54.ペアになるなら別の人が……
各ブロックの映像や音声は、インディクスのいる最深部で確認できる。
予想通り見ていたインディクスは、小さく笑い感心する。
「へぇ~ やるね。いやこれくらいは当然か」
インディクスは、勇者パーティはここまでたどり着くことは出来ないと考えていた。
アービスやアスタルはともかく、廃都で待ち構えていた幹部の一人、死霊使いラバエル。
魂を操り、臨世での彼は無敵に等しい。
いくら勇者パーティでも、ラバエルに対抗する術はない。
だが、彼らはラバエルを打ち破りここまでたどり着いた。
その要因は――
「付与術師エイト、私は君の力にも興味があるんだ。もっと見せてくれ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、どっちに進むか」
六つ足の魔道兵器を倒した後、俺はどの扉へ進むか考えていた。
見た目は同じで、方向が違う。
インディクスの口ぶりからして、どの扉を選んでも同じ構造の部屋に繋がっているのだろう。
新しい部屋へ進みさえすれば、おそらく最深部にもたどり着ける。
考えるべきはどのルートが最短なのか。
そして、最深部と言っていたが、そもそも上下左右のどの位置にあるのか。
「普通に考えたら下なんだけど……位置は動かせると言っていたし……。駄目だな、考えてもわからない」
とにかく先へ進むしかない。
他のみんなの無事も気になる。
俺は一先ず、入って正面の扉を選び続けることにした。
続く部屋に入ると、先ほどと同じく魔法陣が展開。
魔道兵器が出現する。
今度の相手は脚がなく、宙に浮いている球体だった。
「結界か? そんなもので守っても、俺の言霊は防げないぞ」
振動さえ届けば言霊は効く。
同じように言霊で命じる。
「『潰れろ』」
が、今回は無反応。
魔道兵器は押しつぶされることなく浮いている。
そのまま体当たりを仕掛けてくる。
「何っ!?」
言霊が通じない?
あの結界どういう効果だ?
見た目はただの結界。
しかし言霊は通らない。
体当たりを躱し、俺は黒い箱の魔道具を取り出す。
「開門」
箱から射出される剣。
言霊が通じないなら、物理的に破壊を試みる。
魔道兵器の周囲をニ十本の剣が飛び交い、四方から突き刺す。
剣がガキンという音をたて弾かれてしまう。
「硬い……そうか。あの結界は空気も通していないのか」
空気が通らなければ振動も本体へは伝わらない。
だから言霊も通じなかった。
「そういうことなら――」
言霊の対象を本体ではなく、結界そのものに変えれば良い。
さっきは本体に対してだったから効果はなかったけど、今度は結界に対して命じる。
「『砕けろ』」
結界がガラスのように砕け散る。
その隙をついて、弾かれた剣を再び浮かし、本体を突き刺す。
「本体の装甲は薄いんだな」
どうやら結界特化の魔道兵器だったようだ。
その次、さらに次の部屋へ進んでいくと、ドラゴンのような形をした魔道兵器、攻撃するたびに分裂する魔道兵器と。
効果も形状も違う魔道兵器の数々と交戦した。
よくこれだけの種類を作れるものだと、敵ながら感心していた頃だ。
部屋にはすでに、自分以外の誰かがいた。
「インディクス……じゃない。ユーレアスさん?」
「おや? その声はエイト君じゃないか」
部屋の中央に立っていたのはユーレアスさんだった。
「良かった。無事だったん……ってボロボロじゃないですか!」
「ああ、大丈夫。これくらいなら平気だよ」
「平気って、頭から血が出てますよ」
「ん? あ、本当だ」
今さら気づいたのか、額の血を拭う。
「合流出来て良かったよ。僕らが合流できたということは、少なくとも各スタート地点は隔離されていない。もしかしたら、他のみんなも集まっているかもしれないね」
「だと良いですけど、ユーレアスさんもかなりの強敵と戦ったみたいですし、心配ですね」
ユーレアスさんは言動や性格こそあれだけど、実力は誰もが認めている。
その彼がボロボロになる相手だ。
俺は運が良かっただけで、他の皆も苦戦しているかも。
「あーこれは苦戦とかじゃないよ?」
「え?」
「魔道兵器なんて見る機会は早々ないからね。近くで観察したくて、ギリギリまで近づいたら吹き飛ばされたり、挙句真っ二つにされそうになったよ。あははははは」
「わ、笑い事じゃないでしょ」
なるほど。
あれな部分が影響してボロボロになったのか。
「ここは僕にとって宝の山だ。興味をそそる物しかない。次に何があるのか楽しみで仕方がないよ」
「本当に楽しそうですね……」
ちょっと待ってくれ。
もしかして、俺がユーレアスさんを止めないと駄目なのか?
無茶して死なないように?
「……勘弁してよ」
「どうかした?」
「どうもしないでくださいね」
「え?」
ユーレアスさんと合流できたことは幸運だけど、不幸でもある。
早く他のみんなとも合流したいと思った。






