61.よく似合ってる
新章突入!
インディクスの情報は大きく分けて三つ。
一つは、魔王城の構造について。
魔王城は言わずもがな魔王の領域だ。
そこで戦うことを考えると、構造を知っているということは武器になる。
少なくとも不利を和らげるくらいにはなるだろう。
二つ目は、魔王と残り二人の幹部の能力。
魔王に関しては特に情報がなかったから、これで対策も立てられる。
さらに幹部二人のうち、側近である一人は魔王城から離れない。
つまり、道中で戦うことになる幹部は、あと一人ということだ。
そして三つ目、これがおそらくもっとも重要な情報。
噂にあった凶悪な兵器の存在。
それが事実だったと知る。
「その兵器はすでに完成している。何せこの私が設計して造り上げたのだからな。しかし運用に必要な魔力が膨大過ぎて、完成してすぐには起動できなかった。今も魔力を貯め続けているだろう。私の予測では、あと一か月あるかどうか」
「もし魔力が貯まったら、どうなるんだ?」
「無論、人間界は更地になるだろうね。あれは範囲と威力を極限まで高めた破壊兵器だ。一度使えば壊れてしまう分、威力を抑えていない」
俺はごくりと息を飲む。
彼が言う人間界とは、未開拓地域を除いた大陸の六割。
その六割が、一瞬で更地になるという。
信じられない話だけど、ここで戦った数々の魔道兵器や、ユーレアスさんの隣にいるエリザを見て、嘘ではないのだろうと思ってしまう。
彼の技術力ならば、それくらいは出来てしまいそうだと。
「急いだほうが良さそうだな」
「ああ。私としても早急に出発することを勧めるよ。あーそれともう一つあった。その資料の最後にも書いたが、気になる情報があってね。確かめてくるといい」
インディクスの資料に目を向ける。
最後に書かれていたのは、魔王軍とは直接関係のない情報だった。
ただ、魔王とは関係がありそうな情報ではある。
「もう一人の魔王……本当にそんなのがいるのか?」
「さぁな。だが地図で示したその場所に、魔王を名乗る何者かがいることは確かだ。もし事実なら、君たちにとっても捨て置けないだろう?」
確かに事実なら、放ってはおけないことだ。
仮に魔王を倒しても、別の魔王が新たに生まれれば、また同じことを繰り返す。
敵ならば倒すべきだし、あまり想像できないけど、協力できるなら……とも思う。
「とにかく魔王城へ急ぐことだ。必要な物があるなら、ここから適当に持っていくと良い」
「エイト君」
「ああ、急いで魔王城へ行こう」
「ええ。その兵器が使えるようになる前に」
「ちょっと待った!」
他のみんなも出発を急ごうとする中にひと声。
声の主はユーレアスさんだった。
「な、何ですかでかい声出して」
「その前に重要なことが残っているよ!」
「重要なこと?」
「一体何が?」
「極めて重要なことだよ。今後の旅に大きく影響する……」
いつになく真剣な表情を見せるユーレアスさんに、一同がごくりと息を飲む。
そして、溜めに溜めて言い放ったのは――
「エリザの服を準備しなくては!」
間違ってはいないから、反応に困る内容だった。
「そ、そうだね。その服でずっとは恥ずかしいよね」
「ええ、まぁ……間違ってはないわね」
「ユーレアスがまともなこと言ってるな」
「言ってますね。意外です。てっきりそれもユーレアスさんの痛い趣味かと」
フレミアさんの発言が一番心に刺さりそうだ。
痛い趣味か。
それって間接的にインディクスを煽っているけど、本人は気にしてなさそうだな。
「と・に・か・く! 服は大事だよ! エリザもその恰好のままは嫌だろう?」
「いえ特に問題ありません」
「え……」
どうやら本人が一番乗り気じゃないようだ。
しかし目のやり場に困るのも事実なので、ユーレアスさんが説得して、街で服を買ってから出発することになった。
「女の子の服選び……俺は何も出来そうにないな」
「オレも同感だな。できれば店の中に入るのも嫌なんだが……」
「さすがに外で待ってるのも不審者みたいですよ」
「ああ、諦めよう」
「エイト君! アスラン! 早く入りなよ!」
アレクシアが手を振って呼んでいる。
俺とアスランさんは同時にため息をついて店内へ。
女性物の服が並ぶ道を歩くとき、どこを見ていればいいのかわからなくて、挙動不審になっていた。
「この服とか似合うと思うの!」
「そうかしら? この子にはこっちじゃない?」
「私はもっと清楚な方が」
「……」
女性陣は楽しそうに選んでいる。
本人は無表情で、何を考えているかイマイチだが。
「微笑ましい光景だね~」
「ユーレアス、あなたも選びなさいよ」
「え? 僕も?」
「当然でしょ。あなたが言い出したのよ」
レナに指摘されたユーレアスさんが、女性陣の輪に加わる。
「そうだな~ じゃあこれと、これ」
ユーレアスさんが選んだ服をエリザに手渡し、試着してみる。
白色をメインにした軽装で、ショートパンツに脚の露出は多いけど動きやすそう。
上着もシンプルで、彼女の水色の髪によく合っている。
「中々良いじゃない」
「ですね。もっと際どい服を選んでくるかと」
「フレミアさんは僕を変態だと思っているよね?」
フレミアさんはニコリと笑った。
口では言っていないけど、ほぼ肯定している。
「ひどい誤解だよ。それどう? エリザは」
「これにします」
「え、そんな簡単に決めていいの?」
「はい。これがいいです」
エリザは迷わず即決した。
たぶんだけど、ユーレアスさんが選んだものだから……なのだろうか?






