50.こんな屋敷に住みたいか?
ゲーデの街を散策しながら、宿屋を探す。
商店街や人通りの多い場所を避け、こじんまりした宿屋を発見した俺たちは、部屋割りを決めることに。
「ボクはエイト君と一緒が良いな~」
「残念ねアレクシア。今日は私よ」
「そんな順番ないよ」
「まぁまぁ二人とも。ここはいつも通り三人で良いんじゃないかな?」
ここまでの流れはいつも通り。
ユーレアスさんが提案して、渋々二人が了承する。
俺の意見はあまり取り入れられない。
「すみませんお客さん。二人部屋なので、三人以上での宿泊はちょっと……」
「あ、そうなんですか」
どうしようか?
「では手っ取り早くコイントスで決めよう! 僕が投げるから、二人とも先に表から裏を選んで」
「ボクは表」
「それなら私が裏ね」
また俺の意見は聞く間もなく始まったぞ。
もう慣れてきた自分が怖い。
「じゃーいくよ~ ほいっ!」
コインは裏だった。
「今夜は寝かさないわよって一度言ってみたかったのよね」
「それ前も言ってませんでしたっけ?」
「ふふっ、今度は本気よ」
「お、お手柔らかにお願いします」
「何言ってるの? 私だって初めてなんだから……優しくリードしてね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日。
「ねぇエイト君」
「な、何?」
「じー……」
「だ、だから何?」
「……レナとエッチなことしたでしょ?」
まさかの直球。
「い、いや~ その……」
「絶対した。その顔は絶対にしてる!」
「したわよ」
「うっ、レナ!?」
「うぅぅぅぅやっぱりぃ……今夜はボクと一緒の部屋だよ! 絶対だからね!」
「その時はまたコイントスで決めましょう」
二人の女の子が火花を散らす。
どちらからの好意も嬉しくて、ついつい甘んじてしまう。
「モテる男は辛いね」
「他人事みたいに言わないでくださいよ」
「他人事さ。僕はモテるけど」
「自分で言うんですか……」
「緊張感の欠片もねぇな」
「良いじゃないですか。いつも通りですよ」
フレミアさんの言う通りではある。
これが勇者パーティのいつも通りだと知ったら、王都の人たちはどう思うだろうな。
「さてさて、可愛らしいじゃれ合いはそこまでにして。そろそろ調査に移ろうか」
「そうね」
「べ、別にボクはじゃれてなんかないよ」
「そう? 私はアレクシアのことも好きよ」
「うぅ……またそういうこと言う」
言い合いでアレクシアはレナに敵わないらしい。
気を取り直して、俺たちは街を散策した。
ここに魔王軍の幹部がいる。
その噂が真実なのか、まずは確かめなくてはならない。
と、意気込んで散策したのだが、結論はすぐに出た。
「う、嘘だよね?」
「……馬鹿なの?」
「いや~ ここまであからさまだといっそ清々しいね」
「ユーレアスと気が合いそうだな」
「そうですね」
「え? みんなの中で僕ってどういう認識なの?」
誰がどう見ても、そこが魔王軍幹部の屋敷だとわかる。
だって、看板にでかでかと書いてあるし。
「魔王軍幹部インディクスの屋敷……ここまでわかりやすいと罠なんじゃないかって思いますね」
「普通の街の屋敷を罠にはしないさ。偏にこれも趣味なんだろうね」
「趣味……」
屋敷も見えるけど、金色とか銀色とか、赤青黄色も混ざっていて、とにかく派手だ。
尖がり帽子みたいな屋根、壁にも装飾が施されている。
窓の形も、三角、四角、丸、星の形とバラバラ。
見ているだけで目が疲れるような色合い。
ハッキリ言うけど、俺ならこんな屋敷に住みたいとは思わない。
仮に知り合いとも思われなくないな。
「どうする? このまま突っ込むの?」
「準備なら出来てるわよ」
「それは止めておこう。一応、本人を確認するまでは手を出さない」
「そうだな。オレたちは虐殺に来たわけじゃない」
アスランさんの言ったことに俺も頷く。
続けてフレミアさんが言う。
「街の方が話していましたが、インディクスは定期的に街をパレードのように回るそうですね。今日がその日といっていましたよ」
「パレードか。なら丁度良い。今夜、本人の姿を確認しよう」
こんな屋敷に住む悪魔。
魔王軍幹部インディクス……いったいどんな奴なんだろう。
今までとは違う感覚で興味が湧いていた。






