52.招待状
「ただいま~」
「お待たせしました」
宿屋に戻ると、なぜか俺の部屋に全員が集まっていた。
アレクシアとレナが一番に振り向く。
「お帰りエイト君!」
「遅いわよエイト。待ちくたびれたわ」
「ごめん。すごい人混みで、抜け出すのに時間がかかったんだ」
実際はユーレアスさんが、もう少し近くで魔道車を見たいとか。
あの女性の顔をもっと細かく見るまでは帰れないとか。
色々駄々をこねた結果なんだけど。
「ちょっと~ 僕にもお帰りなさいを言ってほしいな~」
「あ、うん。お帰りなさい」
「どうせエイトに迷惑かけたでしょ? エイトの顔に書いてあるわ」
「えぇー酷いな~」
「実際どうだったんだ? エイト」
アスランさんに尋ねられ、俺は頭に手を当てながら言う。
「まぁ……それなりに。アスランさんの予想通りです」
引っ張り戻す時に言霊も使ったしね。
「はぁ……やっぱりか」
「エイトさんが一緒で良かったですね。魔法でしたか? それとも女性?」
「どっちもでした」
「ふふっ、ユーレアスさん。少しは反省してください」
「ぅ……すみません?」
フレミアさんの目が怖い。
もしかして、俺がいない時はアスランさんとフレミアさんの二人で対応していたのか。
だとしたら心労も溜まっているだろう。
アスランさんが大きくため息をついた後、真剣な表情をして俺に尋ねる。
「で、敵の大将は確認できたんだな?」
「はい。見た目は人間寄りでした。街の悪魔たちからも信頼されているようです」
「こっちに気付いてる様子は?」
「どうだろうね? 何度か目があった気もするし、気のせいかもしれないけど」
「今までの幹部とは何かが違う気はしました」
危険な雰囲気は感じられなかった。
それが逆に危険だとも解釈できるけど、街の悪魔たちの様子を見ていると、少なくとも彼が極悪非道の大悪魔には見えない。
善人の殻を被っているだけで、裏では非道なこともしているかもしれないが、それは確かめないとわからないだろう。
「とりあえず、インディクスの拠点はあの屋敷で間違いないね。出入りは確認したよ」
「なら今夜にでも乗りこむか?」
「う~ん、それしかないかな? ただ、彼のほかに仲間がいる可能性もあるし、もし僕たちに気付いているなら、何かしらの対策は用意しているだろうね。乗りこむなら覚悟した方が良い」
「そうですね。最低限の準備はするとして――」
トントントン。
扉をノックする音が聞こえる。
「夜分遅くにすみません。お客様にお手紙が届いております」
「手紙?」
「エイト君」
「はい」
俺とユーレアスさんは顔を見合わせ頷く。
ドア越しに尋ねる。
「誰からですか?」
「はい。インディクス様からです」
その名を聞いた途端、全員の背筋が伸びる。
俺とユーレアスさんは、やっぱりかと思った。
この悪魔の街で俺たちに手紙を送る相手なんて、タイミング的にも奴しかいない。
やはり俺たちの存在に気付いていたようだ。
アレクシアが俺に聞く。
「ど、どうするの?」
「……受け取るしかないと思う。ここで受け取らなかったら不自然だ」
「僕もエイト君に賛成だよ。みんな、いつでも戦える準備だけしておいてくれ。僕が受け取るよ」
「気を付けろよ、ユーレアス」
アスランさんの忠告にユーレアスさんが頷く。
そのまま扉に近づき、ゆっくりと開ける。
「お待たせしました」
扉の前に立っていたのは受付の女性悪魔だった。
敵意は感じられない。
警戒は解かないが、この場で戦闘になる感じではなさそうだ。
「手紙というのは?」
「はい。こちらになります」
一通の封筒を取り出す。
「インディクス様から、皆様の前で読み上げるように言われておりますので」
そう言って受付の女性悪魔は封筒の中身を取り出そうとする。
封を開けた時点で、ユーレアスさんが何かに気付き、彼女の手を止めようとする。
「お姉さん、わざわざそこまでしてくださらなくても構いませんよ」
「いえいえ、これもインディクス様からの要望ですので」
「そうですか」
ユーレアスさんが振り向く。
真剣な表情で声には出さず、口だけを動かす。
みんな、僕の近くへ。
そう言っているのがわかって、俺たちは彼の近くへ集まった。
「では読み上げますね」
そう言って彼女が封筒から紙を取り出す。
取り出した紙の裏側には、魔法陣が描かれていた。
魔法陣が光る。
「え?」
「転移の魔法陣だ! みんな僕から離れないでね!」
魔法陣が発動したと同時に、ユーレアスさんが魔力障壁を展開する。
さらにフレミアさんも光の結界を展開。
二重の障壁で囲い、いかなる攻撃にも対応できるよう備える。
が、転移した先は何もない……ただの広いだけの空間だった。
白く四角いタイルのようなもので構成された床。
天井や壁も同様で、広さだけならギガントも入れるだけはある。
「ようこそ、勇者諸君」
聞き覚えのない声が響く。
「初めまして? 私はインディクス。以後お見知りおきを」






