35.廃都アルギニア
迫りくるモンスターを危なげなく倒した勇者パーティーの面々。
頼りがいのある仲間たちと共に、俺たちは悪魔領を進んでいく。
戦いの跡が残る道を歩きながら、ボコボコになった地形を眺めてアレクシアが言う。
「地形めちゃくちゃになったね」
「そうだね。大丈夫なのかな?」
「元からよ。気にしてたらやっていけないわ」
レナさんがしれっと答えた。
ボコボコになった原因は、レナさんのゴーレムが派手に暴れたからなんだよな。
「レナは見かけによらず豪快だからね~」
「何? ユーレアス、あなたも潰してほしいのかしら?」
「いえ結構です」
「遠慮しなくて良いのよ? 綺麗に平らにしてあげるわ」
「本当に結構です」
レナさん……目が本気なんだよな。
ユーレアスさんが近寄ってきて、俺の耳元でささやく。
「君も怒らせないように注意したまえ」
「そうですね」
主に怒らせてるのはユーレアスさんだけな気もするけど。
そうこうしている内に、道らしい形をした通りに出る。
俺たちではない戦闘の跡が残り、人が行き来していた形跡もあった。
「そろそろ、例の滅びた大国……アルギニアの王都に着くね」
「……」
「ん? どうかしたかい? レナ」
「何でもないわよ。行きましょう」
何でもないと言いながら、レナさんは何か考え事をしているように見えた。
ユーレアスさんにも違和感は感じ取れたと思うけど、聞き返すこともなくその場は流れた。
俺も質問はしなかったけど、少しだけ……レナさんの表情が、悲しんでいるように見えたから、印象には残った。
しばらく進むと、数軒の建物が見えてきた。
何の建物だったのかはわからない。
壊され、崩れてしまっていたから。
そのさらに奥へ進むと、見えてくる。
滅びた都が。
「ここがアルギニアの王都、だった場所だ」
「思ったより……」
「そうだね。予想していたより原型をとどめている。むしろ魔王軍に攻め入られたにしては綺麗な方だ」
建物が形を残している。
王都を囲っていたであろう外壁は破壊されているけど、中の街並みはボロボロというほどでもなかった。
ユーレアスさんの言う通り、綺麗なほうなのだろう。
それでも戦いの爪痕は残っている。
いやむしろ、中途半端に形が残り、人が一人もいない惨状が悲しさを増している。
色鮮やかだった風景が、白と黒の単調な色に変わってしまったような。
命が抜け落ちてしまったようにも見える。
「廃都……か」
この街はもう、死んでいるのだと思う。
「念のために調べておこうか」
「うん! もしかしたら、生き残った人が隠れてるかもしれないよ!」
「そうだね」
たぶんいないと思うけど、とユーレアスさんは小さな声で呟く。
俺もいないと思う。
抜け殻になった街並みを見て、漠然とそう感じた。
王都は広い。
そこで二人一組に分かれ、廃都の中を散策することにした。
俺はアレクシアと一緒に、レナさんとユーレアスさん、アスランさんとフレミアさんという組み合わせで。
「この辺りは商店街だったのかな?」
「だと思うよ」
「賑やかな街だったんだろうな~」
「うん」
お店の看板だったものが転がっている。
椅子や机も残っている物はそのままで、人は誰もいない。
風が吹き抜ける音と、俺とアレクシアの足音だけが聞こえる。
「人……いなさそう?」
「うん」
「まぁ仕方ないさ。滅んだのが数日前、とかなら希望もあっただろうけど」
「そうですね……ってあれ? ユーレアスさん?」
「そうだよ」
なぜか一緒についてきている。
自然と会話に入られたから、一瞬違和感もなかった。
「なんでいるんですか? レナさんは?」
「いや~ 実は彼女急にいなくなっちゃったんだよ」
「「え!?」」
俺とアレクシアの声が重なった。
ユーレアスさんはヘラヘラ笑いながら言う。
「途中まで一緒だったんだけど、眼を離したらもういなかったんだよ」
「い、いなかったって……探したんですか?」
「うん。その途中で君たちを見つけたんだ。僕はあんまり人探しは向いていないんだよ。まぁ彼女なら一人でも大丈夫だと思うけどね」
「そういう問題じゃ……」
この人は本当にマイペースというか。
いなくなったレナさんもだけど、強い人って危機感も薄いのかな。
「俺が上から探してみます。二人はそのまま探索を続けてください」
「了解した!」
「エイト君気を付けてね」
「ああ」
ブーツに付与した空中歩法を発動させ、空気を蹴り飛び上がる。
「おぉ~ 付与って便利だね~ 僕も今度何か付与してもらおうかな?」
「それならボクが先だよ!」
「むむ! 先に言ったのは僕だからね?」
ギリギリ聞こえてきたが、何を言い合ってるんだが……
さて、どこにいるかな?
「『視力強化』」
文字通り目を凝らして探してみる。
視力強化は遠くまで見えて便利だけど、あとで目が痛くなるんだよね。
「う~ん……いない。あ、いた!」
運よくすぐに見つけられた。
レナさんは二階部分が倒壊した一軒の家の前に立っている。
「レナさん!」
「ん? あらエイト、どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ。何で勝手にいなくったんですか?」
俺は彼女の隣に降り立ち尋ねた。
すると彼女は徐に、壊れた家を見つめる。
「あの、もしかしてレナさん、この街に住んでたとか?」
「よくわかったわね」
やっぱりそうなのか。
「この家に住んでた?」
「そうよ。お兄ちゃんと二人で……」






