40.真実を知るとき
アルファポリスでの投稿も始めます。
下記にURL準備しますので、良ければどうぞ(12/18 18時以降)
レナさんを抱きかかえ空中を翔る。
後ろを見たが、どうやら追っては来ていないようだ。
「レナさんしっかりしてください! あんな言葉に惑わされちゃダメです」
「でも……お兄ちゃんが……」
「よく考えてください。もし彼の言う通り最初から魔王軍の幹部だったとしたら、どうしてレナさんと一緒に暮らしていたんですか? 第一今の魔王は誕生したのは二年前です。話の辻褄が合わない」
「……ならどうして、お兄ちゃんは生きているのよ。ネクロマンサーの力まで使えたのよ?」
「……俺の予想ですけど、ラバエルはアービス同様に他人の肉体を乗っ取れるのかもしれない」
それこそ魂を操れるのなら、自分自身の魂を操って、他人の肉体に入り込んだり、死体を依代にすることも出来るんじゃないか?
なくはない可能性だ。
もちろん確証はないけど、それならレナさんのお兄さんとして現れたことも説明できるだろう。
「あいつはレナさんのお兄さんじゃないです。きっと操られて、良いように使われているだけだ」
「……話し方はお兄ちゃんだったわ。雰囲気もそうよ」
「レナさん」
「私は……お兄ちゃんになら殺されても良いのよ。だからもう良いわ。下ろして」
「駄目です!」
ここで離したら絶対に駄目だとわかる。
俺は彼女の身体を離さないように強く抱きかかえ直した。
今の彼女は、自分の過去と目の前に現れたお兄さんの姿に囚われてしまっている。
せめて俺の仮説が正しいことでも証明できれば……
だが俺は彼女たちに何があったのかを知らない。
真実を知る方法が欲しい。
過去を知れるならと、心の底から願った。
すると――
突然、視界が真っ暗に閉ざされた。
何も見えなくなって一瞬のこと。
次に視界が開けた時、俺はどこかの街を見下ろしていた。
見覚えのある街並みで、記憶にも新しかったから、そこがどこなのかすぐに察する。
「ここ……アルギニアの……王都?」
滅んだはずの街にたくさんの人たちが行き交っている。
あり得ない光景を前に俺は思考を止めかける。
これは後から知ったことだ。
臨世はこの世とあの世の狭間の世界。
ここには世界が生まれてから現在に至るまで、全ての記憶、歴史が残されている。
過去を知りたいと願ったことがきっかけとなって、無意識に俺は過去の記憶にたどり着いた。
小さな女の子が路地に座っている。
レナさん?
面影がある。
今よりもっと小さくて、可愛らしい姿だ。
寂しそうに一人で座る彼女に、一人の青年が近寄った。
俺が見ているのは、レナさんとお兄さんの出会い。
そこから二人は一緒に暮らし始めた。
一人ぼっち同士から始まった二人暮らし。
暖かな光景を見せられて、こんな状況だけどホッとする。
幸せそうに笑う幼いレナさんと、優しく微笑みかえすお兄さん。
二人は本物の兄妹みたいに見えた。
「幸せそうだな。本当に」
そんな二人に事件が起こる。
ある日、二人が暮らす家に王国の兵がやってきて、こう告げた。
「ここに精霊の力を持った娘がいると聞いたが、事実か?」
「何のことでしょう?」
「後ろの娘のことだ。精霊の力は強大だ。我々王国で管理させてもらう」
「何のことでしょう、と言ったはずですよ」
しばらくお兄さんと兵士の話は続いた。
口ぶりからしてレナさんを利用しようという気が丸見えだったから、お兄さんも必死に言い返し、その場は何とか乗り切った。
しかし翌日、翌々日と続いて訪問され、しまいには金まで用意し出す。
「いい加減にしてください。お金を出されても、ここにそんな人はいません」
それでもお兄さんは頑なに否定し、お金にも揺らぐことなくレナさんを庇った。
心配する幼いレナさんに、お兄さんは優しく言う。
「大丈夫だよ。俺たちはずっと一緒だから」
「うん」
その言葉に返事をするレナさん。
二人の絆は本物だと、端から見ていても感じられた。
そんな二人の絆は――
一夜にして踏みにじられた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」
「……レ……ナ……」
二人が暮らす家に、王国に雇われた刺客が忍び込んだ。
お兄さんが気付き抵抗して、無残に背中から刺されてしまったんだ。
「い、嫌あああああああああああああああ」
その直後にレナさんは叫んだ。
感情の高ぶりに精霊の力が呼応して、無意識に能力を発動。
刺客を串刺しにして、お兄さんを連れその場を去った。
もう動かないお兄さんの身体を背負って王都を離れ、その遺体を大地の精霊の力で覆い、お墓を作って埋めてあげた。
自分のせいでお兄さんは死んだ。
その言葉の意味がわかった。
精霊の力を欲した王国によって放たれた刺客。
自分が一緒にいなければ、お兄さんが死ぬことはなかった。
庇ってくれたから、お兄さんは殺された。
そう言う意味だった。
だが、ここで話は終わりではない。
続きがある。
レナさんも知らない続きが。






