32.隠されたスキル
一夜を過ごし、散々からかわれた俺とアレクシア。
ユーレアスさんも満足したのか、一先ずその話題は終わってくれた。
「さぁて、そろそろ出発する時間だね」
「そうだね! もう悪魔領は目の前だ!」
「うん。ただその前に一つ確かめておきたいことがあるんだ」
「確かめたいこと?」
アレクシアが首を傾げる。
ユーレアスさんは得意げな顔をして、俺のほうへ目を向ける。
「エイト君」
「はい」
「君、自分のスキルとかって確認したことあるかい?」
「スキルですか? まぁ以前に一度だけ」
千里眼、能力透視、加護など。
生まれ持ってその身に備わっている特殊な技能のことをスキルと呼ぶ。
アスタルが使用していた魅了もスキルの一つだ。
スキルが備わっている者は大半は、感覚的に自分のスキルを認識している。
それ以外の確認方法として、特殊な魔道具を使うことで自らのスキルを確認することも出来る。
冒険者時代に一度だけ、それを試したことがあった。
結果は今の俺を見てわかる通り、スキルは持ち合わせていない。
「残念ながら俺にスキルなんてありませんでしたよ。付与術だけでも使えてラッキーでしたね」
「その付与術だけどね? 前にも話した通り、君のそれは明らかに異常なんだ。もしかすると、ただの付与術ではないのかもしれない。あるいは他の何かがあって、付与術に影響しているのかも」
「はぁ、なるほど?」
あまりピンとこない。
「そこで良い物があるんだよ」
そう言ってユーレアスさんは、金属で出来た手のひらサイズのプレートを取り出した。
表面はツルツルで、自分の顔が見えるほど。
枠の部分に難しい文字が刻まれているから、おそらく何かの魔道具だろう。
「これは?」
「さっき村の女性陣から貰ったものだよ。もとはアスタルという悪魔の持ち物だったらしいけど」
「え!?」
アスタルの持ち物?
「それ大丈夫なんですか?」
「うん。これ自体は危険な物じゃないからね」
ユーレアスさんがそう言い切るのだから、危険はないのだろうと思う。
ただアスタルと対峙した俺にとっては、一抹の不安が消えない。
「何なんですか? これ」
「スキルを確認できる魔道具だよ。しかも隠れスキルまでわかる優れものだ」
「隠れスキルって?」
「表に出ていない隠されたスキルだよ。言葉通り、普通の方法じゃ確認できない。ただ稀に、効果が何らかの影響で出ている者もいるんだ。君の場合はたぶんだけど、それなんじゃないかなと予想しているよ」
隠されたスキル……
俺の中に、そんなものが眠っている?
言われてもピンとこないし、そんなことないだろうと思う。
少なくとも昔の自分なら、絶対にないと言い切っていたかもしれないけど、今は少しだけ期待もしてしまうんだ。
「どうやって使うんですか?」
「手をかざすだけだよ。しばらく待てば、表の鏡みたいになっている面に映し出される。やってごらん」
「わかりました」
言われた通りに手をかざす。
期待半分、疑い半分。
そして、プレートに文字が浮かび上がった。
「悪魔が使っている文字だね。えーっと」
ユーレアスさんがプレートを覗き込む。
俺には読めないけど、ユーレアスさんには読めるのだろうか。
いや、それよりも何か浮かび上がったということは、つまり俺には隠されたスキルがあったということになる。
わかった途端、鳥肌が立つくらい興奮した。
「ふむふむ、なるほどそういうことか。だから君の付与術は……」
「なんて書いてあるんですか?」
俺が尋ねると、ユーレアスさんは微笑み目を合わせてくる。
すぐには答えてくれなくて、もったいぶるように間をあけてから口を開く。
「エイト君、やはり君はすごい才能を秘めていたよ」
才能という言葉に、俺の全身がビリっと震える。
疑問が消えて、期待だけが高まる。
「君が持っていたのは『言霊使い』のスキル。言葉のままに現実を歪めること可能な……恐ろしく強力な力だよ」
「言霊……使い」
初めて耳にするスキル名だった。
ユーレアスさんの口ぶりからして、強力なスキルであることは伝わる。
すると、スキル名にアスランさんとレナさんが反応を示す。
「言霊使いだと? それって確か」
「ええ。魔王も持っていると言われているわね」
「魔王がですか?」
「はい。魔王の発する言葉には、相手を従わせる力があるそうです」
フレミアさんが話してくれた。
言霊使いのスキルとは、言葉そのものに魔力を込めることで、発した言葉通りの現象を発生させる力のこと。
例えば、言霊で動くなと発言すれば、それを言われた対象は動けなくなる。
「絶対の命令権。この力の恐ろしい所は、最悪死ねと言えば弱い相手なら殺せることだよ」
「そ、そんなことできるんですか?」
「うん。まぁそう簡単じゃないけどね? 相手との魔力差があると効果が薄れるみたいだし、強い言葉を使えば、それだけ負担も大きい」
今まで俺は、この力を無意識に付与術と掛け合わせて使っていたようだ。
だから離れた対象にも言葉一つで付与が出来た。
それに付与術そのものの効力も、言霊のスキルで強化していたのだろうと、ユーレアスさんは言っていた。
「試しに何か言ってみたら?」
「あっ! それならボクに命令してみてよ! 何でもいいよ!」
「アレクシアは駄目だね。言霊なんてなくても、彼の言うことなら聞いちゃいそうだから」
「むぅ~」
アレクシアが可愛らしくむくれている。
「じゃあレナさんにしよう! そうだな~ 普通なら絶対に断られることがいいね。例えば……そう! パンッ――ぶっ!」
「ユーレアスさん!?」
彼の顔面にレナさんのキックが炸裂した。
レナさんがチラッとこちらを見て、ニッコリと笑顔で言う。
「わかってるわよね?」
「……はい」
言霊なんかより、この笑顔のほうがよっぽど怖いと思った。






