47.思い出はベッドの上で
レナの告白とライバル宣言。
話は俺を置いてきぼりにして進み、なんだかんだでまとまった。
と思っている。
一先ず二人の仲が険悪になったりはしなさそうで安心した。
ただ……
「あの~」
「どうしたの? エイト君」
「眠れないの?」
そりゃー眠れないでしょ?
二人に左右から抱き着かれて、安眠できると思いますか?
「なんで一つのベッドで寝てるんでしたっけ?」
「何でって、聞いてなかったの?」
「いや聞いてたと思う。思うんだけど……なんて言えばいいのかな?」
「わかったわ。私たちと一緒に寝られて嬉しいのね」
「そうなの?」
「違うよ」
「え、違うの?」
「い、いや違わない。違わないけど、違う……あーもう!」
駄目だ駄目だ。
考える程眠れなくなってしまう。
とりあえず今、俺たちは一つのベッドで眠っている。
廃都の中にあった宿屋の跡地で、比較的綺麗な部屋を見つけたから、ここで朝まで過ごすことになった。
考えるのを止めた途端に、ことの経緯を思い出す。
ちょうど三十分くらい前……
「今日は私が一緒に寝るわ」
「駄目だよレナ! エイト君はボクと一緒に寝るの!」
「良いじゃない今日くらい。二人はもうやることやったでしょ?」
「や、やることって」
「今度は私の番よ。今夜は寝かさないわ」
「もっと駄目だよ!」
軽く言い争いになりかけたが、間をとって三人で一緒に寝ることとなった。
提案したのはユーレアスさんだ。
「そっちのほうが面白そうだからね! 明日感想聞かせてよ」
「……絶対に嫌です」
面白がって俺を修羅場に追い込まないでほしい。
まぁさっきまでの言い合いはなくなって、二人とも落ち着いてはいるし、喧嘩にはならなそうだ。
だけどやっぱり寝にくい。
右腕はアレクシアが抱き着いて、左腕にはレナさんが抱き着いている。
いっさい身動きが取れない。
ちょっと両腕とも痺れてきた気さえする。
「や、やっぱり別々で寝たほうがよくないかな?」
「そうね。私もエイトと二人のほうがいいわ」
「そういう意味じゃないよ」
「一緒ならボクだよ!」
「だから俺を挟んで張り合わないでくれ」
俺は大きくため息をこぼす。
今夜は本当に寝かせてもらえそうにないな。
俺のため息を境に、シーンとした静寂が続く。
その静寂をレナが破る。
「エイトは冒険者をしていたのよね? その頃のことを聞かせて」
「え、どうしたんですか? 急にそんなこと」
「エイトは私とお兄ちゃんの記憶を見たでしょ?」
「はい」
「あなただけ私の過去を知っていて、私が知らないなんて不公平だと思わない?」
「確か……に?」
そう言われるとそんな気もする。
「ボクも知りたいなー」
「アレクシアもか」
「みたいね。どうせ眠れないなら話してくれないかしら?」
眠れない理由は二人にあるんだけど……まぁいいや。
大して面白くないよと前置きをする。
二人とも、それでもいいから話してと声を合わせて言った。
仕方がないので話すことにする。
「冒険者になったのは二年前で、それから最近まで一つのパーティで活動していたんだ」
「大活躍だった?」
「まさか。むしろ目立った活躍なんて出来なかったよ」
「そうだったの?」
「意外ね」
二人とも想像できないという反応。
今の俺しか知らないと、以前の俺は当てはまらないだろうな。
冒険者時代と今の俺は全然違う。
いや、やれることは変わっていないし、俺自身に変化はないと思う。
変わったのは環境と、少し自信がついただけだ。
アレクシアが質問する。
「じゃあなんで冒険者になろうと思ったの?」
「大した理由もないよ。俺の生まれた村は田舎で、みんな貧乏だったからさ。毎日何とか生きてくだけで精いっぱいだった」
「エイト君も田舎生まれなんだ? ボクと一緒だね」
と嬉しそうに言うアレクシア。
レナはちょっぴり悔しそうにしている。
「村には家族で住んでたの?」
「最初はね? 俺が十歳の頃に両親が死んで、途中から一人だったよ」
「そう……なんだ」
アレクシアは申し訳なさそうな顔をする。
一人で暮らしていたのは、途中までのレナと一緒だ。
そう思ったけど、レナは一緒だねとは言わない。
良いことではないから。
「冒険者になったのは、時々村を通りかかる冒険者たちが眩しく見えたからだよ。俺たちなんかよりずっと良いもの食べてたし、お金も持ってたからさ。羨ましく思って、俺もあーなりたいなって思ったのがきっかけ。まぁ現実は厳しくて、想像通りにはいかなかったけど」
「そうなんだ」
「エイトも大変だったのね」
「まぁ、そうだね。大変さで言ったら、今のほうがずっと大変なんだろうけど、不思議と嫌じゃないんだ。何ていうか、充実してるって気がする」
もっと遡れば、姫様に会えた瞬間からだな。
「今頃どうしてるかな」
「別の女のこと考えてる顏ね」
「え?」
「エイト君また浮気なの!?」
「またって何? 別に何も考えてないって」
すみません嘘です。
「エイト君」
「今夜は――」
「「私/ボクのことだけ考えて」」
「は、はい」
その夜は一睡も出来なかった。






