42.死霊使いラバエル
ラバエルがパチンと指を鳴らす。
おびただしい数の魂が集まり、姿を変えて俺たちを取り囲む。
「開門」
対して俺は魔道具から剣を取り出す。
攻撃のためにでもあるが、さきにレナさんを守るための壁がいる。
無数の剣をレナさんの周囲に突き刺し、剣同士を重ねて覆い隠す。
少し強引な乱暴な方法で申し訳ない。
「そう身構えなくても良いよ。先に君から殺してあげる。大事な妹は、その後で」
「お前の妹じゃないだろ」
「そうだな。しかしそんなに怒ることかな? 少なくとも君にとっては関係のないことだろう」
「関係ならあるさ。俺はレナさんの仲間だからな」
「仲間ね~ そんな曖昧な関係に意味なんてないと思うけどなぁ~ 俺は自分に味方する魂以外は信じられないね」
ラバエルはやれやれと身振りで見せる。
彼の言葉を聞いた俺は、小さく笑って言い返す。
「自分に味方する? 無理やり従わせているの間違いだろ?」
「はっ! そうだな。だから俺は自分だけを信じている。自分の力だけを信頼している。俺の力で従わせた魂たちは、決して俺を裏切らない」
ラバエルは得意げに語り、俺を見ながらニヤリと笑う。
右手をあげ、魂たちに命令する。
「やれ」
四方から襲い掛かってくる魂の群れ。
俺は大きく息を吸い、言霊に乗せて言い放つ。
「『散れ』!」
さっきよりも数が多い分、強くハッキリ口にする。
言霊の効果で押し寄せた魂たちは吹き飛ばされた。
「一歩たりとも近寄れると思うな」
「やるね。言葉による強制……魔王様と同じ力だ」
「一緒にするな」
「ああ一緒じゃないさ。魔王様の言葉はもっと重くしびれるんだ!」
吹き飛んだ魂が鳥に姿を変えて舞い戻る。
さらに新しい魂を呼び出し、人型に変化して再び取り囲まれる。
「魂の形は自在に変えられるんだよ。こんな風にモンスターにもなれる」
「っ、元は人の魂なんだろ」
「ああ。どうしようが俺の勝手さ」
酷いな。
死んだ後まで弄んで……
「『散れ』」
「また同じ手か? 芸がないな」
「『動くな』」
ラバエルの動きを止める。
魂たちを散らして、防御するものをなくし、そこへ剣の雨を降らせる。
「甘いね」
散った魂が矢の形に変化し戻ってくる。
魂の矢に阻まれ、剣は届く前に弾かれてしまった。
「今ので俺を倒せるはずないだろ? というより、そろそろ気付いているんじゃないかな?」
「……何のことだ?」
「その顔は気づいているな。ここへ来た時点で、俺は倒せないということを」
「……」
薄々感づいてはいたが、やはりそうなのか?
この臨世は魂の通り道で、聖属性による浄化も魂には効かない。
そして効かないのは浄化だけじゃない。
「もう理解したか? いくら頑張って耐えた所で時間の無駄なんだよ」
「無駄じゃないさ。俺が耐えていれば、レナさんが邪魔されることなく記憶を見られる」
「それに何の意味がある? 真実を知ることで、隠された力が目覚めるわけでもない。ただ知って、終わるだけだ」
「ふっ、そうだな。お前にはわからないだろうな。仲間の意味すら理解できないお前には、絶対にわからない」
過去と向き合うことの大切さ。
レナさんにとってのお兄さんとの思い出が、どれだけ深く必要なものか。
肉体を乗っ取り、記憶を知っているだけのラバエルにはわからない。
「嘗めた口を」
ラバエルは不機嫌そうに眉をひそめる。
魂たちに俺を殺せと命じる。
俺の攻撃は魂を傷つけられない。
それでも攻撃は当たるから、弾いたり防御することは出来る。
時間を稼げ、耐えろ。
レナさんが真実を知るための時間を。
そして――
「はぁ……っ……」
「頑張ったけど限界だな」
傷だらけのまま膝をつく。
呼吸も荒く、身体から力が抜ける。
「肉体の制限時間も近い。そろそろ終わらせよう」
「くっ……」
「お前の力は中々使えそうだ。この身体も飽きたし、今度はお前の身体を使わせてもらうと――」
「させると思う?」
「何っ!?」
ラバエルの足元がぼこッと盛り上がり、大地の柱が突きあがる。
「ちっ、時間をかけすぎたか」
「レナさん!」
「おまたせ、エイト」
後ろを見て剣の囲いを確認すると、いつの間にか破壊して出てきたようだ。
レナさんは俺を見つめて言う。
「ボロボロね」
「このくらい平気ですよ。それよりわかりましたか? あいつが盗人だってこと」
「ええ、お陰様で。ありがとう」
レナさんの表情見て、俺は安心した。
迷いや後悔が消えたかは別として、戦う理由は出来たらしい。
レナさんがラバエルを睨む。
「その身体はお兄ちゃんのものよ。返してもらうわ」
「今さら返すと思うか?」
「思わないから、力づくで取り返すわよ。ごめんねお兄ちゃん、少し痛いかもしれないけど我慢してね」
レナさんが小さな声で呟き、地面を蹴る。
周囲の地形が一斉に動き出し、大きく伸びた大地の柱は弧を描き、ラバエルへ襲い掛かる。
「ごはっ!」
四方の柱に押し潰れそうになるラバエル。
痛みに苦しむ表情を見せる。
「苦しいでしょ? 嫌なら早く出て行きなさい」
「ぐっ……そうだな。頃合いだ」






