80.みんなと一緒なら
「な、何じゃあれは!」
「巨人? 魔力の塊か?」
実態がつかめない。
モンスターの類ではないし、悪魔とも違う気がする。
感じる雰囲気から、近いものを探る。
「アンデッド?」
「まさか! あんなアンデッドみたことないのじゃ!」
「俺だって初めて見るよ」
アンデッドというより、死霊というべきか。
臨世で戦った時、一時的に魂を操った。
その時の感覚に似ている。
「そうか……そうだったんだ」
「アレクシア?」
「何がじゃ?」
「モードレスの人格を作っていたのは、勇者だけじゃないんだ。聖剣で斬られた悪魔たちの恨みも一緒に詰まっていたんだよ。それが今……解き放たれたんだ」
そうか。
アレクシアの話を聞いて、モードレスの発言をいくつか思い出した。
彼はアレクシアに対して、何度も憎いと口にした。
冷静に考えればおかしな話だ。
モードレスが裏切られた勇者たち、彼らの負の感情で形成されているのだとして、どうして同じ勇者である彼女に憎しみを向ける?
あの時、アレクシアを憎いと言ったのは勇者たちじゃなくて、勇者に敗れた悪魔たちの怨霊だったんだ。
「つまりあれは、悪しき魂たちなのですね?」
「フレミアさん! 傷は大丈夫なんですか?」
「ええ」
フレミアさんの後ろから、他のみんなも一緒に歩いてきていた。
「みんな!」
「アレクシアは頑張り過ぎなのよ」
「えへへ、ごめんねレナ」
アレクシアは嬉しそうに笑う。
レナの後ろには、セルスさんの姿もあった。
ルリアナが気付いて声をかける。
「爺!」
「お見事でした。ルリアナ様」
「傷はもう良いのか?」
「はい。フレミア殿に治療して頂きましたので。あれだけの傷を一瞬で治療してしまうとは、やはり聖女ですね」
「ふふっ、ありがとうございます」
ルリアナは安堵して、瞳から涙がこぼれそうになる。
「まだ終わっておらんのじゃな!」
「はい」
そう言って涙を拭う。
「なぁあれ、何で襲って来ねぇんだ?」
「おそらくだけど、依代から切り離されて不完全なんじゃないかな? それとインディクスから耳より情報も持ってきたよ!」
ユーレアスさんはそう言いながらインディクスを指さす。
みんなの視線が彼に向き、目が合って詰まらなそうに目を逸らす。
「あれは不純物が大量に混ざっているそうだ。純粋な霊ではない。だから聖属性じゃなくても、普通に攻撃して効果があるみたいだよ」
「なるほどな。そんじゃ遠慮なく行こうか」
「さっきはボコボコにされたし、ストレス発散させてもらおうかな!」
「動機が不純ね」
「いつものことですよ」
みんな平常運転。
怪我は治っているようだし、やる気満々だ。
「よし。アレクシア、ルリアナも」
「うん」
「そうじゃな」
最後の一仕上げを済ませよう!
巨人が動き出す。
と同時に、アスランさんが槍で足を貫き、レナがゴーレムを生成して押し倒す。
それぞれがやりたいように戦い、巨人を削る。
時間的には五分もかからなかっただろう。
見上げる程大きかった巨人は、跡形もなく消滅した。
「ふぅ」
「今度こそ終わりだよ。ほら見て、鎧もなくなってる」
アレクシアが指さした窪みには、モードレスの鎧が転がっていた。
それが今はなくなっている。
これはただの予想だけど、モードレスは剣に勇者たちの後悔が、鎧に聖剣で斬られた悪魔たちの怨念が宿っていたのかもしれない。
「強敵だったな」
「当たり前だよ。世界を何度も救った人たちの力なんだから」
そう言って、アレクシアは下を向く。
「不安か?」
「……うん、少し」
同じ勇者たちの後悔を目にして、彼女の心は揺らいでいる。
不安にならないほうが難しい。
魔王を倒した後の世界が、果たして本当に平和になるのか。
「もしかしたら……ボクも……」
「それはない。絶対にないぞ」
「エイト君?」
「俺が後悔なんてさせない。仮に世界中が敵になったとしても、俺はアレクシアの味方だ。ずっと」
「エイト君……」
「ちょっと、何一人で格好つけてるの?」
トンと軽く背中を押してきたのはレナだった。
一緒にユーレアスさんたちもいる。
「私たちを忘れるんじゃないわよ」
「そうだぜ」
「僕たちは仲間じゃないか」
「この先もずっとです」
「みんな……」
ありきたりで、ベタな言葉ばかりだ。
だけど、そんな言葉をハッキリと言える。
俺も、皆も、もちろんアレクシアも。
「そうだね! みんな一緒なら大丈夫だ!」
俺たちは勇者パーティ。
人類の命運を背負った者たち。
死線を潜り、助け合ってきた掛け替えのない仲間たちだ。






