67.魔王しか開けられない扉
ルリアナが部屋を去ってから、セルスさんが俺たちに言う。
「申し訳ありません。ルリアナ様には、私からもう一度話してみますので、しばらくお待ちいただけないでしょうか?」
「それは構いませんが、僕たちも急いでいます。そう長く滞在するつもりはありませんよ」
「はい。存じております。ですがどうか、明日の朝までは」
部屋の窓から外が見える。
抉れた大地で見えにくいけど、夕日が遠くのほうで沈んでいる。
「そうですね。一晩くらいなら」
「ありがとうございます」
「その代わり、この城内を調べさせてもらえませんか? 先代とは言え魔王の城、その構造を知りたいのですが」
「……わかりました。破壊さえしないのであれば」
セルスさんはちょっぴり嫌そうな顔をした。
それもそうだろう。
主の城を部外者に荒らされるのは誰だっていやだ。
渋々了承してくれたのも、それだけ追い込まれている状況だからだと思う。
ルリアナが部屋を出る前に口にしたように、悪魔が人間の手を借りるなんて、俺たちにも想像がつかない。
それから俺たちは城内を散策した。
初めは全員で固まって行動していたけど、危険がないと判断してからは、バラバラに探索している。
見た目以上に城内は複雑な造りをしていて広かった。
「あれ、ここどこだろう」
気付けば迷子だ。
一度みんなと合流したくて、話をしていた部屋を目指していたつもりが、まったく見覚えのない廊下を歩いている。
「こっちだったか?」
俺は方向音痴なのかもしれない。
と思ったけど、これだけ複雑で広い城に初見なら、仕方がないと思う。
感覚だけを頼りに歩いていく。
すると、曲がり角の奥からセルスさんの声が聞こえた。
「ルリアナ様! どうかお話を聞いていただけませんか?」
「……」
「ルリアナ様……今のままでは先代の無念を晴らすことすら出来ません」
「……」
扉の向こうから返事はない。
ため息をつくセルスさんに近づくと、こちらの足音に気付いて振り向く。
「あなたはエイト殿、でしたか」
「はい。ここに彼女がいるんですか?」
「ええ」
「立派な扉ですね」
他の部屋に通じる扉も立派だったけど、ここだけ大きさや重厚感が違う。
装飾はされておらず、真黒で大きな扉だ。
「説得中でしたか?」
「はい。ですが反応してくださりません」
「中に入って説得したほうがいいんじゃないですか?」
直接向き合って話したほうが伝わることもある。
そう思って質問したけど、セルスさんは首を横に振る。
「この扉は、魔王様にしか開けられないのです」
「そうなんですか?」
「ええ。どんなことをしても破壊できず、魔王様とそのご子女にしか開けられない。リブラルカの襲撃を受けた時は、先代が私とルリアナ様をここへ誘導してくださったお陰で、何とか生き延びることが出来ました」
「そう……だったんですね」
俺とセルスさんは扉を眺める。
この扉の向こう側で、二人は息を潜め、耐え忍んでいたのか。
そして今、俺が立っている側に、父親の仇が迫っていた。
辛かっただろうな。
簡単に口にして良い言葉じゃないと思って、心の中だけで呟いた。
「私は食事の用意をしてきますので」
「はい」
セルスさんが離れた後も、俺は一人で扉の前に残っていた。
魔王にしか開けられない扉。
現魔王でも壊すことが出来なかったという。
純粋に興味があって扉に触れる。
「硬いな……開かないや」
普通に開けようとしたけど、当然のごとくビクともしなかった。
セルスさん曰く、先代やルリアナのように魔王の血筋の者にだけ反応する仕組みらしい。
説明してもらったけど、正直よくわからなかった。
「うーん……あ、そうだ」
一つ閃いた。
といってもまず無理だと思うが、ものは試しだ。
「『開け』」
言霊で呼びかける。
さすがにこれで開いたりは――
ガチャリ
「あれ?」
鍵が解除される音、のようなものが聞こえた。
半信半疑で扉を開いてみる。
すると、すんなり開いた。
「あ、開くんだ」
「な、何じゃ! どうやって入ってきた!」
中には本棚がたくさん並んでいて、扉を入って正面にある椅子にルリアナは座っていた。
俺が入ってきたことに驚いて身体を捻る。
その拍子に体勢を崩して、椅子ごとフラフラ揺れる。
「わ、わっ!」
「あぶない!」
俺はすぐに駆け寄って倒れる彼女を抱きかかえた。
今度もギリギリセーフ。
「大丈夫?」
「あ、ありが……じゃない! 離すのじゃ!」
「うおっと」
またパンチされるところだった。
今度は躱せてホッとする。
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