48.自分のやるべきこと
エイトたちが出発した翌日。
遠征から騎士団長ロランドが王城に帰還した。
「そうですか。もうエイト殿は出発されてしまったのですね」
「はい。エイトから貴方に伝言があります。倉庫の武器を借りることと、付与したものを順番に並べてあるので、確認してほしいと」
「わかりました。後ほど確認させていただきます。しかしまた礼を言わなければならないことが増えましたね」
「ええ。次に会う時は、もっと増えていると思いますよ?」
「私もそう思います。彼が一緒なら、勇者たちも安心でしょう」
騎士団長からの信頼も厚い。
この短期間で、多くの者たちの記憶に残った。
勇敢に戦い、強敵を倒す姿にあこがれを抱く者がいる、かもしれない。
「彼らが帰って来た時にガッカリさせないよう、私たちもやるべきことをしましょう」
「はい。北の情勢ですが、やはりあまり良くありませんね」
「ノルエス帝国ですか」
「はい。以前から小競り合いはありましたが、魔王出現から頻度が上がっています。我々が魔王軍との戦いに勇者を派遣している間に、どうにか攻めこもうと考えているようです」
クラレス王国の北方に位置するノルエス帝国。
古くから領土を取り合い幾度となく戦争を繰り返してきた間柄。
今も尚、睨み合いが続いている。
世界が魔王軍の脅威に晒されているというのに、彼らは目先の利益しか考えていない。
多くの国から非難されながら、まったく意に介していない。
「困ったものですね。今こそ世界中の国が結束を固めるべきだというのに」
「仕方ありません。今を好機と捉えるのも一つの考え方です。優しさだけでは国はまとまらないし、繁栄も築けない」
姫様はそう言いながら、悲しそうに顔を伏せる。
ロランド騎士団長が言ったように、世界中が脅威にさらされて尚、考え方を変えられないのかと。
心の中ではそう思っている。
他にも、自分勝手に振舞う国は多い。
国王はそれらの国々を相手取って奮闘中だった。
「他に変化ありましたか?」
「はい。道中に山賊と交戦になりました。幸い死傷者は出ませんでしたが、かなりの人数でした」
「山賊、以前にも遭遇していましたね」
「ええ、やはり多くなっていますね。一部では魔王軍と繋がりもありそうです」
「魔王軍に手を貸すなんて……あまり考えたくありませんね」
どこにでも、悪い人間というのは存在する。
目先の利益を追う者。
利益のためなら手段を選ばず、平気で他人を犠牲にする。
そういう人間がいて、今もどこかで誰かが泣いているかもしれない。
「各地地域の警備を強化するべきでしょう。冒険者ギルドとの連携が必要ですね」
「はい。騎士団だけでは限界がありますので、その考えに私も賛成です」
「ではギルド会館に向いましょう」
「今からですか?」
「ええ。早く早く行動しておかないと、間に合わなくなる気がします」
「わかりました。すぐに準備します」
エイトが去った後も、王城は慌ただしい。
姫様は仕事に勤しんでいた。
どちらも国を守るため、やるべきことを見定めて行動している。
場所は違えど、彼女もまた戦っていたのだ。
時折届く勇者パーティーからの報告書。
魔王軍幹部アスタル撃破。
同じく幹部のラバエル撃破の報は、いち早く伝えられた。
「エイト、皆さんも頑張っているようですね」
これで幹部の半数が倒された。
魔王軍との戦いも、これで折り返し地点と言えなくもない。
徐々に勝利へ近づいている。
「私も頑張らないと」
姫様は改めて自分に言い聞かせる。
エイトたちならきっと魔王討伐を成し遂げる。
何気なく、窓の外を見る。
街の明かりが消えて、星の輝きが鮮明に映る。
「今頃……エイトも星をみているのでしょうか」
早く会いたいという気持ちを我慢して、彼女は今日も明日も仕事に励む。
一方その頃――
当の本人が女の子二人に挟まれて、眠れず苦悩しているなんて、思いもしないだろう。






