33.悪魔領突入
悪魔領。
その名の通り、悪魔が支配する領土のことを指す。
厳密に区切られているわけではなく、国境に比べて境は曖昧だが、年々その領土は拡大していた。
もっとも新しい記録では、大陸の西にあった国の一つが、魔王軍によって滅ぼされたという。
「もう少し行くと、滅びた王都があるはずだよ」
「確かアルギニア王国、でしたよね? かなり大きな国だったと聞いていますが」
「そうだよ。軍事にも力を入れていた。でも立地が悪かったし、何より相手が悪かった。幹部が直接攻め込んできて、三日と経たずに占領されてしまったそうだよ」
たった三日で、一つの国が滅ぼされたのか。
それを聞いてごくりと息を飲む。
「その幹部って、今まで倒した中にいたりしますか?」
「いいや。まだ戦ったことのない相手だ。名前と能力は知っている。ラバエル……死者の魂を操るネクロマンサーだね」
魔王軍幹部の一人ラバエル。
その名はしっかり覚えておこう。
もしかすると、この先で待ち構えている可能性だってあるからな。
「そう気負わなくていいよ。というより、幹部ばかりに注意してられない」
「え?」
「だってここは悪魔領だ。世界中探しても、ここより危険な場所はないんだよ。ほら――」
ドシンドシンと地響きが鳴る。
俺たちが進んでいたのは、大きな岩がゴロゴロと転がっている道なき道だった。
岩の大きさは二、三メートルくらいだろう。
その岩を踏み砕き、進んでくるものがいる。
「な、何だあれ」
「ギガントだね、あれは」
冷静に言うユーレアスさんだが、俺はなぜ落ち着いていられるか疑問だった。
何せその巨体は、首を動かさないと頭部が見えない程大きかったから。
「噂以上の大きさと迫力だね」
俺とアレクシアが武器を構えようとする。
「二人は戦わなくていいよ。昨日の戦いの後で、まだ万全じゃないだろう?」
「え、でも」
「ボクなら大丈夫だよ!」
「いいから、ここはオレたちに任せろ」
アスランさんが槍をくるっと回転させる。
「おや? 他にもいるね」
「ああ。グレムリンだな」
羽の生えた人型モンスター。
グレムリンは下級の悪魔で、言葉を発するほどではないが知性がある。
見た目は背の高い羽の生えたゴブリンみたいだけど、その実力は比にならないという。
「もう一体いるね。あっちはわかりやすい」
「黒竜か」
漆黒の鱗を纏ったドラゴンが、グレムリンの奥にいる。
「グレムリンも結構多いな。三十くらいか」
「そうみたいだね? どうする?」
「構わねぇよ。小さいのはオレ一人で十分だ。そっちは任せるぞ」
「ではレナ、一番大きいのは任せるね? ボクは黒い方を何とかするから」
「仕方ないわね」
はぁとため息をこぼすレナさん。
その横でアスランさんが槍を構えて言う。
「レナ、適当に足場作っておいてくれ」
「一人で十分じゃなかったの?」
「揚げ足とるなよ。頼むぞ」
「はいはい」
ダルそうにするレナさんだったが、ようやくやる気になったようだ。
彼女が右足をドンと踏みつけると、周囲に岩の柱が生成される。
「これでいいかしら?」
「おう。そっちは任せるぞ」
「任された」
「お二人は私の後ろにいてください」
「わかりました」
フレミアさんの後ろに立つ。
彼女は白魔導士。
回復や支援を得意とする。
「守りの障壁よ」
フレミアさんが詠唱を唱えると、俺とアレクシアを覆うように白い結界が生成された。
「あ、あの! 俺も支援できます!」
「大丈夫さ」
「ああ。昨日の戦いは役に立てなかったからな。一回そこで見とけ」
アスランさんが槍を構える。
「いくぜ」
次の瞬間、俺の視界からアスランさんが消えた。
ドンドンと地面を蹴る音が連続で聞こえて、気が付けばグレムリンの中へ。
あっという間に刺し殺し、グレムリンたちが驚愕している。
「は、速……」
「アスランの速度はボクより上だからね! 本気になった彼を捉えることは出来ないよ。見てろって言われたし、大人しく見ていよう」
「ああ」
勇者パーティーの面々。
その実力を、この眼で見ることが出来る絶好の機会。
特等席で観戦できるなんて夢のようだ。






