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【WEB版】この宮廷付与術師、規格外につき〜人類唯一のスキル「言霊使い」で、俺は世界に命令する〜【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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71.父と母の願いなら

「選ばれたのが君で良かった」


 サタグレアは優しく微笑む。

 亡き父の姿と重なって、心に響く。


 滅相もない。

 俺のほうこそ、貴方に選ばれたことを誇りに思う。

 今まで俺を助けてくれて……ありがとう。


 サタグレアの身体が光り出す。

 淡く光る粒子になって、ゆっくりと崩れていく。


「父上!」

「ああ、すまない。そろそろ時間のようだ」


 彼がそう言うと、空間そのものが振動し、崩壊を始めた。

 ルリアナが彼の身体を掴んで叫ぶ。


「嫌じゃ……嫌じゃ父上。せっかくまた会えたのに……もうお別れなのか?」

「……ああ」


 サタグレアはルリアナの頭を撫でながら言う。

 その微笑みは切なく、悲しそうに見えた。


「本当のことを言うとね? お前に会うつもりは……なかったんだよ」

「え?」

「この本の解除に必要なのは、私の力を受け継いだ彼だけだ。この機会は元々、彼に全てを伝えるために用意したものだから」

「父上は……妾に会いたくなかったのか?」

「会いたかったさ。娘に会いたくない父親がどこにいる? でも……でもね? 会えばどうしたって、後悔が膨れ上がってしまうから」


 サタグレアの瞳から、涙がこぼれ落ちる。

 ずっと笑顔を保ち続けていた彼は、最初から我慢していたんだ。

 最愛の娘ともう一度会えたことを、心から喜びたかった。

 残された時間の短さを理解していて、感動に浸りたい気持ちを押し殺し、俺に真実を伝えてくれた。

 そんな彼の涙を見てしまったら、俺まで涙ぐんでしまう。


「ごめん、ごめんねルリアナ。お前を一人にしてしまって、ちゃんと傍にいてあげられなくて」


 一度零れてしまったら、滝のように感情が流れ落ちる。

 もう、彼自身も抑えられない程に。


「ずっと一緒にいたかった。お前が大きくなるまで、傍で見届けてあげたかった」

「父上ぇ……ちちうえ」

「ごめん、ごめん……そんなことすら出来ない私が、今さら父親面するなんておこがましいとわかっている。それでも最後に言わせてほしい」


 ルリアナが顔をあげる。

 互いの目が合い、サタグレアは精一杯の笑顔で言う。


「どうか、幸せになってくれ。復讐ばかりに囚われないで、お前自身の幸せを掴むために生きてくれ。それが私の……いいや、私たちの願いなんだ」


 私たち――父と母。

 おぼろげだった母親の笑顔が、父の笑顔の隣に映る。

 ルリアナの涙は、さっきよりも大きくなって流れ落ちる。

 言葉はなく、涙を拭うように、父親の胸に顔を当てる。

 サタグレアも、娘の存在を噛みしめるように、彼女を抱きしめていた。


 身体はすでに、半分が消滅していた。


「エイト」

「はい」

「こうして、君たちが二人で私の前に来てくれた時、私は確信したんだ。人間と悪魔は共に歩くことが出来ると。だから頼む。私とアリシアの……世界中の者たちが願う未来を、掴んでくれ」

「はん……はい! 必ず証明してみせます。あなたの選択が間違いじゃなかったことを、貴方の力で世界に示します」


 俺の瞳から流れる涙も、気づけば止まらなくなっていた。


「ありがとう。それと、娘のことも――」


 頼む。

 そう、最後に聞こえた気がした。


 淡い光に包まれて、真っ白な世界は消えていく。

 優しい笑顔と共に。


 眩しさに目を瞑る。

 次に目を開けた時、俺とルリアナは本の前に立っていた。

 本棚に囲まれた魔王だけが入れる部屋。

 魔王の娘であるルリアナと、先代魔王の力を宿した俺。

 二人とも、涙で前が見えなかった。


 しばらく俺たちは、じっとその場で立ち尽くしていた。

 涙が止まるまで待っていたとも言える。

 服の裾で涙を拭い、受け取った言葉を思い返す。


「ルリアナ」

「……言わんでもわかっておるのじゃ」

「……一緒に戦おう」

「言わんで良いと言ったぞ」

「うん。でも、ちゃんと言いたかったんだ」


 彼女も同じように服の裾で涙を拭う。

 俺よりもたくさん泣いたから、目の周りが真っ赤だ。


「それで答えは?」

「戦うに決まっておるじゃろ」

「そう。いいのかい?」

「当たり前じゃ。父上からのお願いじゃぞ? 無下にするような妾ではないのじゃ」

「うん……そうだね。俺も恩返しをしなきゃ」


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