64.熟練度の差
新作のほうもよろしくお願いします!
老魔が構える細い剣は、人間が使うサーベルと形状が近い。
強大な魔力を感じることからして、おそらく魔剣の一種ではありそうだ。
ただ者ではない気迫から予想できる実力の高さに、前衛二人もいつになく本気の目をしている。
とは言え人数的にはこちらが圧倒的に有利。
油断さえしなければ、負けることはないと思った。
「覚悟を」
老魔が剣を振るい前へ出る。
一瞬で間合いを詰められる速度を見せるが、アレクシアとアスランさんは反応していた。
アレクシアが剣を交わす。
「良い打ち込みです。だが荒い」
「っ、うわっ!」
アレクシアの剣を軽くいなし体勢を崩させる。
そこへ突こうと剣を構えた老魔。
アスランさんが庇うように攻撃し、老魔はアスランさんと交戦する。
剣と槍。
リーチではアスランさんに軍配があがる。
槍を扱う速度も瞬きのごとく。
アスランさんの攻撃を捌き切るのは、アレクシアでも至難の業だと言っていた。
老魔それを簡単にやってのける。
「これを受けきるのかっ」
「凄まじい速さ。ですが慣れれば何の問題もない」
アレクシアも攻撃するが、二人相手を意に介していない。
どころか苦戦しているのは二人のほうだ。
「これほどか」
「マスター、ワタシも戦います」
「駄目だよ」
「なぜですか?」
「君は強いけど、あの二人と連携が取れる程の信頼関係は築けていないだろ? 今はいれば確実に邪魔になるよ。それより周囲を警戒しておいてくれ。魔王がいるなら、いつ現れても対応できるように」
「了解しました」
ユーレアスさんにしては冷たい言葉だが仕方がないと思う。
今の三人に混ざろうというのが無理だとさえ思えるほど、激しい戦いを繰り広げていた。
隙がなさ過ぎて、俺も下手に手を出せない。
攻守の移り変わりが激しい中で言霊を使って、もし二人に効果が出てしまえば悪手だ。
しかし押されているのは二人。
このまま何もしなければ、均衡は崩れる。
「エイト君も準備して。文字通り横やりを入れるよ!」
先に動いたのはユーレアスさんだった。
魔法陣を展開し生成されたのは、氷で出来た十本の槍。
それらを操り、老魔へ放つ。
「横やりとは無粋ですね」
老魔は戦いながら魔法陣を展開。
氷の矢を生成し、氷の槍を相殺する。
「同種の魔法で打ち消したのか」
「少々お待ちいただこう」
続けて老魔は炎を生み出し、蛇の形に変化させ俺たちに放つ。
「守護の光よ――」
フレミアさんが守りの結界を発動し防御する。
あれだけ高速の戦いの中、外からの攻撃にも難なく対応する。
二人との戦いを見てわかった。
一撃の重さや反応速度はアレクシアが上だし、攻撃の速度と鋭さはアスランさんのほうが秀でている。
出ているのは完全に、熟練度の差だ。
技術面において、あの老魔は二人を遥かに凌駕している。
「ホントに恐ろしいね。だけどこういう時こそ搦め手だ。エイト君、剣を!」
「はい! 開門」
ユーレアスさんの意図をくみ取り、俺は魔道具から無数の剣を取り出し、老魔の頭上へ待機させる。
「これは――」
「二人とも下がって!」
俺の声に反応して、二人が大きく後退する。
そこへ剣の雨を降らせる。
「甘いですね」
だが老魔はこれにも難なく対応して見せる。
降り注ぐ剣を叩き落とし、周囲に散らばる。
これで準備が一つ終わる。
「『動くな』」
「っ――」
二人が離れたことで、言霊を放つ隙が出来た。
動きを封じられた老魔は、眼球だけを動かし俺を睨む。
「強制の言霊!?」
一瞬、何かを理解したように眉を細める。
そして――
「かっ!」
老魔が叫んだ。
「なっ……」
無理やり拘束を解除した?
そんなことまで出来るのか?
「いいや、それで十分だよ」
パチンと指を鳴らす。
今までで最大の隙に、散らばった剣と二人の位置が入れ替わる。
突然前後に現れた二人に、老魔も反応が遅れる。
「しまっ――」
アレクシアが剣で斬りおろし、アスランさんが槍をくるりと回して斬り上げる。
血しぶきが舞う。
「ぐっ……邪魔だ!」
老魔は歯を食いしばり、拘束を解除した時と同じように叫ぶ。
彼を中心に衝撃が広がり、二人が大きく吹き飛ばされてしまう。
「アレクシア!」
「だ、大丈夫だよ、エイト君」
アレクシアは瓦礫に剣を突きたて起き上がる。
「アスラン!」
「心配するなフレミア、それより集中しろ。まだ終わってないぞ」
アスランさんは瓦礫に埋もれたが、それを突き破って出てきた。
口から血を流し、唾と一緒にぷっと飛ばす。
まだ終わっていない。
アスランさんはそう言うが、老魔の傷は見るからに深い。
すでに決着はついたようにも思える。
「ここは通さない……我が主に指一本触れさせん」
負傷して気迫は増している。
絶対に通さないという硬い意思が見える。
誰かを守ろうとしている、守ると誓った強い目だ。
戦う意思は消えていない。
だから二人も、再び武器を構える。
そこへ――
「待つのじゃ!」
高い女の子の声が響く。






