37.望まぬ邂逅
最初に分かれた地点に向うと、他の四人が集まっていた。
アレクシアが一番に気付いて、パァーと笑顔で手を振りながら名前を呼ぶ。
「エイト君! レナ!」
「ただいま」
「もうーレナ、急にいなくなったから僕も心配したんだよ?」
「そう? 悪かったわ」
ユーレアスさんが意味深に目を丸くする。
「何よ?」
「いや、レナが僕に謝るなんて珍しいと思ってね? 何かあったのかな?」
「別に何もないわよ」
「そうかい? しかし本当に何もなかったね。どこもかしこももぬけの殻だ」
アスランさんとフレミアさんからの報告も聞く。
結果だけ言ってしまうと、俺たちと変わらず、何かが見つかることはなかった。
ただ廃墟となった街並みを散策しただけ。
魔王軍の気配も、モンスターの気配も、もちろん人の気配もない。
「無駄足だったわね。さぁ行きましょう」
レナさんが急かすようにその場を立ち去ろうとした。
その時、トンと足音が響く。
俺たちではなく、正面から聞こえた。
さっきまで誰もいなかった場所に、一人の男が立っていることに気付く。
知らない男だった。
見た目は優しそうな人間の男だ。
こんな場所に人間が一人でいるはずもない。
俺たちは即座に戦える姿勢をとる。
ただし一人だけ、漠然と立ち尽くしていた。
そう、レナさんは知っている。
目の前にいる彼が誰なのか――
「もう行ってしまうか? レナ」
「お兄……ちゃん?」
「ん? 何だレナの知り合いだったのかな?」
「驚かすなよ」
「……違いますよ」
ユーレアスさんとアスランさんが気を抜きかけた。
レナさんは何も言えないくらい驚いている。
だから俺が、代わりに言った。
アレクシアが俺に尋ねる。
「どういうこと? エイト君?」
「レナさんのお兄さんは、ずっと昔に亡くなっているはずなんだ」
「え、じゃあ……」
目の前にいる彼は誰なんだ?
俺はレナさんから話を聞いただけで、お兄さんの顔は知らない。
でも、レナさんの口から、お兄ちゃんと聞こえたのは確かだ。
顔は思い出せないなんて言っていたけど、あれは真実じゃなくて、何か別の理由だったのかもしれない。
「嘘……何でお兄ちゃんが……いるはずがない!」
「落ち着きなさいレナ」
ユーレアスさんが続けて言う。
「エイト君の話から推察するに、彼が本人だとするなら、この場合答えは一つだ」
俺は廃都に着く前、ユーレアスさんから聞いた情報を頭に浮かべた。
この国を滅ぼした魔王軍の幹部ラバエル。
その能力は……死者の魂を操るネクロマンス。
「じゃあ、レナさんのお兄さんは……」
「おそらくラバエルの降霊術で無理やり生き返らされたのだろうね」
「残念ながらそれは違うよ」
ユーレアスさんの予想を否定したのは、レナさんのお兄さんだった。
「そうかい? 当たっていると思うけど」
「いいや。そこにいる彼女、白魔術師だよね? 彼女なら気付いているんじゃないかな?」
「……」
「フレミア?」
「はい。おかしいのです。もし降霊術でよみがえったのなら、彼はアンデッドであるはず。それなのに彼の身体からは、死の香りがしません」
白魔術師の中には、アンデッドの気配を感じ取れる者がいる。
フレミアさんの感知は、どの白魔術師よりも優れていた。
その彼女が言っているのだから、間違いないのだろう。
少なくとも、目の前にいる彼はアンデッドではない。
アレクシアが疑問符を浮かべて言う。
「つまり、実は生きてたってこと……なの?」
「そんなことありえないわ。お兄ちゃんは死んだはずよ。だって……」
「そうだね。信じられないのも無理はないさ。何せ俺を見殺しにしたのはレナ、君なんだから」
「っ……」
「見殺しに?」
お兄ちゃんが死んだのは、私の所為なんだから――
その言葉が脳裏に過る。
「だが安心してくれ。見ての通り、俺はここにいる。生き返ったり死んだりは十八番なんだよ」
「どういう……」
「まだわからないのかな? 俺がラバエルだと言っているんだ」
「なっ……」
明かされた事実に衝撃を受けて、俺は口を大きく開けっぱなしにした。
一番驚いているのはレナさんだろう。
信じたくない。
嘘だと言いたげに、泣きそうな表情で彼を見つめていた。






