85.答えを出すのは戦いの後で
エイトの自室にて帰りを待つ二人。
「エイト君遅いな~」
「仕事の話をしているんでしょ。長くなるわよきっと」
「えぇ~ すぐ戻るって言ってたのにぃ~」
バタンとベッドに倒れ込むアレクシアと、ベッドの端に座るレナ。
二人ともエイトの帰りを待ちながら暇を持て余していた。
「いつ戻ってくるのかな~」
「さぁね。一時間くらい先かも」
「そんなに? じゃーちょっと休憩しようかな~」
「良いんじゃないかしら? 私も少し疲れたし、戻ってくるまで」
レナが大きな欠伸をした。
時計の針は午後八時。
まだまだ夜は始まったばかりで、普段なら眠くならないだろう。
今は目の前にベッドがあって、敵に襲われる危険も限りなくゼロに近い。
そんな状況に置かれれば、勇者や精霊使いと言えど、睡魔には勝てないわけで……
「ちょっとだけ寝ましょうか」
「そうだね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいま~」
シーン。
返事はなかった。
「あれ?」
姿がなくて一瞬焦ったが、ベッドのほうから寝息が聞こえてホッとする。
二人とも仲良く俺のベッドで眠っていた。
早く戻ると言って随分待たせてしまったから、待ちくたびれたのだろう。
そうでなくとも日頃から神経をすり減らし、戦いの疲労も溜まっていたはずだ。
目の前にフカフカのベッドがあれば、その誘惑には誰も抗えない。
俺も普段通りなら、迷わず飛び込んでいたと思うけど……
「さすがに気が引けるな」
女の子二人が寝ているベッドに、後から入る後ろめたさを感じる。
二人なら喜んでくれそうだけど、姫様から告白された今は、特に悪いことをしている気がしてならない。
俺はとりあえず、ベッドの横に腰を下ろした。
スゥースゥーと気持ちよさそうに寝息を立てている。
「疲れていたんだな。二人とも」
連戦が続いていたし当たり前だ。
幹部との戦いは特に、肉体的にも精神的にもダメージを受ける。
彼女たちでなければとっくに音を上げているだろう。
そしてこの先は、もっと過酷になる。
幹部の残り一人、魔王の側近と、彼らを束ねる魔王リブラルカ。
先代を殺した悪魔……俺自身にとっても因縁の相手だ。
「悩んでる場合じゃないんだよなぁ……」
わかっていても、彼女たちを見ていたら考えてしまう。
好きだと言ってくれたことを。
身体を重ねて、確かめ合った記憶も新しい。
そしてもう一人、思いを伝えてくれた人の優しい笑顔も脳裏に浮かぶ。
みんなの気持ちに応えたい。
誰を選ぶことが正解なんだろう。
選んだとして、全員が幸せになれるのかな?
もしかしたら、誰も選ばないという選択のほうが……
「あー駄目だ駄目だ! 今考えたってわかるわけない!」
心に糸が絡まって解けなくなっている感じがする。
ふと、姫様の言葉を思い出す。
魔王を倒した後ならば、選択肢も広がるかもしれません。
未だにどういう意味かわからない。
ただ、魔王を倒して、人々に平和をもたらした後。
背負った使命から解放された時なら、グルグルに絡まった心の糸を解く時間もあるだろう。
「そうだな。まずは魔王を倒してからだ。その後でちゃんと考えよう」
まるで魔王を倒すことが前座のような考え方だ。
でも、もしかすると俺にとっては、魔王よりも手ごわい相手かもしれないから。
「ぅう~ エイト君~」
「アレクシア? 起こしちゃっ――ちょっ!」
彼女に手を引っ張られて、そのままベッドに寝転がる。
アレクシアは俺の右手に絡まっている。
「えへへ~ ぎゅぅー」
「アレクシア?」
寝ぼけているのか。
幸せそうな顔をして寝息をかきだす。
今度は左腕にレナが抱き着いてきて……
「逃がさない……わ」
彼女も眠ったまま、俺のことを離さない。
二人に抱き着かれたまま、俺は動けなくなってしまった。
「はぁ……やれやれ」
結局こうなるのかと、呆れてしまった。
二人とも気持ちよさそうに寝ているし、起こすのは可哀想だ。
俺も疲れているし、このまま眠ろう。
目を瞑って眠りに落ちる。
その直前に、一つだけハッキリとわかったことがある。
俺はやっぱり、二人のことが大切で、大好きなんだと。
一緒にいられて幸せだと感じる。
こんな日が、ずっと続いてくれれば良いのに。
そう、心から思った。
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