表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/107

6.リッチー討伐戦

 リッチーがいるという腐食の森は、土や木々が腐り、鼻が曲がりそうな異臭を放っている。

 ただの異臭ではなく、吸い続ければ状態異常にかかる危険なものだ。

 そこで騎士たちの装備にも環境に適応できる付与が施してある。

 

「凄いな。前に来た時は臭すぎて息もしたくなかったのに」

「ああ。それに視界も良好だ」


 まず騎士の兜には、異臭から鼻を守る『嗅覚鈍化』と、暗闇でも視界をクリアにする『暗視』が付与されている。

 そして鎧には『状態異常耐性』ともう一つ、リッチー戦でもっとも注意すべき攻撃の備えがしてある。


「エイト殿、そろそろ敵が見えてくる」

「はい。では手はず通りに行きましょう。俺は上へ行きます」

「ああ」


 進行する騎士の一団から離れ、俺は一人空を翔る。

 俺のブーツには着地の衝撃を和らげる『衝撃吸収』と、空気を足場に空中を移動できる『空中歩法』が付与されている。

 なるべく高く、戦場全体が見渡せるポイントへ。

 別に逃げているわけでも、安全地帯を探しているわけでもない。


「見えてきたぞ! 皆の者剣をとれ!」


 ロランド騎士団長の指示で、部下の騎士たちが剣を抜く。

 リッチーとそれを守るアンデッドモンスターの大群が、彼らを待ち受けている。


「愚かな。再び我に供物を捧げに来たか」

「かかれ!」


 戦闘が開始される。

 連戦連勝で余裕を見せているリッチー。

 リッチーの周辺にいるアンデッドは不死性を強化され、並みの浄化魔法は通用しない。

 ただし――


「斬れる、斬れるぞ!」

「何だと?」


 俺の付与した『不死殺し』は、並みの浄化魔法なんかとは違うけどね。


「……知恵を付けたか。だが所詮その程度……」


 リッチーが右腕を前にかざす。

 青白いオーラが身を包み、足元から黒い霧のようなモヤが現れる。


「あれは!」

「死こそ絶対の力である」


 死の風。

 リッチーがもつ特有の攻撃スキルだ。

 黒い風に触れた者を強制的に即死させる凶悪な攻撃。

 あれには状態異常耐性も意味をなさない。

 リッチーの攻撃手段の中で、もっとも注意しなければならない攻撃がこれだ。

 そう、だから備えてある。


 『即死耐性』。


「……なぜ死なない? 我が死に抗うとは」

「凄い、凄いぞ! あれを受けて何ともないなんて!」

「これなら戦える! 怖いものなんてない!」


 死の風を防いだことで、騎士たちの士気が上昇したようだ。

 怒涛のようになだれ込み、アンデッドの群れを斬り倒していく。

 この様子なら地上は問題ないようだ。


「さて」


 俺は変形弓と矢を取り出す。

 地上の騎士たちの役目は、アンデッドの一掃。

 俺の役割は、空中からリッチーを狙撃することだ。

 

 『射程距離増加』と『連射』が付与された弓で、この『不死殺し』と『自動追尾』が付与された矢を放つ。

 連射の効果で、一本の矢から無数の矢を発射できる。


「矢の雨をくらえ」


 不死殺しの矢を放つ。

 リッチーはこちらに気付いていない。

 脳天に一矢、確実に当たる角度。

 しかし、矢はリッチーの手前で防御されてしまう。

 半透明の結界が、リッチーを中心に展開されていた。


「魔力障壁か」

「む……空にハエがいるのか」


 リッチーが空を見上げようとする。


「『透明化』」

「……姿はない。どこだ?」


 その前に、自身の服に『透明化』の効果を付与。

 リッチーには俺の姿が見えない。

 一つの物に対して付与を永久に持続できるのは二つまでだ。

 すでに俺の服には、『状態異常耐性』と『即死耐性』が付与されている。

 三つ目も付与するだけなら可能だ。

 ただし、付与して一定時間経過すると勝手に解除されてしまう。

 透明化の効果が消えるまで残り五秒。

 効果が切れる前に、場所を変えて再度狙撃の体勢に入る。

 

「魔力障壁。それも相当な強度だな」


 だったら追加の付与だ。

 矢に『防御貫通』を、弓には『付与効果増強』を追加。

 効果は一時的だけど、一矢放てれば十分。

 放たれた矢が降り注ぐ。

 リッチーも気づいたが、障壁を突破できないと思い余裕を見せる。


「無駄なことを」

「どうかな?」


 矢は防御貫通の効果を発揮し、魔力障壁を突破。

 そのままリッチーの身体を射抜く。


「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「よし!」


 何発か当たったが、まだ足りない。

 もう一発入れれば確実に浄化できそうだ。


「させん……そうはさせんぞぉ!」


 リッチーが叫ぶ。

 その直後、リッチーの足元が異様に膨れ上がり、恐ろしい巨体が現れる。

 突然の地響きに動揺する騎士たち。

 空中から見えている俺だけが、その輪郭を捉えていた。


「な、何だ?」

「デッドリードラゴン!」


 無数の屍を織りなし生み出された死の竜。

 アンデッドのドラゴンまで隠していたのか。

 翼は朽ち、地を這うしか出来ない哀れな竜の成れの果て。

 あの巨体でリッチーは自身の身体を隠したらしい。


「いいのか? 俺にとってはただの的だぞ」


 先ほどの付与はリセットされている。

 俺は矢に『聖属性』、弓に『溜撃ち』を付与。

 最大限に弦を引き、溜めることで威力は増す。

 聖属性も付与して浄化の力がさらに上がった矢が、雨のようにドラゴンへ降り注ぐ。


「ドラゴンごとまとめて――」


 ドラゴンの浄化が進む。

 隠れているはずのリッチーが姿を現さないことに気付く。


「逃げたか」


 逃がさない。

 俺は自身に『敵感知』を付与。

 生物に対する付与は二つまで、効果はだいたい一分弱続く。


「見つけた」


 戦場にある無数の気配の中で、一つだけ遠ざかっているものがある。


「『脚力強化』」


 空気を蹴り、一瞬で逃げるリッチーの眼前へ移動。


「っ、人間がぁ!」

「もう遅いよ」


 魔法を放とうと構えるリッチー。

 その脳天を矢が貫く。


「ば、馬鹿な……」

「ここに来る前に撃っておいたんだ。真っすぐ逃げていたから、位置の予測は簡単だったよ」


 駄目押しのもう一発。

 不死殺しの力が、リッチーの身体を浄化する。


「ぐお、おおおおおおおおおおおおおおお」


 悲鳴を上げ、燃え上がり、跡形もなく消滅した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ