7.サラマンダー討伐失敗【追放側視点】
「ふぅ。何とかなった」
リッチーを倒した俺は額の汗をぬぐう。
ここまで順調に進んでくれてラッキーだったな。
正直ヒヤヒヤものだったし、もっと苦戦するだろうと思って、いくつか手は残していたけど、使う必要もなかったみたいだ。
これで一安心。
「いやいや! まだ終わってないな」
残りのアンデッドを討伐しないと。
そう思って戦場に戻ると、すでにアンデッドの群れはいなくなっていた。
「騎士団長」
「エイト殿! そちらも終わったのだな?」
「はい。リッチーは浄化しました」
俺がそう答えると、騎士団長の後ろから「おぉー」という声が聞こえてくる。
「さすがエイト殿だ。こちらもアンデッドの掃討は完了した。エイト殿の付与のお陰で、拍子抜けするほど楽に終わったよ。本当にありがとう」
「いえ、皆さんの実力があってこそです。俺はただ支援しただけですから」
「謙虚なのだな。この勝利はエイト殿のものだ。ここにいる皆、そう思っているぞ?」
騎士たちが頷く。
何だか照れくさくて、俺は誤魔化す様に笑う。
こうも褒められたことなんて、冒険者をしていた頃にはなかったから。
「宮廷で働く件だが、私からも推薦しよう。エイト殿がいてくれると、我々も助かる」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「礼を言うべきはこちらだ。今後ともよろしく頼む」
「はい!」
俺と騎士団長は固い握手を交わした。
こうしてリッチー戦は、俺たちの勝利で終わった。
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その一方、時間は少し遡り、リッチー戦に失敗したルミナスレイジ。
命からがら逃げだして、何とか王都に帰還していた。
死の風を使われなかったのは奇跡に等しい。
もしも使われていれば、間違いなく殺され、ゾンビにされていただろう。
「くそっ!」
カインは壁を殴る。
依頼失敗の報告を済ませ、ギルドからは注意されてしまった。
積み重ねてきた信用にひずみが生じる。
そして――
「おいライラ、どういうことだよ?」
「……」
「浄化魔法で何とかなるんじゃなかったのか?」
「そ、そのはずだったの」
「はずじゃないだろ! 失敗したのお前の所為なんだぞ!」
メンバー同士の仲にも亀裂が走っていた。
言い返せないライラと、必要以上に攻め立てるカイン。
リサとシークの二人がなだめようとするが、説教はしばらく続いた。
その後、信用を回復するため次なる依頼を受ける。
サラマンダーの討伐依頼。
以前、まだエイトが在籍していた頃に受けたことのある依頼だった。
一度は難なくこなせたのだから、今回は問題ないだろう。
そういう話でまとまり、サラマンダー戦に臨む。
サラマンダーは、炎を纏う巨大トカゲのモンスター。
元は精霊だったとされており、炎を自在に操り、あらゆるものを焼き尽くす。
体中に高温の熱を帯びているから、金属系の武器は効果が薄く、大抵の装備は熱で溶けてしまう。
故に、近接戦闘を得意とする戦士タイプにとっては天敵ともいえる相手だ。
「くそがっ! この程度の熱にも耐えられないのかよ!」
「っ、槍先が……」
「一旦下がって! あたしの魔法で熱をどうにかするから!」
案の定、剣士のカインと槍使いシークは苦戦を強いられていた。
武器の金属は触れるだけで溶解し、着ている鎧も熱を帯びて焼けるように熱い。
鎧を着ていると蒸し殺しにされるから、脱ぐしかない。
しかし防具もなしに一撃を受ければ、確実に死ぬだろう。
必然的に後退し、戦闘は魔法使いのリサ頼りになる。
もっとも、魔法使いと言えど、サラマンダーの炎に対抗するのは簡単ではなかった。
「っ! 駄目、氷も水も届く前に消される」
「何なんだよ! 前は余裕だったじゃねーか!」
そう、以前は何の問題もなかった。
ただしそれは、エイトの付与によって『火属性耐性』、『熱耐性』など。
サラマンダーと戦えるだけの状態が整っていたからだ。
未だに気付けない彼らの鼻は、それだけ伸び切っていたのだろう。
しかし、リッチー戦の敗北と現在の苦戦。
さすがの彼らでも薄々感づき出す。
今までの優勢が誰のお陰だったのか。
たっぷり満ちていたはずの自信がこぼれ落ち、本来の実力が露見する。
「ここまでだカイン。撤退しよう」
「……ふざけるな。こんな……」
こんなはずではなかった。
四人とも、心の中で同じように呟く。
こうして、サラマンダー討伐も失敗してしまった。
彼らは続けて、同レベルのSランク依頼を受け続ける。
信頼を取り戻し、自信をつけるため。
それらは全て失敗に終わった。
度重なる依頼失敗により信用を失い、ギルドから勧告を受ける。
ルミナスエイジは、SランクからAランクパーティーへと降格した。