62.先代魔王の城
ゲーデを出発し、魔王城へ向かう。
インディクスから提供された情報に沿って、最短ルートで進む。
今まではとりあえず西へ進むしか出来なかったけど、魔王城までのルートが明確になっただけで、旅の日数がいくらか短縮できそうだ。
「インディクスの情報が正しければな」
「おや? アスランはまだまだ疑い中だね」
「そりゃそうだろ。ちょっと前まで敵だった相手だぞ?」
「まぁね」
「そういう意味じゃ、彼女も信用できてるわけじゃないんだが……」
アスランさんはエリザに目を向ける。
トコトコとユーレアスさんの後ろにピッタリくっついて歩いている。
「本当に大丈夫なんだろうな? 魔力無効化できるんだろ?」
「うん。僕らにとっては天敵だね。逆に味方となれば心強いだろう?」
「そうだけど」
「心配しなくても大丈夫だよ。元々彼女は、僕らに恨みがあったわけでもない。ただ命じられたままに行動していた。今の主人は僕だから、僕らに危害を加えることはないよ」
「だと良いがな。何かあったら責任取れよ」
「その責任って言葉最近よく聞くな~」
能天気に話しながら進んでいくと、情報にあったとある地点に入る。
魔王城までは徒歩で二十日の距離。
道草をくっている場合ではないが、確認しなくてはならない。
「もう一人の魔王がこの辺りにいるんだよね?」
「ああ。インディクスの情報通りならだけど」
「それに関しては嘘だとありがたいわね。敵が増えるのも面倒だわ」
「えぇーでもさ。魔王が二人って変だよね? 仲が良いとは思えないし、もしかしたら協力できるかもしれないよ?」
「勇者がそれを言って大丈夫なの?」
レナが呆れている。
俺も乾いた笑いが出た。
「全員止まって」
突然、ユーレアスさんがそう言った。
ピタリと立ち止まる。
「少し静かに。変な音が聞こえる」
「音?」
耳を澄ます。
風で草木が揺れる音が聞こえる。
それに混ざって、地響きに近い振動音が聞こえてくる。
どんどん大きく、近づいてくるように。
「ゆ、揺れてるよ!」
「自然の揺れじゃなさそうだね」
「敵の攻撃か?」
「まだわからない。とにかく警戒して。エリザはよく立っていられるね」
「この程度の揺れは想定済みですので。マスター、指示して頂ければワタシが確認に行きます」
「いいや、女性を一人で行かせるわけないないさ。それにほら? 揺れが収まってきたよ」
振動が徐々に弱まり、俺たちも立っていられる程度になる。
次第にゼロになって、音もしなくなった。
揺れの発生源はおそらく前にあるだろうと考え、俺たちは警戒を強めて前進する。
そうして進むと、開けた場所に出た。
「こ、これ……穴?」
開けた場所、という表現は聊か間違っていたと思う。
地面が大きくえぐれている。
空になった湖のように。
その中心に、城が建っていた。
「建っている……のかな? 沈んでいるようにも見えるけど」
「お城だね。古いお城」
「そうね。こんな場所に? インディクスの情報に城なんてあったの?」
レナに言われてもらった情報に目を通す。
もう何度も見ているから、確認するまでもないのだけど、一応見てみる。
「ないね」
「やっぱり騙されてるんじゃないでしょうね?」
少し不安になってくる。
ユーレアスさんがエリザに尋ねる。
「エリザ」
「何でしょう? マスター」
「君は確か、インディクスから色々な情報を教えられているんだよね? その中に、ここに関する情報はないのかな?」
「あります」
「本当かい?」
「はい」
「教えてくれるかい?」
エリザがはいと答え説明を始める。
「ここにはかつて、先代魔王の城があったそうです」
「先代魔王?」
「はい。現魔王は約二年前に、先代魔王と戦い勝利しました。その際の戦場がここであり、魔王城は城下町ごと破壊され……とのことでした」
先代魔王の城があった場所。
そこについても驚きだが、みんな驚いているのは別のことだ。
今の魔王の前に、別の魔王がいたのか?
魔王は二年前に新しく誕生したわけじゃなくて、別の魔王からすり替わった?
「おいおい、その話が本当なら……ここで魔王を名乗っている奴って」
アスランさんが途中まで言って言葉を詰まらせた。
言うまでもなく、同じ予想が脳裏に過る。
先代魔王が――この地にいる?






