73.空飛ぶ城?
人間と悪魔。
勇者と魔王。
大昔から戦うことが宿命づけられた間柄。
互いに殺し合い、否定し合う関係にあった両者が――
「これ美味しいよ!」
「当然じゃ! 爺の料理は世界一じゃからな!」
「もったいないお言葉です」
一つのテーブルで食事をしている。
昔の人たちが見たら、何かの間違いだと思うかもしれない。
「こんなに美味しいごはん食べてるのか~ ルリアナちゃんが羨ましいな~」
「そうじゃろそうじゃろ! アレクシアは中々見る眼があるな」
「早々に打ち解けたわね、あの二人」
「そうだね」
アレクシアとルリアナ。
二人は相性良さそうだと思ったけど、打ち解けるのは一瞬だったな。
記憶に残る体験を一緒にした俺が、今はおいて行かれている気分で少しもやっとする。
「ねぇねぇ! ルリアナちゃんっていくつなの?」
「いくつ?」
「何歳なの?」
「失礼ですがアレクシア殿、我々悪魔に生まれてからの年数を数える習慣はありません」
「そうなんですか?」
「はい。ですがルリアナ様がお生まれになった日から数えると、今で十と二か月になります」
十歳だったのか。
見た目通りの年齢だ。
「十歳か~ じゃあボクのほうがお姉さんだね!」
「む、そうなのか?」
「うん! ボクのことアレクシアお姉ちゃんって呼んでも良いんだよ?」
「そ、それは嫌じゃ」
「えぇーどうして?」
「は、恥ずかしいじゃろ……お姉ちゃんとか」
顔を赤くして照れるルリアナに、アレクシアはキュンとして抱き着く。
「な、何じゃ!」
「可愛すぎるよぉー」
「は、離れろぉ~」
「アレクシア、食事中は暴れない」
「あ……ごめんなさい」
ユーレアスさんに注意されて、アレクシアがシュンとなる。
やれやれと笑いながら、安心感に包まれる。
食事は楽しく賑やかに終わり、お腹が一杯になった俺たちは話し合いをすることにした。
和やかな雰囲気とは打って変わり、真剣な表情で向かい合う。
「魔王城までは徒歩で最短二十日前後だ。決して余裕のある日数じゃないし、明日には出発したほうが良さそうだね」
「お待ちください皆さま。あまり急いては思わぬ所で足を掬われます。ここは慎重に、念入りに準備して向かうべきでは?」
「そうしたい所ですが、悠長に構えていると破壊兵器が使用可能になってしまいます」
「破壊兵器?」
どうやら二人は、現魔王が所持している破壊兵器について知らなかったようだ。
ゲーデでインディクスから聞いた情報を二人にも伝える。
「何と、そのようなことになっていたのですね……」
「はい。だからなるべく急がないと」
残りの幹部は二人。
今までも苦戦を強いられてきた。
残りの二人も簡単に突破できるとは思っていない。
あちらは兵器の使用可能まで時間が稼げればいいわけだし、余計にこちらは急がなければ。
「それなら良い方法があるのじゃ!」
と、ルリアナが元気よく手をあげる。
俺がそれに反応する。
「良い方法?」
「そうじゃ! 要するに早く奴の城まで行ければよいのじゃろう?」
「ああ」
「ならばこの城で向かえばよいのじゃ!」
俺を含む勇者パーティの全員が首を傾げた。
見せてやるからついてきてほしいと言われ、俺たちはルリアナについて部屋を出る。
向かった先は、城内の魔道設備を管理する部屋だった。
そこには初めて見るような魔道具が設置されていて、入った途端にユーレアスさんが興奮し出す。
「何だ何だいこれは!」
「魔王城の飛行機能を制御するための魔道具です」
「飛行機能? この城飛ぶのかい?」
「はい。元は空中に浮かぶ城でしたので」
ユーレアスさんの表情から言葉にならない感動が伝わる。
城が空を飛ぶ。
これだけの物量を浮かせるなんて、俺たちの常識ではありえないことだった。
「ど、どうやったら飛ぶんだい?」
「起動して魔力を流せば浮かび上がります。ただ……」
「ん?」
「見て頂いたほうが早いですね」
そう言ってセルスさんが魔道具を動かす。
どういう意味なのかは、すぐにわかった。
魔道具を起動させた直後に城が揺れ始める。
「こ、この揺れは」
城の近くに来た時と同じ。
あれはこの城が起こしていた揺れだったのか。
「揺れが治まったよ?」
「やはりダメですね」
「どういうことです?」
「実は、この機能は壊れてしまっているのです」
セルスさんが言うのは、現魔王との戦闘時に城が落とされ、それ以降は振動が起こるだけになってしまったそうだ。
魔力不足ではないかと考え、俺たちも協力して魔力を注いでみた。
ルリアナはそれで解決すると思っていたらしく、提案した時はノリノリだったが、結局魔力を注いでも機能しなかった。
「ぅ……駄目じゃったか」
「ユーレアスさん、直せませんか?」
「うーん、僕は魔道具に関してはそこまで詳しくないからね~ あっ!」
奇しくも同じタイミングで、同じことを思いついた。
「直せそうな人なら、心当たりあるよね」
「そうですね」
人ではなく、悪魔だけど。






