51.どっちも大好きさ
「全員で見に行くのは止めておこう。相手は魔王軍の幹部。それも優れた魔導士だと聞く。こちらの偽装も見破られる可能性があるからね」
「じゃあ誰がいく?」
「もちろん僕だよ。僕の魔法なら、いざというときの逃走に役立つ」
ユーレアスさんがそう提案すると、アスランさんがじっと彼を見ながら言う。
「お前ひとりだと不安だな」
「酷い!」
「悪いエイト、こいつに同行してもらえるか?」
「俺ですか?」
「ああ。お前の能力なら、いざって時にこいつを無理やり引き戻せるだろ?」
引き戻せるって……
アスランさんはユーレアスさんが何をすると思っているんだ?
「頼むぜ。こいつは女と魔法のことになると目的を忘れるからな」
「え、そうなんですか」
「そんなことないよ~ 僕は責任ある立場だからね。公私の区別くらいできているさ」
というユーレアスさんを、俺以外の全員が冷めた目で見る。
「はっはははは……どうやら微塵も信用されていないようだね」
「当たり前だろ。お前から責任なんて言葉が出てくる方が意外だよ。というわけだからエイト、本当に頼むぞ」
「了解しました」
ふ、不安だな。
「そんなに心配なら、ユーレアスじゃなくて私が行きましょうか? 私の能力も逃走には役立つわよ?」
「お前は駄目だ」
レナにキッパリと言い切るアスランさん。
むっとしたレナが聞き返す。
「どうして?」
「お前は目的そっちのけでイチャつきそうだから。同じ理由でアレクシア、お前も駄目だぞ」
「えぇ~」
「チッ」
「おいレナ、今舌打ちしただろ」
「したわよ」
「そこは否定しろよ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
インディクスが街を回るのは夕方。
日が沈みかけ、街に明かりがともり始める頃に、あの派手な屋敷から現れる。
もちろん、乗り物も一目でわかるくらい派手だ。
「インディクス様ー!」
煌びやかな乗り物に腰掛ける青い髪の男性。
見た目や体格は人間とそん色ない。
黒い眼鏡もかけていて、角と尻尾がなければ王都でも紛れて生活できるだろう。
一番意外だったのは……
「服装は普通なんだね」
「ですね」
もっと金ぴかの鎧とか、じゃらじゃらとアクセサリーだらけな服を予想していた。
黒い襟付きの地味な服装だとは思わなかったな。
それにこの人気。
街の悪魔たちが憧れの視線を向けている。
子供の悪魔が手を振ると、インディクスがニコリと笑い手を振り返す。
「本当にあれが幹部なのか」
「間違いないよ。魔王軍幹部インディクス、悪魔領最高の魔導士さ」
「だとしたらわからない奴ですね」
「そうかい? 僕からすれば、魔導士ほどわかりやすい奴はいないんだけどな~ しかし面白いねあの魔道車」
ユーレアスさんはインディクスが乗っている乗り物に注目する。
「あれだけ大きな物を動かすなら、必要な魔力出力もかなりのものになりそうだけど、見た所僕の予想の半分以下の出力で動いている。周りの悪魔たちを避けながら進む操作性に、歓声でわかりづらいけど音も小さい。相当な技術力が詰め込まれているね」
「そう……なんですか? 俺にはさっぱり」
何だか凄そうな乗り物だな、くらいにしか見えない。
魔道車は、その名の通り魔法の力で動く乗り物のことだが、実際に見るのは初めてだ。
王都にも似たような物はあったけど、実用化にはまだ遠くて、長い距離は走れないし、大きくて街中は走れない。
対してインディクスが乗っている物は、普通の馬車より少し大きい程度だ。
「あれだけじゃない。この街にある魔道設備の数々は、全て彼がデザインしたものだのだろう。噂通り、相当優れた魔導士だ」
「ユーレアスさんよりもですか?」
「ああ。魔法戦はわからないけど、魔道具に関しては確実にあちらが上だね」
そこまでハッキリと言える程なのか。
俺は改めてインディクスに視線を向ける。
すると、今さら気づいたが、彼の後ろに誰か乗っている。
「ユーレアスさん、後ろに誰か乗ってますよ」
「ん? あー本当だ」
「女性みたいですけど」
ローブとフードで全身を隠している。
フードの中に見える顔と水色の髪だけで、綺麗な女性だとはわかる。
「白い肌に水色の髪……間違いない。あれは絶対に美人だ。それもとびきりの美人だね! インディクスの部下かな? だとしたら羨ましいな~」
さっきまで魔道車を見ている顔は、子供みたいにワクワクしている感じだったけど……
今はニヤケている。
「はぁ……ユーレアスさんはどっちのほうが好きなんですか?」
「ん? 何が?」
「魔法と女の人ですよ」
「どちらも大好きさ! 逆にそれ以外のことはー……正直どっちでも良かったりする!」
「えぇ……」
「言っただろう? 魔導士はわかりやすい生き物なんだ。たぶん、彼も同じなんじゃないかな?」
そう言って視線を戻す。
一瞬だけ、二人の視線があったように見えた。
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