34.最高に頼もしい
王国最強の槍使いアスラン。
レナさんの作った足場を駆使して、空中を跳び回る。
華麗な槍さばきでグレムリンの群れを手玉に取り、グレムリンが展開した魔力障壁を、いともたやすく貫通して見せた。
「アスランの魔槍ゲイボールクはね? 簡単に言うと、ただ鋭いだけの槍なんだ。絶対貫通の効果が付与されていて、どんな防御も突破できるの」
アレクシアが教えてくれた。
魔剣、魔槍、魔弓と呼ばれる魔法の武器には、特殊な効果が付与されている。
属性効果を持つ物も多いが、ゲイボールクの場合は属性効果を持たない代わりに、絶対貫通という強力な効果が付与されていた。
どんな防御も障害も、彼の槍の前では無意味とかす。
もっとも効果そのものは直接的で、結局は使用者本人の力量に大きく左右される。
「槍が凄いんじゃなくて。強力な槍を使いこなせるアスランさんが凄いってことか」
「そういうことだね!」
俺たちが話している十数秒の間に、三十体近くいたグレムリンは残り数体まで減っていた。
すでに勝利したも同然だ。
アスランさんは戦いながら、ユーレアスさんたちに言う。
「おいお前ら! いい加減そっちも動け。ギガントは特に近寄られると面倒だぞ」
「はいはい」
レナさんが前に出る。
ギガントが一歩踏みしめる度に振動して、フラフラとよろけそうになる。
あの巨体に一人で挑むつもりのようだ。
パーティー内では一番小さいレナさん。
大きさの差は圧倒的だが……
「じゃあせっかくだし、大きさ比べでもしましょうか?」
不敵に笑い、地面を蹴る。
足元の地面が盛り上がり、その衝撃でレナさんがジャンプした。
そのまま俺たちとは離れた場所に着地。
着地と同時に地面が抉れ、大量の岩が集まり膨れ上がる。
レナさんは精霊使い。
契約しているのは大地の精霊で、周囲の地形を操れる。
その力を行使し、周囲から岩を集めて作り上げたのは、ギガントと同じ巨体のゴーレムだった。
「さぁ、大きさはこれで一緒くらいかしら? 今度は力比べね」
そう言ってゴーレムを動かす。
大きく振りかぶった腕。
対するギガントも拳を握り振りかざす。
拳と拳がぶつかりあった瞬間、突風が周囲を襲う。
その突風は周囲の地形を破壊し、岩をも吹き飛ばすほど。
「心配はいりません。この中にいれば衝撃は届きませんので」
フレミアさんの結界に守られている俺たちには被害がなかった。
「うおっ――あっぶねぇな!」
「え? 何か言ったかしら?」
「あいつ……絶対わざとやってるだろ……」
グレムリンと戦っているアスランさんは吹き飛ばされそうになっていたけど。
今の衝撃で足場も破壊されたが、ちょうど最後の一体を倒していたので問題はなさそうだ。
「はっははは! あっちは派手だね~ なら僕も、少しばかり格好良くいこうかな?」
ユーレアスさんが相手にするのは黒いドラゴン。
数種いるドラゴンの中でも強力な個体。
一匹に街を火の海にされたとか、良くない話も聞いたことがある。
「う~ん、どうしようかな。僕はドラゴンって格好良くて好きなんだけど、あの形じゃないんだよね~」
「ユーレアスが何か言ってるね」
「うん。好きとか形とか聞こえたけど」
「好き? え? ユーレアスさん……もしかしてドラゴンも……」
フレミアさんが引き気味で言う。
ハッキリと聞こえない距離だったが、その視線を感じ取ったユーレアスさんが振り返る。
「不名誉なこと言われているよね? 違うからね!」
やれやれと言いながら正面を向く。
すでにドラゴンは顎を広げ、ブレスを放つ体勢になっていた。
「ん?」
「ユーレアスさん!」
漆黒のブレスが放たれる。
が、ブレスは純白の障壁によって阻まれた。
「おっと、ありがとうフレミア、助かったよ」
「ちゃんと集中してくださいね」
今のをあっさり防御できるのか。
さり気に凄いことしたな、フレミアさん。
「いけない、これはいけない。このままじゃ情けない男だと思われる。そろそろ始めよう! 楽しい魔法の実験だ」
ユーレアスさんの目が本気になる。
右手を上にかざし、大きな魔法陣を展開。
「僕が好きなドラゴンはね? 昔話に登場する大きな蛇の形をしているんだ。あっちは天の使いと言われているね。そう、こんな形」
雷+炎+風の魔法陣。
それを一つに重ねて発動した魔法によって、天から雷が降り、形を変えて炎と風が混ざり合う。
青白い光を放つエネルギーと化し、蜷局をまく龍へと。
「複合魔法――ドラゴンストライク」
青き龍が顎を開き、漆黒の竜を飲み込んだ。
「うん。これでよし!」
「……はははっ、ドラゴンを一撃で」
その直後にギガントが倒れ込む。
レナさんのゴーレムが、倒れたギガントを殴り潰していた。
どのモンスターも強敵で、冒険者ならSランクパーティーが相手でも厳しいとされている。
それを各個撃破してしまえる。
余裕を残して。
こんなに頼もしい仲間が他にいるだろうか?
「アレクシア」
「ん?」
「俺……とんでもない人たちの仲間になったんだな」






