72.共同戦線
「みんなの所へ行こう。話さなくちゃいけないことが増えた」
「そうじゃな」
余韻を感じつつ、俺たちは部屋を出た。
扉を潜ってすぐに立ち止まる。
「どうしたのじゃ?」
「いや、そういえば道に迷ってここに来たんだよね」
「そうじゃったのか」
「うん。悪いけど、みんなといた部屋まで案内してくれるかな?」
「……」
「ルリアナ?」
彼女は俺のことをじとーっと見つめていた。
「そういう所も似ておるのじゃな」
「え……お父さんに?」
こくりと頷いて続ける。
「父上も初めていく場所では……よく迷子になっておったのじゃ」
「そうなんだ。意外だな」
先代魔王が方向音痴か。
彼のことを知らなければ、信じられないで終わるけど、今は人間味を感じる。
「エ、エイト」
初めて名前を呼ばれた。
「どうしたの?」
「その、最初……受け止めてくれてありがとうなのじゃ。あとパンチしてごめん」
「ああ、そのこと。別に良いよ、気にしてない」
少し時間が空いてしまったけど、ちゃんと謝ってお礼も言える。
この子はとても良い子なのだろう。
いや当然か。
あれだけ優しい父親に育てられたのだから。
俺は小さく笑う。
「じゃあ行こう」
「あっ、待つのじゃ」
ルリアナが俺の服の裾を掴んでいる。
まだ話したいことがあるのだろうか?
「どうしたの?」
「そっちじゃないのじゃ」
「あ……ごめん」
ちょっと恥ずかしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋から良い匂いがしていた。
俺たちが部屋に戻ると、セルスさんが食事を準備して待っていた。
他のみんなも合流して、すでに座っている。
「あらエイト、遅かったわね」
「ねぇ見て見てエイト君! すっごく美味しそうだよ!」
アレクシアのテンションが高い。
テーブルに並んだ食事の豪華さのせいかもしれない。
この古びた城には似合わないとも言えるけど。
「これ全部セルスさんが?」
「はい。本日は皆さまもご一緒されるので、いつも以上に気合いが入ってしまいました」
「そうなんですね」
とか言いながら、たぶん本命はルリアナのご機嫌を取るためだろうな。
セルスさんの視線が、さっきからルリアナを気にしている。
「爺」
「はい」
「さっきはすまなかったのじゃ」
「ルリアナ様?」
「妾は決めたぞ。エイトたちに協力するのじゃ!」
一同がルリアナに注目する。
俺から言うつもりだったけど、先を越されてしまったな。
「そ、それは……何かあったのですか?」
「父上に会ったのじゃ」
「なっ、サタグレア様に? 一体どういう?」
いつも冷静さを保っていそうなセルスさんが戸惑っている。
ルリアナがさっきの出来事を説明し始めた。
頑張って伝えようとしていたけど、彼女は説明が得意じゃなくて要領を得ない。
俺も時々解説をして、最後まで伝えた。
「そのようなことが……」
「うむ。爺は知っておったそうじゃな? 母上のことを」
「はい……申し訳ありません」
「謝る必要などないのじゃ。知っておったのに、妾のことを守ってくれていたのじゃろう? なら妾は感謝しかないのじゃ」
「ルリアナ様」
どこかで聞いたようなセリフだな。
俺と目が合ったルリアナは、恥ずかしそうにプイとそっぽを向く。
それからユーレアスさんが話し出す。
「死に際に自分の力を切り離す。自分の意識も切り離して、本の中に閉じ込める……か。もうむちゃくちゃだね! さすが魔王だ」
「本当にそう思いますよ」
「うんうん。でも、一番驚いたのはエイト君のことだね」
そう言ってユーレアスさんがニヤリと笑う。
「まさか君の中に、先代魔王の因子があったとは」
「ええ」
「ね、ねぇ、エイト君の身体は大丈夫なの?」
「大丈夫だよアレクシア。俺は何も変わっていない。ただ知っただけだ」
「そ、そっか……」
アレクシアがホッとしている。
俺はみんなに向けて言う。
「皆さん、俺もルリアナに協力したいです」
「待てエイト」
「アスランさん?」
「お前の状態はわかった。先代の最後も。だがそいつは魔王だ。嘘を言っていないと信じられるのか?」
「はい」
「即答しやがったな」
驚いたアスランさんは続けて尋ねる。
「根拠は?」
「俺がそうだと確信しています。俺の中には彼の力がある……何度も助けられてきた力が。だからわかるんです。彼が本気で、人間と悪魔の共存を望んでいたことを。そして、娘のことを何よりも大切に思っていたことが」
「……そうか。なら良い」
あっさりと受け入れてくれた?
「先代魔王のことは知らないし、会ったことないからわからん。だけど、お前の言葉なら信用できる。お前はその力に助けられたっていうけど、俺たちはお前に何度も助けられたんだ。そのお前が大丈夫と言うなら、きっと大丈夫なんだろう」
「アスランさん……」
「ふっ、お前らもそうだろ?」
アレクシア、レナ、ユーレアスさん、フレミアさん。
全員が頷く。
それからアレクシアが勢いよく立ち上がって言う。
「よーし! 勇者パーティと魔王の共同戦線だね!」
「ああ」






