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【WEB版】この宮廷付与術師、規格外につき〜人類唯一のスキル「言霊使い」で、俺は世界に命令する〜【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章

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59.魔法のキス

 エリザの皮膚は魔力を通さない。

 言葉に魔力を込めたものが言霊、だから彼女には届かない。

 魔力を帯びた振動は、彼女の皮膚に阻まれる。

 インディクスの口ぶりからして、視覚や聴覚からの刺激も通していないようだ。

 どういう仕組みか定かではないが、こちらの声は聞こえているらしい。


 ここまでにわかったことを整理する。

 つまり彼女は、俺やユーレアスさんにとっての天敵である。


「女性の扱い方か。ぜひともご教授願いたいね。そんなものでエリザが倒せるのなら」

「倒すんじゃないよ。戦うのを止めてもらうだけだ」

「そんなことは不可能だ」

「いいや可能だよ。それを見せてあげる」

「ふっ、防戦一方でよくもそう強気な発言が出来るものだな」

「当然さ。僕は男だからね? 弱い姿を、女性の前で見せるものか。男は格好つけてこそだよ」


 そう言いながらも、ユーレアスさんはジリジリと差を詰められている。

 位置替えに適応しているエリザが、タイミングを合わせる。

 

「美しい女性に迫られるなんて光栄だね。逃げ回るのは失礼か。なら今度は――」


 ユーレアスさんの位置替えは、魔力を帯びている対象に有効だ。

 そして、対象は一つではない。

 複数の剣を同時に移動させ、エリザの前に移動させる。

 エリザは剣を叩き砕く。

 その破片の一つと、ユーレアスさんが入れ替わる。


「僕のほうから近づこう」

「ユーレアスさん!」


 愚策だと思った。

 速度で勝る相手に、自分から距離を詰めるなんて。

 現にエリザは反応して、拳を振り抜く。


「残念、それは偽物だ」


 拳がユーレアスさんの身体を突き抜ける。

 本体ではなく、魔法で作った土人形を自身の姿に見せていた。

 脳に作用する幻術は効かなくとも、似せた作り物なら騙せる。

 一瞬の隙が生まれ、本物のユーレアスさんが位置替えで急接近する。


「隙あり」


 千載一遇のチャンスに繰り出されたのは、最強の魔法でも、究極の一撃でもない。

 不意打ちで、エリザの唇を奪う。


「――!?」


 驚くエリザ。

 そして俺も、心の中で叫ぶ。


 この状況で何してるんですか!


 唇が触れる程近い距離。

 反撃されれば一巻の終わり。

 だが、エリザは反撃をしてこない。

 長く、舌を絡ませながらキスを続ける。


「ぅ……うぅ……はっ……」

「ごちそう様」


 エリザがぐったりと倒れ込む。

 そんな彼女をユーレアスさんは優しく抱きかかえる。

 状況について行けない俺は、その光景をポカーンと見つめる。


「何故だ? 何をした?」

「安心したまえ。少し魔力を吸わせてもらったのと、一時的に身体を麻痺させただけだよ」

「ど、どうやって? 彼女に魔法は通じないんじゃ」

「ああ、通じないだろうね。でも思い出してみてごらん? 君の言霊を受けた時、彼女は口を固く閉じていたよ」

「え、口?」


 そうだったか?

 俺はあまりピンとこない。


「生物であるなら呼吸は絶対に必要なことだ。彼女だって例外じゃない。空気を取り込むための口には、余計な効果は付けれなかったのだろう。どうかな?」

「……正解だ。まさかそれを一瞬で見破るとは」

「嘗めてもらっちゃ困るよ。男性はどうでもいいけど、女性のことはよく見ているんだ」

「ふ、はっはははは、その差か。なるほど、そんなことで唯一の弱点を見破られるとは」


 目、耳、皮膚と同じ効果を持つ膜で覆っている。

 耳に関しては鼓膜がその役割をしているとインディクスが語る。

 口だけは、空気を直接取り込むために細工が出来なかった。

 対処法として、戦闘中は呼吸回数を最小限にする方法をインプットされていたようだが、それも無限じゃない。


「本当に……あの一瞬で見抜いたんですか」

「そうだよ。だから言ったじゃないか。女性の扱いは慣れているんだ。それに――」


 身体がしびれて動けないエリザに、ユーレアスさんは自分のローブをかける。


「人前でこんな格好をさせちゃダメだよ。女性は大切にしなくちゃ」

「素晴らしい」


 パチパチパチ。

 拍手が聞こえてくる。

 いつの間にか、扉を変えてインディクス本人が部屋に入っていた。


「黒幕登場だね。ここからが本当の戦いかな?」

「いいや、私の負けだよ」

「え?」

「へぇ、まだ戦ってもいないのにかい?」

「最初から言っているじゃないか。ここにたどり着けたら君たちの勝ちだと……」


 インディクスが動けないエリザに目を向ける。


「それが負けた時点で、私では君たちに勝てない。だからこうして、白旗を挙げに来たのさ」

「降伏する気かい?」

「そうだ。私にとって魔王軍の幹部であることは、さほど重要なことではないのだよ。魔道具作りに没頭できる場所と資金の提供があったから、彼に協力しているに過ぎない。せっかく良いデータがたくさんとれたんだ。ここで死んだら馬鹿だよ」


 やれやれと身振りで示すインディクス。

 確かに敵意は感じない。

 感じないけど……


「そんな言葉が信用できると思うのか?」

「だろうね。ならば、私が持っている情報を全てあげよう。魔王城の構造、他の幹部たちの能力、魔王の力……君たちはまだ持っていない情報だろう? 加えて私は、この街から一切出ないし、人間にも危害は加えない」

「口だけじゃないか。そんなの――」

「わかったよ」

「え、ユーレアスさん?」

「大丈夫だ。彼は嘘言っていない。僕にはそれがわかる。彼にとって重要なのは、魔道具作りを続けることで、他はさほど重要じゃないのさ」


 二人が目を合わせて、何か通じ合ったように頷く。


「ここで彼を倒すより、情報を聞き出す方が僕らにとっても有益だよ」

「……わかりました」


 油断も信用も出来ないけど、ユーレアスさんの意見は一理ある。

 負傷している俺にとっても、ここで戦闘にならないことは、確かに有益だ。

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