41.邪魔はさせない
アルファポリス版投稿開始しました!
カクヨム用も準備中です。
話しの続き。
といっても、二人の続きというわけではない。
二人の物語は終わった。
百年前に別れて、続きはない。
時間はとび、現代のアルギニア王国。
魔王軍の侵攻を受け、滅ぼされてしまった後のことだった。
「この身体もそろそろ限界か」
魔王軍幹部ラバエル。
この時の彼は、別の男性の姿をしていた。
戦いを終えて、殺した人たちの死体を集めている最中。
偶然にも、彼が立ち寄った場所には、レナさんのお兄さんが眠る墓があった。
「これは……」
精霊の力で作られたお墓。
お兄さんの身体は、百年以上経っても形を崩さず残っていた。
これも精霊の力。
肉体は保護され、魂のない抜け殻の状態で残っていた。
「面白そうだな。保存状態も良いし、どれ一つ試してみるか」
そうしてラバエルは、お兄さんの身体を乗っ取った。
抜け殻となっていた身体へ自分の魂を移す。
簡単に乗っ取り、お兄さんの記憶を覗く。
「ほう……これは中々面白いことになりそうだ」
いやらしい笑顔を見せるラバエル。
記憶の中にいたレナさんと、勇者パーティーの精霊使いが同一人物だと、彼はここで知ったようだ。
そう。
全ては偶然だった。
二人の物語と、ラバエルは関係ない。
ただ上手く偽り、騙しているだけだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぅ……」
「気が付いたのね」
「レナさん?」
記憶を見終わった俺は、なぜかレナさんに膝枕されていた。
「何で?」
「何でって、急に意識を失ったのよ。声をかけても起きないから、死んだのかと思ったわ」
「そう……だったんですね」
記憶を見ている間は無意識状態になるのか。
もしかすると、肉体から魂が抜けているとか?
「え、じゃあ寝ている間はずっと見ていてくれたんですか?」
「仕方ないでしょ。さすがに放っておけないわ」
「ありがとうございます」
じゃあレナさんは、今の記憶を見ていないのか。
どうすれば見せられるのだろう。
記憶を共有出来たら……と思った。
お兄さんの気持ちまではわからないけど、少なくともあれはお兄さんじゃない。
それさえわかれば、レナさんの戦う理由も……
「レナさん、やっぱりあれはお兄さんじゃありません。お兄さんの肉体を奪って、利用しているだけで、ラバエルとお兄さんは別人です」
「そんなことわからないでしょ」
「わかるんです。俺は今、レナさんとお兄さんが出会ったことも、ラバエルがお墓からお兄さんの肉体を取り出したところも全部見ました」
「見た?」
「はい。レナさんも見られるはずです。俺はそれが見たいと強く思った。同じように思えばきっと」
確証はない。
ただ直感的にそう思った。
いや、それ以外に方法はないと悟っただけだ。
「お兄さんとの思い出を見たいと、強く思ってください」
「そんなこと……」
「お兄さんの身体を好き勝手に利用されているんですよ? それで良いですか?」
「……怖いのよ」
レナさんはぼそりと口に出す。
「あなたの言っていることが事実だったとしても……私が一緒にいたからお兄ちゃんは死んだの。きっと後悔しているわ。ううん、恨んでいるかもしれない。だから……思い出したくない」
「そんなわけないでしょ」
「え?」
口が勝手に動いていた。
考えるより先に、言葉になってしまった。
二人の記憶を覗いて、幸せそうに暮らす様子を見て、お兄さんの優しさを知った。
「お兄さんは国から圧力をかけられても、お金を差し出されても、レナさんを離さなかったんですよ? そんな優しい人が、レナさんを恨むわけないじゃないですか。お兄さんの優しさは、レナさんが一番よくわかっているでしょ?」
「それは……」
俺に言えるのはここまでだ。
結局は外から見ているだけの俺に、お兄さんの気持ちを代弁することはできない。
代わりに伝えられるなら、今すぐにでも伝えてあげたい。
だけどそれはできないから、レナさん自身が信じるしかないんだ。
もう一度、向き合うしかないんだ。
「お兄ちゃん……」
レナさんが目を閉じる。
閉じた瞳から涙から流れ落ちて、すぅと力が抜けていく。
「レナさん?」
返事がない。
おそらく俺と同じように、記憶を見ているのだろう。
あとは真実を知って、レナさんが戦う理由を見つけられるかどうか。
「だから邪魔をしないでくれるか? 盗人」
「酷い言われようだね。何をしているのかな?」
ラバエルが俺たちを見つけ、目の前に現れた。
俺はレナさんを守るように立ちふさがる。
「思い出してる最中だよ。お前じゃない、本当のお兄さんとの思い出を」
「……なるほど。臨世にある過去の記憶を覗いているのか。ならば知られてしまったかな?」
「ああ。お前はお兄さんじゃない。偶然見つけた墓を荒らして、お兄さんのフリをしているだけの偽物だ」
「その通りだ。いや、もっとうまくできると思っていたが、もうバレてしまったか。まぁ良い、十分楽しめたし、最後は大切なお兄さんの身体で殺してあげよう」
「させると思うか?」
「止められると思うか?」
レナさんが記憶を覗いている間、俺が彼女を守る。
拳を強く握り、盗人と対峙する。






