84.告白
姫様に脅さ……お願いされて、俺は恥ずかしさに耐えながら彼女たちの話をした。
彼女たちを縛っていた苦悩や戸惑いの一部も含めて。
全ては話さない。
俺だけの話ではないし、彼女たちの心まで代弁はできないから。
とりあえず事の顛末だけ。
そう……だからこそ――
「つまりエイトは、彼女たち二人から告白され、どちらかを選ぶことなく肉体関係まで至っていると」
「そ、そうなりますね……」
「……話だけ聞いていると……女性の敵ですね」
「はい……すみません」
返す言葉もない。
自分でも感じていたことだし……
ただ、姫様の口からハッキリ言われると、想像以上に心に来るな。
「エイトがそんな人だったとは思いませんでしたよ」
「うっ……はい」
「私も日々王女としての責務に勤しんでいたのに、その最中にイチャイチャしているとは」
「べ、別に遊んでいたわけじゃな……くもないですけど」
駄目だ……辛い。
いや、辛いなんて思うことも良くないな。
これは自業自得だ。
優柔不断で、彼女たちの思いに応えきれない自分が悪い。
「ふふっ、冗談ですよ」
「へ?」
と思って反省していたら、姫様が不意に笑顔を見せた。
「冗談?」
「はい。エイトが理由もなく、そんなことをするとは思えませんから。もしそんな酷い男なら、私もとっくに襲われていますよ」
「そ、それは……」
さすがにどんな男でも、一国の王女に手を出そうとはしないと思うけど。
「話してくださったのは一部ですよね? きっと話せなかったことに理由があるのでしょう。それはエイトではなく、彼女たちのことだから」
「はい」
お見通しか。
じゃあさっきまでからかって遊んでいたということ?
姫様ってそういう遊び心のある人だったのか。
どちらにせよ助かった。
「でも半分ですよ? エイトが女たらしの酷い人だったことはガッカリです」
「うっ……」
助かってなかった。
やっぱり怒っているみたいだ。
「ただ……彼女たちがエイトを好きになる気持ちもわかるんです」
「え、姫様?」
「私も助けられた一人ですから」
それってどういう……
まさか本当に?
「はぁ……本当は全てが終わった後にお伝えするつもりでしたが、仕方ありませんね」
姫様はそう言って、俺の右手をギュッと両手で握る。
「姫様?」
「エイト。私も――あなたを愛しています」
突然の告白に面を食らう。
いいや、心のどこかで予感していた。
彼女の瞳が、嘘ではないと告げている。
握った手は温かくて、明かりに照らされた彼女の頬は、ほんのり赤く染まっていた。
「えっと……本気ですか?」
「嘘ではないことくらいわかりますよね?」
「……じゃあ、いつから?」
「助けられたあの日に惹かれて、それからずっとあなたを見ていました。一緒に過ごした時間は短かったかもしれません。その短い時間で、あなたをもっと好きになりました。きっと、きっかけはアレクシアたちと同じです。好きになった所も一緒だと思います」
だからこそわかると。
姫様も、アレクシアとレナも、出会い方こそ違うけど、助けられたことがきっかけだった。
俺がそんなことを言うのも不自然かもしれない。
ただ、彼女たちは同じ言葉を口にしていたから、間違いじゃないと思う。
姫様もっていうのは、予感はあっても驚く。
お陰で、またわからなくなってしまった。
姫様からの告白は嬉しい。
でも、俺は結局……誰も選べない。
「姫様、俺は……」
「良いんですよ。今は悩まないでください。なんて私が言えることではありませんが、お返事は必要ありません」
「でも、それは不誠実だ」
「そうですね。私もあなたじゃなければそう感じていたと思います。でも、私はエイトの優しさを知っています。きっと彼女たちも……だから待ちます。あなたの答えが出るその時を」
姫様は優しく、諭すようにそう言った。
その瞳は、俺の不安や悩みを見透かしているのだろう。
「すみません」
「謝らないでください。それから、このことは二人には内緒にしていただけませんか? 知れば余計な不安を与えてしまいますから」
「そう……ですね」
あるいは俺の不安も増える。
本当は姫様も、戦いの前に伝えるつもりはなかったそうだ。
悩ませて、戦いに支障が出てしまうかもしれないから。
二人のことを話さなければ、魔王を倒したその後で、彼女から告白されていたのだろうか。
「そろそろ戻ったほうが良いでしょう。彼女たちも寂しがっていると思います」
「はい。そうします」
先に部屋を出ようとした俺の袖を、姫様がそっと引っ張る。
「エイト。これは私個人ではなく、王女としての助言です。あなたは誰か一人を選ぶことに固執していますね? それは間違いではありませんが、魔王を倒した後ならば、選択肢も広がるでしょう」
「それはどういう意味ですか?」
「英雄になるということは、一国の王になることに等しい意味を持ちますからね」
そう言って笑う姫様を見て、俺は首を傾げた。
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