55.アレクシア・レナのペア
エイトとユーレアスが合流した頃。
他の仲間たちもそれぞれ合流し、ペアになっていた。
「無事でよかったわ。アレクシア」
「うん! レナと合流出来てよかった! ずっと一人で心細かったよ」
「ええ。でも――」
「うん」
二人は声を揃えて言う。
「エイト(君)が良かった」
同じことを考え、口にした二人は顔を見合わせ笑う。
どうせ合流するなら好きな人と。
緊張感のなさは否めないが、二人ともそう思っていたし、互いに同じだと気づいていた。
「エイト君も誰かと合流出来てるかな?」
「私たちが出来たんだもの。きっとユーレアスあたりのお守りでもしてるわ」
「わぁ~ それは……大変そうだね」
「容易に想像できるわね」
この時エイトがくしゃみをしたのは言うまでもない。
二人ともエイトのことが心配だが、彼なら大丈夫だとも思っている。
助けられた者として、彼の頼もしさを知っている。
そして、同じ人を好きになった。
「まっ! でもレナと二人じゃなくて良かった」
「あら、どうして?」
「だってエイト君とレナが二人きりなったら、絶対エッチなことするもん」
「アレクシアもでしょ?」
「ボ、ボクはこんな場所でしないよ!」
「二人きり、ベッドの上なら?」
「それはもち……何言わせるのさ!」
顔を真っ赤にして照れるアレクシアを、レナは余裕の表情でからかう。
同じ人が好きな者同士、仲が悪くなることも多いだろう。
この二人の場合は、元々仲が良かったことと、好きになった経緯が近いこともあって、前よりも仲が良くなったくらいだが。
「あーもう! 次に行こう次に!」
「そうね。二人なら楽に突破できそうだし、合流出来て本当に良かったわ」
「苦戦してたの?」
「ええ。だってここ地面がこれだから」
「あー、確かにそうだね」
レナの能力は周囲の地形を操る。
ここはインディクスが作った巨大な魔道具の中だ。
操れる地形はない。
故に岩や土を生成して戦わなくてはならない。
その分の魔力消費、生成にかかる時間もあって、レナは普段以上に戦い辛いだろう。
「アレクシアのほうは大丈夫だったの? たぶんだけど、面倒な相手を仕向けて来てるでしょ?」
「うーん確かに面倒だったな~ 遠くからビュンビュン攻撃してきたり、うねうね変な触手が襲ってきたりしたよ。でも全部斬ったから!」
「……そう。相手も災難だったわね」
相手の策や能力も、アレクシアは真っ向からねじ伏せていた。
彼女の持つ聖剣に理屈は通じない。
聖剣を完全に封じることは魔王ですら叶わない。
そのことをインディクスは映像越しに再認識していた。
だが、次の部屋で待ち構えるのは、二人にとっては天敵。
否、天敵になり得る能力を持っている。
次の部屋に入った二人が立ち止まる。
そこには二体の人形が立っていた。
人形を見たまま二人は固まる。
鏡写しの人形魔道兵器。
その能力は、相手の心の底にある苦手意識を具現化させること。
もっと具体的に言えば、嫌い相手や苦手な相手の姿を、この人形は投影する。
つまり、今の二人には――
「アスタル……」
「お、お兄ちゃん?」
その人形は、別々の誰かに見えていた。
アレクシアの場合。
「な、何でお前がここに!」
「さてね? 勇者ちゃんが俺のこと忘れられないからじゃないかな?」
「そ、そんなこと……」
「あるさ。現に俺はこうしてここにいる。忘れたくても忘れられないよね? あれだけの快楽を一度に味わったんだ」
彼女にとって、アスタルという悪魔は天敵と呼べるだろう。
生まれて初めて完全な敗北を予感し、一度は諦めかけたのだから。
もしもエイトが助けに来なければ、あのまま良いように弄ばれていただろう。
人形魔道兵器の効果は、姿や言動を投影するだけではない。
その投影を見ている相手にのみ有効だが、投影した対象が持つ能力も再現できる。
アスタルの能力は魅了と幻影を見せること。
聖剣を持つアレクシアに魅了は通じない。
しかし、アスタルと不意に再会してしまったことで、彼女の精神は揺れていた。
「また教えてあげるよ。その身体に快楽を」
悪夢を強制する。
あの時程ではないにしろ、アレクシアは悪夢を見せられる。
敗北し、惨めに犯される悪夢を。
「残念だけど、今のボクはこれくらいじゃ揺らがないよ」
「な、何?」
だが、彼女はもう――あの時とは違う。
彼女は知っている。
本物の想いも、心と身体が通じ合う喜びも。
「ボク、好きな人が出来たんだ。大好きな人が、お前のお陰だよ!」
レナの場合。
投影されたのは兄の姿だった。
嫌いな相手、苦手な相手が投影される人形。
彼女の場合は少し特殊で、投影された兄は、ラバエルに利用されているときの彼である。
厳密には兄ではない。
「レナ。また会えてうれしいよ」
「……わかっているわ。これは幻影、お兄ちゃんはもういない」
「そんなことはない。レナ、君を迎えに来たんだ」
しかし、見た目も言動も兄と同じ。
ある意味では、レナの精神を最も揺さぶる相手ではある。
ただし――
「俺はここにいるよ」
「……違うわ。それはエイトの言葉よ。お兄ちゃんじゃない」
「ごめんねお兄ちゃん。今の私には、お兄ちゃんと同じくらい……ううん、もっと好きな人がいるの」
今の彼女は、優しい言葉に惑わされない。
幻影でなければ、あるいは揺れていたかもしれない。
いや、それでも選んだ答えは変わらなかっただろう。
「エイトじゃなくて良かったわ」
アレクシアが聖剣で斬り裂き、レナが岩の拳を生成して叩き壊す。
今の二人には大切な人がいる。
一緒にいたいと心から思える人がいて、心と身体が繋がっている。
だからもう、屈することなどありえない。






