30.昨日はお楽しみでしたね
アスタルを倒したことで結界は解除された。
周囲を覆っていた霧も消滅した。
俺とアレクシアはクタクタの足で頑張って歩き、大きな木の下で倒れている女の子の元へ戻った。
気を失っていたけど、魅了の効果は解除されている。
感覚鈍化を付与して、しばらく経てば目を覚ますだろう。
「俺が負ぶるよ」
「うん。よろしくね」
そのまま村へ戻る途中で、慌てた様子のユーレアスたちと合流した。
歩きながらフレミアさんの治療を受け、ことの顛末を話した。
「なるほど、まさか幹部が出張ってきていたとは、油断したね」
「すまなかったな、大事な時に一緒に戦えなくてよ」
「ううん、大丈夫。エイト君が一緒にいてくれたから」
アレクシアが微笑みかけてくる。
俺もそれに返す様に笑って、彼女に言う。
「俺も助けられたよ。お互い一緒で良かった」
「うん。守ってくれてありがとう。戦ってるエイト君、とっても格好良かった。えへへ」
頬を赤らめるアレクシアを見て、可愛いなと素直に思う。
彼女は勇者だけど、やっぱり女の子だ。
そんな俺たちをじーっと見つめる視線に気づいたのは、数秒後のことだった。
「何だか良い雰囲気だね」
「そ、そうですか? それより村は大丈夫だったんですか?」
「ん? ああ、結界が張られてすぐ、女性陣が暴れ出したけど、僕の魔法で眠らせたから安心してくれたまえ。その後で結界に来てみたら、術者を倒さないと開けられない種類で参ったよ」
「そうだったんですね。村の皆さんの魅了も解けているでしょうし、無事でよかったです」
「こちらのセリフだよ。本当に無事でよかった。それとエイト君、アレクシアを守ってくれてありがとう」
「いえ、仲間ですから」
村に戻ると、女の子も目を覚ました。
眠っていた女性陣も目を覚まして事情を説明したが、どうやら魅了されていた時の記憶は曖昧らしい。
何かにとりつかれていたようだったと言っていた。
それから何度も謝罪されて、気にしなくて良いと返す件を散々やって、結局はその日は一泊することになった。
宴をやり直そうという話が出たけど、さすがにヘトヘトだったから断って、寝床を貸してもらった。
空いていた部屋は四つ。
頑張った人が広く使えば良いとユーレアスさんが提案し、他のみんなも同意して、俺とアレクシアは一部屋ずつ借りることになったわけだが……
「一人も逆に落ち着かないな」
昔の俺だったら平然と寝ていたと思う。
ついさっきの出来事が激しすぎたことも理由だろう。
身体は疲れているのに、目はパッチリ開いてしまっていた。
するとそこへ――
「エイト君」
「アレクシア?」
「うん。あの……入ってもいいかな?」
「ああ」
何か用だろうか?
アレクシアが扉を開けて入ってくる。
重たい金属の防具類は脱いで、寝るときのラフな格好だ。
寝間着とは言えないだろうけど、ラフな格好をしたアレクシアは初めて見る。
「お邪魔してごめんね? 起こしちゃったかな?」
「いいや、実は全然眠れなくてどうしようかと思ってたところ」
「そうなんだ」
「アレクシアも?」
「うん。それもあるけどね」
話しながらアレクシアは、俺の前にちょこんと座る。
それから改まって――
「エイト君、ボクを助けてくれてありがとう」
お礼を口にした。
「それはもう散々聞いたよ」
「うん。でも、何回も言いたかったの。あの時は本当に怖くて、涙も止まらなかったんだ。体中が変になって、嫌な夢も見せられて……そんな時、エイト君が言ってくれたでしょ? 俺はここにいるよって」
「ああ」
「すっごく嬉しかったし、安心したんだ。心の底から、勇気が出るみたいだったよ」
「そうか」
それは良かった。
ただの言葉でしかないけど、ちゃんと伝わって、彼女の力になれていたのなら十分だ。
「気持ちは受け取ったよ。もうそろそろ寝たほうが良い。ちゃんと寝ないと、明日からに支障が出る」
彼女と話して安心したからなのか、俺も少し眠気が襲ってきた。
「ま、待って! まだ終わりじゃないの。も、もう一つあって」
「もう一つ?」
「うん。あのね……ボク、夢の中で……いろんな人にお、襲われて……。まだ覚えて……消えてくれないの」
アスタルが施した悪夢。
そういえば、あいつがそういう夢を見せたと言っていたな。
心は回復しつつあるようだが、見せられてしまった悪夢は記憶として、彼女に残ってしまっているようだ。
「だ、だからね? え、エイト君に……し、してほしいなぁって」
「……へ?」
思わぬ一言に驚いて、俺は聞き返す。
「な、何だって?」
「だ、だから! ボクと一緒に寝て、それでその……恥ずかしいよぉ」
「うっ、な、何でそうなったの?」
「ら、乱暴されたこと消えないから。エイト君にしてもらえたら、全部忘れられると思うの」
どういう話の辻褄だ?
つまりあれか?
上書きしろとでも言いたいのか彼女は。
「駄目だよそんなの。そういうはほら、好きな人とじゃないとさ」
「ボク、エイト君のこと好きだよ」
「え……」
「助けられた時から、胸の奥がドキドキってするの。これは好きってことだよね?」
俺に聞かれても困る。
「エイト君は……嫌、なの?」
「い、嫌ではないよ」
俺だって、アレクシアのことは嫌いじゃない。
一緒に戦って仲間意識もあるし、守ってあげたい気持ちもある。
それに最初から、可愛い女の子だとも思ってた。
だけどいきなりだし、空気に流されているような気もして、理性が抑え込もうとあがいている。
「エイト君、ボクのことエイト君でいっぱいにして」
潤んだ瞳で迫られて、理性が弾ける音がした。
俺は自分が、自制のきく人間だと思っていたけど、どうやら俺も男の子らしい。
可愛い女子に迫られたら、理性の敗北は防げなかった。
その翌日。
「「「「昨日はお楽しみでしたね」」」」
他の全員にしっかりバレていた。
恥ずかしくて死にたくなったよ。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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