンと足音をたててユーレアスが戻ってきた。
「いつから聞いていた?」
「さぁね? 親子の会話は楽しめたかい?」
「何度も言わせるな。私は親などではないよ」
「そうかな? 我が子の成長を喜ぶ姿は、親にしか見えなかったけど?」
「ふん、勝手しろ」
インディクスは作業に戻った。
振り返る横顔は、何だか満足げに見えた。
「親子の形は一つじゃないよ。きっとこれも、そのうちの一つなんだ」
「親子の形……」
もしかすると、エリザがインディクスを父親と呼ぶ日がくるかもしれない。
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