81.束の間の休息
カチャカチャと音が鳴る。
作業をする一人に、全員の視線が向けられていた。
「どう? 直りそうかい?」
「誰に言っている? そもそも、同じ質問に答えたはずだぞ」
「つまり直るんだね」
「当然だ」
ホッとする一同。
モードレス襲撃の際、城の飛行機能はまたも壊れてしまった。
直した直後だったこともあり、どうなるか少し心配だったけど、さすがインディクスだ。
「機能は明日にでも回復させる。破壊された建物に関しては、私では無理だぞ」
「それはまた追々だね。直すなら全部が終わった後だよ。それでいいかな? 魔王様」
ユーレアスさんがルリアナに尋ねる。
ルリアナは腰に手を当て、上機嫌に答える。
「うむ! それで良いのじゃ!」
前までは魔王と呼ばれると、自分はまだ魔王じゃないと否定していたのに。
力に目覚めて、魔王としての自覚が芽生え始めたようだ。
俺たちとしては、それが良いのか悪いのかわからないけど、とりあえず元気だし良いことなのだろうと思う。
「直ったら魔王城まで直行だな」
「そうだね。時間もかなり短縮できるし、この出会いは幸運だったよ」
「そう簡単ではありませんよ」
セルスさんが続けて言う。
「リブラルカの城までには、越えなくてはならない難関があります」
「難関? 最後の幹部の話では?」
「彼のことではありません。その前に、我々は不逞領域を越えなくてはならない」
「不逞領域? 初めて聞く名前ですね」
俺がそう言うと、セルスさんが説明を始めた。
「不逞領域は、悪魔領でもっとも危険とされる領域のことです。強大な力を持つモンスターが多数生息しており、気候も不安定だ。飛竜種も多く生息していますので、この城で突入すれば、間違いなく戦闘になります」
「それは面倒だな~ 魔王城での戦闘に備えて、出来るだけ温存しておきたいんだけど」
「リブラルカの狙いはそこです、ユーレアス殿。不逞領域で消耗させてから、あちらは万全の状態で叩くことが出来る」
「なるほど。安全に行けるルートはないのですか?」
ユーレアスさんが尋ねると、セルスさんは数秒考えてから答える。
「最も危険が少ないのは地上から行くことです。ただしこの場合、不逞領域を抜けられる日数は運です。なるべく戦闘を避けつつ進むのであれば」
「そいつは困るな。敵の兵器が完成しちまったら終わりなんだぜ?」
「はい。ですので空から向かうルートが最善ではあります」
ただし戦闘は避けられない。
城の飛行速度はお世辞にも速いとは言えない。
ユーレアスさんがインディクスに尋ねる。
「ねぇ、インディクス」
「何だ?」
「今の話は聞いていたよね?」
「ああ」
「なら一つ相談なんだけど~」
「城の飛行速度を上げられるかという相談なら可能だぞ」
「本当かい!?」
ユーレアスさんが興奮気味に尋ねる。
すると、インディクスは作業の手を止めてこちらを向く。
「元々旧式の装置だからな。改良を加えれば、現在の飛行速度の三倍はいけるはずだ」
「三倍?」
「そんなに速くなるのか!」
ルリアナも興奮気味だ。
自分の城の話だから、俺たちよりも興味津々な表情をしている。
「私が手を加えるのだから当然だ。ただし、改良には時間が必要だが?」
「どのくらい?」
「二日だ」
「二日か。でも三倍だろう? だったら二日くらいの遅れは取り戻せるよね」
「そこの判断はお前たちに任せよう。どうする? やればいいのか?」
ユーレアスさんが俺たちに確認の視線を送る。
全員が頷いたのを確認してから、彼はインディクスに答える。
「よろしく頼むよ」
「了解した」
「そう言うわけだから、改良が終わるまで休息をとろう。ここまで連戦で疲れているしね」
「休息つっても、一応ここは敵地だぜ?」
「また襲撃されるかもしれないわよ」
アスランさんとレナの意見に俺も同意する。
「そうかな? 相手も幹部は側近一人だけ。わざわざ魔王が来るとは思えないし、側近も魔王の傍を離れるかな? 僕なら迎え撃つ準備をするよ」
「ユーレアス殿の言う通りです。リブラルカは思慮深い男です。モードレスが敗れたと知れば、最善の備えを整えることを優先するはずです」
「ほらほら、セルスさんもそう言っているし、どうせ出発できないんだからさ。ちゃんと休むことも大切だよ」
連戦に続く連戦。
過酷な旅を続けている俺たちは、見た目以上に疲労している。
そしてこれから最後の戦いに向う。
アレクシアが呟く。
「モードレスは強かった。きっと魔王はもっと強いんだよね?」
「だろうね」
「だったらしっかり休まないと! 万全の状態じゃなきゃ、魔王は倒せないよ」
「アレクシアの言う通り! 丁度良いから、王城にも連絡をいれておきたいね」
「あっ、そういえば一度も連絡してませんね」
「うん。姫様たちも心配していると思うんだ。向こうの状況も少し気になるし、報告がてら一度見に行って来てくれないかな?」
ユーレアスさんは俺に向って話している。
「え、俺がですか?」
「うん。君が行ったほうが、姫様も喜ぶと思うんだ」
「はぁ……わかりました」
「ついでにゆっくりしてくるといい。何せ次が最後の戦いだからね」
「待って待って! それならボクも行く!」
「私も行くわ」
アレクシアとレナが名乗り出る。
と一緒に――
「妾も行きたいのじゃ! 人間の国には興味がある!」
「い、いや……ルリアナは駄目だと思う」
「何でじゃ!」
「さすがに悪魔が城に入ったら大騒ぎになるよね~ 君はお留守番だよ」
「うぅ……」
残念そうに落ち込むルリアナ。
彼女には申し訳ないけど、俺は少しワクワクしていた。
久しぶりの王都、それに姫様はどうしているだろう?






