56.アスラン・フレミアのペア
アレクシア、レナが己の過去と向き合い勝利を納める。
順調に進んでいく勇者パーティ一行。
苦戦を強いられる相手と戦いながらも、各々が持つ長所を活かし勝利していく。
彼らの戦闘力は常識で計れない部分が多い。
インディクスにとっての誤算は、彼らが計算できるような存在ではなかったことだろう。
ただ、一人だけ予想通りの大苦戦を強いられている人物がいる。
「っ……」
六つ足魔道兵器を前に結界を展開し身を護るフレミア。
彼女の力は、回復や浄化に特化している。
アンデッドを相手にすれば無敵に等しい彼女も、無機物である魔道兵器には対抗する術がない。
出来るのはただ身を護るだけ。
魔道兵器は彼女にとっての天敵と言えるだろう。
「早く誰かと合流できれば……でも」
出入り口の扉は、そのブロック内にいる魔道兵器と連動している。
魔道兵器を倒さない限り、扉には鍵がかかっている状態だ。
すでに扉が開かないことを確認している。
今の彼女は待っている。
扉は他の部屋とも繋がっているのだから、四方の部屋に誰かが来れば、反対側から開けてくれるかもしれない。
他人任せで情けない考えと理解しつつ、それしかないと割り切り耐えていた。
そして、こういう時――
「フレミー!」
「あっくん」
一番初めに駆けつけてくれるのは、いつもアスランだった。
彼は扉を突き破り、そのまま魔道兵器を魔槍で穿つ。
「大丈夫だったか? 怪我は?」
「どこもしてないわ」
「そうか」
ホッとするアスラン。
珍しく息を切らしている。
「走ってきてくれたの?」
「そりゃそうだろ。魔道兵器が相手の時点で、お前が一番不利なのはわかったからな。他の連中なら力押しも出来るだろうけど、お前は相性的に最悪だ。合流するならお前が最優先に決まって……何だよその顔」
話の途中でフレミアがむすっとしていることに気付く。
「不満でもあるのか?」
「別に~」
「ありそうな顔してるじゃねーか」
「別にないわよ。心配してくれたのは嬉しいけど、そんな理屈っぽい理由じゃなくて、もっとストレートに心配してほしかったとか思ってないから」
「な、何だよそれ……ストレートって?」
「……もう、相変わらず鈍いんだから。お前のことが大切だからとか言えないの?」
「なっ、ば、馬鹿かお前」
照れて赤くなるアスランと、それを見てもまだ拗ねているフレミア。
普段の彼らからは想像できない表情の変化を見せる。
実はこの二人、幼馴染である。
そして、幼い頃から一緒に過ごし、勇者パーティにも選ばれた二人。
互いのことを誰よりも理解し、信頼し、案じている。
要するに相思相愛である。
ちなみに、このことを知っているのはユーレアスだけだ。
この二人は彼が知っていることに気付いていない。
からかわれることがわかっているから、他の仲間たちの前では呼び方も意識している。
二人きりの時は「あっくん」、「フレミー」と愛称で呼び合い、フレミアは口調も子供っぽく変わる。
「あーあ、アレクシアさんとレナさんが羨ましいわ。ハッキリ気持ちを伝えられて、ちゃんと受け取ってもらえて」
「お前……ここがどこだか忘れてないだろうな? さっきまで苦戦してたろ」
「ふんっ、知らないわ。私もエイト君に助けられたら、彼のことを好きになっちゃうかもしれな――」
「冗談でもそういうこと言うなよ」
アスランがフレミアの手を引き、互いの顔を近づける。
真剣な表情のアスランに見つめられ、フレミアもドキッとする。
「ここに来るまで、どれだけ必死だったと思ってるんだ」
「……私のことが大切だから?」
「い、言わせるな。そういうの苦手だって知ってるだろ」
「ふふっ、知ってるわよ。だから言わせたいの」
「……そういうことは全部、魔王を倒してからだ」
「そうね。今は止めておきましょう。どこかで見られているかもしれないし」
納得したフレミアに、アスランが小さくため息をこぼす。
そっと手を離そうとするが、彼女は握ったまま離さない。
「フレミア」
「まだお礼を言ってなかったわね。駆けつけてくれてありがとう。あっくんなら来てくれるって信じていたわ」
「――どういたしまして」
アスラン、フレミアの合流。
ひとしきりイチャついて、次の部屋に向う。
その光景を見ていたインディクスは……
「……人間はどこでも構わず盛るのだな」
少々呆れていたという。






