4.俺に任せてください
リッチー討伐の協力してほしい。
という姫様のお願いを理解した俺は、姫様からの確認の声に――
「やって頂けるでしょうか?」
「もちろんですよ」
気前よく答えた。
すると、姫様はとても嬉しそうに、にこやかにほほ笑む。
「ありがとうございます。やはりエイトは優しい心の持ち主ですね。困っている人を助けることに躊躇がない。それはとても素敵なことです」
「いやいや、ほめ過ぎですよ。まだ何もしていませんから」
それに実際、元を正せばリッチーを野放しにしている原因は俺にもある。
いや、原因なんて言いたくはないし、彼らの不始末を俺の所為というのもおかしな話だ。
それでも仮に、俺がまだ彼らと一緒にいたのなら、姫様がこんなにも困ることはなかったはずだ。
姫様の笑顔を前にすると、何だかそういう申し訳なさがこみあげてくる。
「ありがとうございます。では報酬のお話も先にしておきましょう」
「報酬? 貰えるんですか?」
「当然です。これは王国から直接の依頼ですので」
「な、なるほど」
王国からの依頼。
改めてそう言われると、より緊張してしまう。
「報酬は四千万ルナを用意いたします」
「よ、四千万?」
「足りませんか?」
「いえいえいえ! 十分すぎるくらいですよ」
四千万ルナもあれば、一年は贅沢して遊んで暮らせる。
冒険者にくるSランクの依頼より報酬が良い。
ルミナスエイジが受けた依頼だって、確か半分以下だったはず……
冒険者ギルドの仲介があるし、参加できるパーティーも一つじゃないから、その分減っているとは言え、それでも十分高額報酬だと思っていたのに。
「それとは別で、何か必要な物はありませんか?」
「四千万も貰えれば十分ですよ」
「いいえ、これはリッチーの討伐の報酬ではなく、私たちを助けて頂いたお礼の話です」
「あ、ああ……そういう……」
「はい。何かありませんか?」
そんな急に言われてもなぁ~
四千万ルナさえもらえれば十分すぎるし、冒険者やってるのが馬鹿らしく……ん?
そうだ、そうだよ。
丁度良いかもしれない。
「じゃ、じゃあ一つ! お願いというか、提案なんですが」
「はい。何でしょう?」
「他に依頼とかってありませんか? 俺の付与術が役立ちそうな」
「依頼、ですか?」
姫様は意外そうな顔を見せている。
そこで俺は、正直に言えることを口にする。
「じ、実は恥ずかしながら……働く場所を探していて」
「そうだったのですか? でしたら、宮廷付与術師として、王宮で働くというのはどうでしょう?」
「え、いいんですか?」
「はい。お父様が隣国との会談で不在なので、私から推薦する形になると思いますが、リッチー討伐が達成されれば十分な成果です。お父様も認めてくださるでしょう。それでもよろしければ」
「ぜひお願いします!」
王宮で働けるなんて願ってもないチャンスだ。
冒険者を続けているより確実に儲けも良い。
元々冒険者になったのも、多少の憧れはあったものの、本音を言えば一獲千金を狙ってのことだったし。
「精一杯頑張ります!」
「はい。エイトなら成し遂げられると信じております」
何より姫様なら、俺の力をちゃんと評価してくれそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王城の敷地内には、騎士団の訓練場が設けられている。
そこに集められた騎士たち。
今回のリッチー討伐に参加するのは、ここに集まっている三百人だ。
本当ならもっと大勢で挑みたいところだが、さすがに全員分の装備に付与を施そうと思うと、俺の魔力が足りない。
三百人でもかなり頑張ったほうだぞ。
「エイト殿、よろしく頼む」
「は、はい!」
作戦にはロランド騎士団長も参加する。
王国最強の騎士と名高い彼の前に出ると、姫様と話していた時以上に緊張を隠せない。
特に今は、集まった三百人の視線を集めているから余計に。
「えーっと、騎士団の皆さん! 俺は付与術師のエイトです。今皆さんの剣には『不死殺し』の効果が付与されています。その剣であればゾンビはもちろん、リッチーでも殺せます」
おぉーと声が上がる。
緊張するけど、これはこれで気分が良いな。
「出発前に質問があれば教えてください」
俺がそう言うと、手前にいた騎士の一人が手をあげた。
「どうぞ」
「この付与に制限はあるのだろうか?」
「ありません。付与が二つ以内であれば、書き換えたり破壊されない限り続きます」
「それは凄いな……」
「ああ。確か付与術というのは、強力な効果ほど制限があったはず。『不死殺し』ともなれば相当な制限があると思っていたが……さすが姫様がお選びになった方だ」
え?
そんな制限なんてあったのか?
今までいろいろな付与を試したけど、特に制限なんてなかったぞ。
強いて言えば一つの物に付与できる効果の数くらいだ。
やっぱり俺の付与術って、普通より強力なのかも。
「他にないか?」
ロランド騎士団長が全員に問う。
質問の声は新たに上がらない。
団長は頷き、続けて指示する。
「では行くぞ! 悪しきモンスターを退け、王国に真の平和を!」
「おー!」
さぁ、俺も頑張らなきゃな。
姫様の期待に応えるため。
そして一応、元パーティーメンバーの不始末をつけるため。
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