57.魔造美少女
最初に合流を果たしたのは、アスランとフレミアの二人だった。
続いてアレクシアとレナのペア。
一番合流が遅かったのは、エイトとユーレアスのペアだ。
しかし合流してからの勢いは三組の中でダントツ。
エイトの付与とユーレアスの魔法が合わされば、大抵の関門は突破も容易だったのだ。
そして現在、最深部一歩手前まで到達していた。
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「いや~ 順調順調! もしかして僕らが一番乗りできるんじゃないかな?」
「……」
「おや? どうしたんだいエイト君? そんなに疲れたみたいな顔をして」
「疲れてるんですよ」
「うーん? そこまで疲れる相手だったかな? 僕らの力が合わされば、どんな魔道兵器も楽勝だっただろう?」
「……ええ、まぁ戦闘は楽でしたよ」
疲れた原因はそこじゃないですからね。
この人……本気でわかってない顔をしている。
戦いの途中で急に考え事を始めたり、敵の攻撃を分析したいからってわざと受けようとしたり。
あまつさえ構造を知りたいから言霊で動きを止めていてくれとか……
戦闘そのものより、この人の我儘に付き合わされたお陰で、俺一人だけ倍の疲労を感じているよ。
「まぁ良いじゃないか。おそらく次が……最後だ」
「なんでそう思うんです?」
「見てごらん。あの扉だけ色が違うよ」
「ああ……確かに」
目の前にある扉は、金ぴかの装飾が施されている。
これまでの扉はどれもシンプルで、周りの白い壁に溶け込む色をしていた。
「あの扉を見ていると、屋敷を思い出しますね」
「うん。インディクスは本当に派手好きなんだろうね。じゃあ最後も気を引き締めていこうか」
「ユーレアスさんは自重してくださいね」
「え、うん?」
この様子だと無理そうだ。
俺は諦めてため息をこぼす。
そのまま最後らしき扉に向い、集中し直すように一呼吸おいてから、その扉を開けた。
また同じ部屋が広がっている。
違いがあるとすれば、正面に今潜ってきた扉の倍は派手な扉があって、そこを守るように誰かが立っていること。
「あれはインディクスの後ろにいた?」
「綺麗な女性だね。まさか最後の番人は彼女なのかな?」
「その通りだよ」
部屋にインディクスの声が響く。
「ようこそ最終関門へ。やはり君たち二人が一番にたどり着いたか。予定通りで助かるよ」
「予定通り? 僕らが合流したことも、君の想定内だったってことかな?」
「もちろんだ。最初に言っただろう? ブロックは私の好きなように配置を変えられる」
「なるほど。気付かない内に誘導されていたということか。だがわからないな? それなら合流させないほうが、君にとっては好都合だったはずだよ? 僕らを倒すなら、各個撃破のほうがやりやすかっただろうに」
ブロックの配置を自在に変えられるのであれば、合流は簡単に防げただろう。
いったい何ブロックあるかは知らないが、合流を妨害し続け、魔道兵器と連戦させればよかった。
生身の俺たちは体力も無限じゃない。
いずれ限界は来る。
しかし彼はそうしなかった。
「これも言ったはずだよ。私の目的はデータをとることだ。今後の開発に、君たちとの戦闘データは大いに役立つ。倒すのは最終的にで構わない」
「あくまで君自身のためか」
「そうだ。そして今、君たちの前に立っているそれは、私の魔道兵器の中で最高傑作と呼ぶにふさわしい!」
「魔道兵器? 彼女が?」
ユーレアスさんが驚き目を見開く。
俺も同様に、目の前の女性へ視線を向けた。
全身を灰色の布で隠しているが、顔は人間にしか見えない。
ぱっと見のイメージでしかないのだけど、今までの魔道兵器と違うことは確かだ。
「彼女が魔道兵器だというのかい? 僕には生きた悪魔……いや人間に見えるけど?」
「それで間違いではない。彼女は生きている。私が生み出した新たな生命だ」
「生命? 君魔道の力で生命を生み出したのか?」
「ああ、そうだ。素晴らしいだろう?」
「素晴らしい……本当に素晴らしいよ!」
ユーレアスさんが無邪気に笑う。
高揚しているのが一目でわかるほど興味を向けている。
たくさんの女性に囲まれた時よりも、これまでの魔道兵器を見た時よりも、数段上の喜びを感じているようにも。
「魔道の力で新しい命を生み出す! 君は神の領域に踏み入ろうとしているんだね」
「ああ、そうだとも! 理解できるか魔導士ユーレアス! ならば存分に堪能してくれたまえ!」
「いいとも望むところだ! ぜひとも見せてくれ! 魔道の極致を!」
改めて思う。
この二人は、よく似ている。
「エリザ、お前の力を示せ」
「了解しました。マスター」
インディクスの命令に反応した彼女は、そのマントを脱ぎ去った。
「なっ……」
「ほう」
思わず目を塞ぎそうになった。
というより、目のやり場に困っている。
マントの下に隠された彼女の身体は、透き通るように白くて傷一つない。
「おやおや、さすがに頂けないな~ せっかく綺麗な女性なんだから、ちゃんと服は着せてあげようよ。これじゃ局部を隠しているだけじゃないか。僕は嬉しいけど」
本音が漏れてる。
「その必要はない。これが最善、服は邪魔になる」
「邪魔? まさか……君の趣味なのか? だとしたら変態じゃないか!」
「ユーレアスさんも嬉しいとか言ってましたよね」
「僕は良いんだよ」
「何で?」
「残念ながら外れだ。理由は戦ってみればわかるよ」
「う~ん、今さらだけどやっぱり女性と戦うのは気が引けるな~ 手加減してしまいそうだよ」
「安心したまえ。そんな余裕は――」
刹那。
彼女が視界から消える。
「なくなるよ」
すでに彼女は、俺たちに手が届く距離へ接近していた。






